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妙見菩薩の黄金色(みょうけんぼさつのこがねいろ) その2

鼻にかかった(みやび)な声のする方を私を含めた野次馬(やじうま)全員が振り向いた。

高級そうな狩衣・丈の高い烏帽子(えぼし)を身につけたいかにも貴族の男性が立ってた。

若殿(わかとの)筒袖(つつそで)(くく)り袴・()烏帽子(えぼし)雑色(ぞうしき)姿だったので、顔見知りの中流貴族だった場合、身バレに備えてバツが悪そうに伏し目がちになった。


雑色(ぞうしき)姿の頭中将(とうのちゅうじょう)』には興味が無いらしいその貴族男性は扇で口を隠し


「あなた、顔を見せてくださいませんか?」


尼に向かって、立ったまま話しかけるが、尼は地面から目をそらさない。


へぇ~~~!

是唯(これただ)親王の娘の嬌子(きょうこ)女王?

食うに困らない高貴なお方でも出家するんだなぁ~~!

世を捨てたってことでしょ?

この世の何がイヤになったの?

それとも深~~~い事情があるの?

有名人(セレブ)醜聞(ゴシップ)に目が無い私は興味津々!!

瞳がキラキラしてると思う。


ふぅっとため息をついたその貴族男性に、若殿(わかとの)


是唯(これただ)親王の姫君の顔を知っているのですか?」


貴族男性は肩をすくめ悪びれた様子もなく


「いいえ!知りませんとも!ただ是唯(これただ)親王の姫君が尼になったと聞いたことがあるものですから、あてずっぽうです!万が一彼女ならここで姫君をお助けすれば、是唯(これただ)親王に恩を売ることができるでしょう?出世のよすがになるかもしれません!」


う~~~ん。

イチかバチかのテキトーな事を言ったのか。

ただ、素直に魂胆(こんたん)暴露(ばくろ)するところは(いさぎよ)し!


でも、再び尼は身元不明になった。


野次馬(やじうま)の一人が


「こんなところに長い時間座ってたら体が冷えて悪くなっちまう!歩けないなら手を貸して早くどこかに運んでやった方がいいんじゃないか?」


確かに昨夜の雨のせいで地面は湿ってるし、路の端には三尺(90cm)ぐらいの広めの側溝があり、水が底にたまってて、湿気が多いジメジメしてる場所だった。

若殿(わかとの)が顔をしかめ


施薬院(せやくいん)までは遠いから馬が必要になるな。それにしても、一言も本人の意見を聞かず連れて行くのはいかがなものか。」


腕を組んで考え込む。


初めに話しかけた中年男性が


「腰が抜けたんでしょうか?それとも口がきけない病ですかね?」


若い男性がハッ!と何かに気づいたように


「魂が抜け出してさまよい歩いている間、肉体はこんなふうに残るんじゃないんですか?離魂病(りこんびょう)ってやつですよ!今、体を動かしてしまえば、魂が戻れず死んでしまうかもしれませんよ!」


怖っっ!!!

魂がどっかにフラフラ飛んでるの?

火の玉?

生霊?

どこどこっっ!!


キョロキョロ見回すがそれらしきものは無い。


その他の野次馬(やじうま)たちの意見は


「金縛りになって自分では動こうにも動けないのは?」


とか


「いいや、きっと何か要求があって朝廷に抗議するために座り込んでるんだ!」


とか


「心の病が(こう)じた心身喪失では?」


とか。


路の真ん中で立ち止まる見物人が、だんだん多くなるにつれ、人目を避けたい若殿(わかとの)は心を決めたらしく、ピン!と姿勢を正して周りの人々に話しかけた。


「よしっ!では、誰か馬を借りてきて、この方を施薬院まで連れて行ってくれないか?できれば二人ほど、手が空いてるものは協力してくれ!」


(ちょー)美人!とまではいかないが、若くてキレイめの尼さんを介抱したい!という男性は多いらしく、最初に話しかけた中年男性や座り込んだところから見てたと証言した若い男性が名乗りを上げた。


近所の貴族の屋敷で厩番(うまやばん)をしてるという男性が馬を取りに行き、その間に、二人が尼さんの両手と両肘を持って立ち上がらせようとすると、突然


「ぁあっーーーーーっっ!!!」


叫びながら、尼さんが地面に突っ伏した。


見物人はギョッ!と息をのみ、すぐにザワついた。


介抱して立ち上がらせようとした二人の腕を振り切り、地面に頭をついて、手で地面を()でるように土を掻きまわす。


一体何っ?!

どーしたのっ?!

悪霊でも憑りついた?

何かの発作??!!

ビックリして心臓がバクバクしながら様子を見守ってると、しばらく土をかき回したあと、


スクッ!


立ち上がり、何事も無かったかのように周囲を見回し、笑みを浮かべた。

鈴を転がすような声で軽やかに


「ご心配とご迷惑をおかけいたしました。発作がおさまったようですので、介抱は無用ですわ!ありがとうございます。では、失礼いたします。」


ペコッ!


会釈して立ち去ろうとすると、尼さんが突っ伏していた地面から、若殿(わかとの)が小さい鐘に取っ手がついたような金色の何かを二本、取り上げて差し出した。


「お忘れですよ。」

(その3へつづく)

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