妙見菩薩の黄金色(みょうけんぼさつのこがねいろ) その1
【あらすじ:税として輸送中の官物が強奪される事件が相次ぐ物騒な昨今、京の小路で座り込んだまま動かなくなった尼僧に人だかりができてた。大した事件じゃなくても気になる我々は、立ち止まって原因を探るが、肝心の尼僧が一言もしゃべってくれないのでは解決しようがない。力づくで移動させようとすると、観念した尼僧が立ち上がったその場所の地中には、想像もつかない驚くべきものが隠されていた!誰でも好きなハズの権力の象徴・金よりも、大切なものをすでに手中の時平様は今日も見た目に惑わされない!】
私の名前は竹丸。
歳は十になったばかりだ。
平安の現在、宇多天皇の御代、日本で権勢随一を誇る関白太政大臣・藤原基経様の長男で蔵人頭兼右近衛権中将・藤原時平様に仕える侍従である。
私の直の主の若殿・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中。
宇多帝の別宅に訳アリで、隠し育てられている姫を溺愛していて、周囲に気づかれていないと思っているが、使用人はじめ母君・大奥様にもバレバレ。
若殿いわく「妹として可愛がっている」。
でも姫が絡むと、はたから見てもみっともないくらい動揺する。
従者としては、たかが小さな女の子に振り回されてる姿はいかがなものか。
今回は金属って混ぜ方次第で大抵、新品は金色ですよね?というお話(?)
いい感じの曇り空で、日差しが強すぎず弱すぎず、たまに涼しい風が頬を撫で、日の当たる場所は暖かい、そんな秋の午後。
宇多帝の別邸を訪れようと、若殿と二条大路から宇多小路に入り北へ向って歩いていると、従者仲間から聞きたてホヤホヤの噂を思い出した。
「そういえば、聞きました?信濃国からの調雑物として都に運ばれる途中の砂金が、もう少しで京に入るというところで盗賊に襲われ、盗まれたらしいです!!
あっ!当然知ってますよねぇ。蔵人頭に対して失礼な事を言いましたっっ!」
テヘッ!ペロッ!
舌を出して頭をコツンと打つ可愛いしぐさっ!
若殿を悩殺した。
なのに、背筋が凍り付きそうなほど冷たい横目でチラ見され
「当たり前だ。今、検非違使と弾正台の役人が血眼になって盗賊の手掛かりを追っている。」
ツバを吐くみたいに吐き捨てる。
怖~~~~~~っ!!!
目で射殺されるかと思った。
可愛い子ぶっただけなのにっ!!
これが宇多帝の姫ならきっとデレデレ鼻の下を伸ばしただろうにっっ!!
世の中不公平っ!!
貴族の屋敷や庶民の家屋が建ち並び、小路に面して門が開いている。
チラッと覗き込むと、どこの屋敷も立派な池に水をなみなみと湛えてた。
宇多小路をしばらくすすむと、路の真ん中に人だかりができてる。
若殿と私も立ち止まって人の垣根の中心を見ると、一人の尼と見える人物が地べたにペタンと座り込んでた。
なぜ尼だと分かったか?
それは、尼僧が被るような頭巾、墨染の裳付衣に袈裟をつけてるし、固まったようにジッとして地面の一点を見つめてるけど、顔をみるとまつげが長いのや頬が丸みを帯びて柔らかそうだし、肩とか腰とか全体的に丸みを帯びてるから。
若殿が野次馬の一人に肩越しに話しかけた。
「彼女は何をしてるんですか?」
肩に顎を乗せられそうなぐらい近くで、突然、耳元に話しかけられた、直垂、括り袴、萎え烏帽子の庶民の恰好をした中年男性はギョッ!として飛び上がらんばかりだったが、すぐに落ち着きを取り戻し
「ええと、それが、ずっとジッとして黙り込んだままなんです。話しかけても何も答えないんです。」
「いつから座り込んでいるんですか?」
中年男性がさぁ?と首を傾げていると、その隣の雑色姿の若い男性が手あげてヒラヒラさせ
「ハイッ!オレっ!この尼さんが座りこむところをちょうど見たよっ!今朝、ここを通りかかったら、前を歩いてたこの尼さんが腰が抜けたみたいに急に座り込んだんだ!
『体調が悪いなら医師のところに連れてってやろうか?』とか『飲み物を持ってきてやろうか?』とかずっと話しかけてるんだが、一言も答えてくれないし、目も合わせてくれないんだっ!!」
今朝から?
ってことは二刻(4時間)以上も座ってるってこと?
若殿のさらに後ろから、
「もしや、あなたは、是唯親王の御息女、嬌子どのではないですかな?まだ幼いうちに出家なされたという?」
(その2へつづく)