妙見菩薩の黄金色(みょうけんぼさつのこがねいろ) その3
尼は振り向いて差し出されたものを確認すると慌てて両手で受け取り
「あらっ!まぁ!大事なお道具を落とすなんてっ!!仏に仕える身ですのにっ!!なんてお恥ずかしいことかしら!」
若殿が受け取る腕をチラッと見て、何かに気づいたのか眉を上げ面白そうに、
「金剛鈴と、宝珠鈴を二本も持ち歩いてらっしゃるので?今日はどこかで法会などに出席されたんですか?数珠や経典・・・は袂に入れてらっしゃる?」
尼の袂は重そうに垂れ下がってて、まだ重い何かが入ってそう。
焦ったように引きつった笑みを浮かべ
「そ、そうなんですっ!!ある貴族のお屋敷の法事でお経を読みましてね、数珠?経典?はそうです。袂に入れておりますわ!オホホッ!では先を急ぎますので、失礼します!!」
さっきまでジッと座り込んでたのが嘘みたいに小走りで立ち去った。
若殿はその後姿を見て、ふむっ!と唸ると、尼が突っ伏していた地面の表面を少し手で撫で土をよけて、キラっと光る何かを掴んで取り出し、懐にしまった。
何っ?
何か拾ってネコババしたっ??!!
周囲を見渡し、まだその場に屯ってた人々に
「誰か!近くで鋤や鍬を借りてきてくれ!この下を掘り起こしたいんだ!手伝ってくれるとありがたい!」
すぐに近くの農家から鋤や鍬を持ってきてくれた人たちと穴掘りをはじめると、三尺(90cm)も堀ったあたりで
「あっ!これかっ!!なぜだっ??!!なぜこんなところに?」
ある奇妙なものが土の中から出てきた。
若殿も想像してないものだったらしく、手が土だらけなのを忘れて、腕を組み、あごに指を当てて
「う~~~~ん。なぜこんなものがあるんだ??!!!てっきりアレが出てくると思ったんだが。」
首を捻った。
私も穴を覗き込み
「えぇっっ!!!なぜこんなものがここにいるんですか?!!あの尼さんは知ってたんですか??!!知ってて上に座ってたんですか?それとも彼女が埋めたんですか??でも何のために??!」
はぁ??
意味がわからないっ!!
全く以て謎だらけっ!!
尼が座ってた土の下から出てきたのは、半尺(15cm)より少し大きいぐらいの
一匹の亀だった。
「可愛い~~~~!なぜ土の中にいたんでしょう?」
若殿は肩をすくめ、何でもないという風に
「冬眠するためだろう。この辺の側溝は幅が広いし水もあるから泳いできて土の柔らかいここで冬眠することにしたんだろう。それは不思議でも何でもない。不思議なのはあの尼がなぜここに座っていたのか?だ。」
確かに~~~!!
尼は亀がこの土中にいることを知ってたの?
知ってたとして、なぜ上に座ってたの?
何の目的で?
亀が出てくるのを待ってた?
じゃないなぁ。
だって秋に冬眠して春に出てくるから!
偶然亀の上に座ってたのならなぜ?
お告げ?
亀が助けてって訴えた?
確か、妙見菩薩って、甲冑を着けた武将形で玄武(亀と蛇の合体した想像上の動物で北方の守り神)に乗る像があったよね?
あの尼ってもしかして妙見菩薩並みにすごい人??
神通力バリバリ?!!
もう一回あの尼に話を聞きたいっ!!
結局、若殿は亀を埋めることはせず、側溝に放した。
「取っとかなくて大丈夫ですか?!大事な亀かもしれませんよ!」
「見たところ普通のイシガメだ。狭い場所に閉じ込めておくのは可哀想だし、路の真ん中だと踏み固められて出られなくなるかもしれない。放してやれば、別のところに穴を掘ってもぐるだろう。」
亀の立場になってみると、冬眠中を邪魔され掘り起こされてまた寒い娑婆に放り出されるなんて、迷惑千万っ!
でもまだ気温は高いしきっと今から冬眠し直しても大丈夫!
ガンバレっ!!亀っっ!
「でも、あの尼は一体何のために座ってたんでしょうね?発作っていってましたけど、ちょうど亀の上で?そういえば、若殿はなぜここを掘る気になったんですか?あっ!!光るものをここから拾って懐に入れたのを見てましたよっ!!アレのせいですねっ!!何ですかっ!!見せてくださいっ!!」
(その4へつづく)