妙見菩薩の黄金色(みょうけんぼさつのこがねいろ) その5
若殿が腰に手を当てフフンと鼻で笑い
「お前たちの計画を話してやろう。そこの女は尼ではなく、ケチなコソ泥だ。お前はまず尼寺に忍び込み、頭巾と墨染の裳付衣と袈裟を盗み、尼に変装した。ついでに金色に光る鈴を何本も盗んだ。普通の法事に何本もの鈴を持っていく尼はいない。どうやらお前は金色に光るものに目が無いようだな。路の真ん中で金色に光るものが埋まっているのを目にしたお前は、通行人の目を盗んでそれを掘り出すことができず、座り込み、人が去れば掘り出そうと考えた。
この金色に光る青銅製の箸の一部が見えたのを、近頃、雑物から盗み出された砂金と勘違いしたんじゃないか?
お前たち泥棒の情報網では、どこかに埋めたという情報があったのか?
だが残念ながらお前が寺から盗んだ金剛鈴も宝珠鈴もその他全て青銅製だ。
錫の含有量が中程度の真新しい青銅は金のように黄金に輝くから金製だと思ったのかもしれないが。
そして、この金色の箸ももちろん真新しい青銅製だ。残念だったな。」
若殿が大声ではっきりと話してくれたので全部聞こえた。
なるほど~~~!
金色でも金じゃないのね!!
でも!最大の疑問がっ!!
思わず大声で若殿に話しかけた
「そこの尼?に亀が下にいることを知ってたのか聞いてください~~~!妙見菩薩並みの神通力があるかどうかをっ!」
私の声が聞こえたのか、女が気を取り直したように
「そ、そうよ!私は泥棒なんかじゃないっ!!本当の尼よっ!!修行するうちに亀の声が聞こえるようになったの!授かった神通力で、亀が助けを呼ぶ声が聞こえたっ!!泥棒だなんて無礼な事を言わないでっ!!」
って必死で叫ぶのが聞こえた。
・・・・けど、数珠も経典も持ってなかったし
やっぱりコソ泥でしょ?
亀は冬眠してただけだし。
女の取ってつけたような言い草に、ガッカリして
『やっぱり神通力なんてこの世に無いんだなぁ』
と肩を落とした。
若殿は腕を組み、めんどくさそうな口調で
「まぁいい。今のところ大きい犯罪はしてないようだから、寺から盗んだ物を全て返せば見逃してやる。尼寺と言えばここから一番近いxx寺だな?」
コソ泥女は仲間の男と顔を見合わせ、目で合図すると、袂の中からゴロゴロと何本も鈴を下に落として、袈裟と裳付衣をさっさと脱ぎ、頭巾をつかみ取ると、小袖姿になった。
仲間の男が顎をしゃくり
「行こうぜっ!!」
合図すると、二人で小走りで立ち去った。
ん?
若殿が悪人を見逃すなんてめったにないこと!
なぜ?
ちょっと考えるとピンときた。
宇多帝の姫がいるので、泥棒たちを連行するのは、反撃されたりすると危険!だと思ったのかな。
姫はとなりで私の袖をずっと握りしめてた。
門から外へ出るのはほぼ初めてだろうから、怖かったんだと思う。
姫と一緒に若殿のそばに駆け寄り、ピカピカ金色に輝く数本の鈴や衣を見る。
う~~~ん。
結構な犯罪だと思うけど?
大きい犯罪じゃないって?
ホントにいいの?
泥棒を弾正台に突き出さないで?
姫は金色の鈴を手に取って振ってみて
チリ~~~~~ンッ!
鳴らすと、澄んだ高い金属音なのに、耳障りじゃなく、耳の奥まで届くような深みのある音。
「キレイね~~~!!」
姫も感動してた。
残る疑問を解決せねばっ!!
意気込んで、
「コソ泥尼女が座ってたのは、土に埋まった金色の箸が一部分見えて、砂金が埋まってると勘違いしたからってことはわかりましたけど、じゃあその青銅製の箸は誰がなぜこの路の真ん中に持ち出したんですか?この屋敷に住んでる貴族のものってことでしょ?子供ですかね?」
若殿が路に落ちてる他の鈴を拾い、姫のもつ金剛鈴を『渡してくれ!』というように手を出して姫から受け取り(取り上げ?)、尼の衣に包み込んで束ねながら、
「あーーー、例えば、だが、こうは考えられないか?
亀は雑食だから、何でも食う。
ある日、この屋敷の貴族が食事中、冬瓜か何かに箸を刺したまま長時間、席を外したすきに、庭に住んでいた亀がそれをくわえて路に出てきた。
その亀が冬瓜を喰い終わった場所で穴を掘り冬眠した、かどうかまではわからないが、こういう事も無きにしも非ずだ。」
と冗談ぽく呟いた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
黄金色の青銅や黄銅と、本物の金を昔の人はどうやって見分けてたんでしょうね?
柔らかくて伸びるのが金としか知らないので、見た目で判定って無理ですかね?
時平と浄見の物語は「少女・浄見 (しょうじょ・きよみ)」に書いております。