終局の双六(しゅうきょくのすごろく) その1
【あらすじ:『仕事帰りに誘拐され、双六の謎が解ければ解放されるから謎を解いてほしい』という時平様からの文を、宇多帝の姫に届けた。六歳の子に何ができるの?という疑問は野暮だけど、宇多帝の姫の実力は未知数。果たして姫は謎を解き、時平様を救えるのか?大事な姫のご機嫌取りに時平様は今日もイチかバチかの賽を振る!】
私の名前は竹丸。
歳は十になったばかりだ。
平安の現在、宇多天皇の御代、日本で権勢随一を誇る関白太政大臣・藤原基経様の長男で蔵人頭兼右近衛権中将・藤原時平様に仕える侍従である。
私の直の主の若殿・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中。
宇多帝の別宅に訳アリで、隠し育てられている姫を溺愛していて、周囲に気づかれていないと思っているが、使用人はじめ母君・大奥様にもバレバレ。
若殿いわく「妹として可愛がっている」。
でも姫が絡むと、はたから見てもみっともないくらい動揺する。
従者としては、たかが小さな女の子に振り回されてる姿はいかがなものか。
今回はサイコロの出目って何のゲームでも決定的ですよね!というお話(?)
九月も半ばを過ぎたというのに、半端なく強烈な日差しが、路に濃い影を落とすある午後のこと。
一人で宇多帝の別邸を訪れた私は、侍所で顔見知りの下人への挨拶もそこそこ、到着するなり急いで宇多帝の姫のいる北の対の屋へ駆けこんだ。
「姫っ!!大変ですっ!!若殿が誘拐されましたっ!!この文を読んでくださいっ!」
宇多帝の姫は床に腹ばいに寝ころがって、膝を曲げて足を前後にブラブラさせながら、目の前に置いた絵巻物を眺めてた。
小袖姿の裾がはだけて、短いむっちりとした足がチラチラのぞく。
高貴な姫としては無作法極まりないし、みっともないなぁとあきれ果てた。
父親がわりの宇多帝がご覧になったら大激怒するハズ。
私の声に反応して顔をこちらに向け
「竹丸?平次兄さまはどこ?なあに?ゆうかい?って?」
二枚の文を姫に手渡す。
体を起こして座り、文を読み始めた。
色白で丸い輪郭に少しふっくらした頬と、小さい椿の花びらのような赤い唇が目立つ。
文を読む、伏せた大きな目を縁取る睫毛は一本ずつが長い。
目の大きさに比べて鼻はツンと尖ってるが小さい。
それぞれの部分一つずつは『完璧な美』ではないが、配置が整ってるので、全体として『可愛い』といえなくもない。
髪は肩までの振り分け髪。
姫がサッと目を通しながら、鈴の音のような声で読み上げた。
「こう書いてあるわ!ええと・・・
『浄見、助けてくれ。やしきに向かうとちゅう、わるものにさらわれてしまった。浄見が次のすごろくのもんだいをとき、せいかいしてくれなければ、ころされるかもしれない。せいかいを書いた文を竹丸に持たせて、わるもののところへとどけてくれ。よくもんだいを読み考えてくれ。はんこく(一時間)いないにとどけてくれなければ、私の命はないかもしれない。
平次』
ですって!
たいへんっ!!
平次兄さまがわるものにつかまったのね?はやく助けなくっちゃっ!!」
もう一枚の紙を上に重ねて真剣な表情で見つめた。
食い入るように黙って読んでる。
退屈になったので
「あのぉ~~、私にも見せてください!すぐに解いて答えを教えてあげますよぉ~~!」
気軽に言ってみる。
だって、六歳の子が解ける問題なんて簡単に決まってる!!
朝飯前のおちゃのこさいさいだっ!!
なんたって私は四つも年上の十歳だぞっ!!
宇多帝の姫が見つめ続けてるので横からのぞき込むと、次のような問題だった。
(*作者注:双六の説明は下にあります。)
『
詰め双六その一
〇ィ |
――――――――|
◎ |
――――――――|
◎ |
――――――――|↑ 〇を動かす方向
◎◎ |この中に白石〇を
――――――――|全て二個以上の状態で
|格納すれば上がり
――――――――|
〇〇〇〇ㇿ〇ㇵ |
――――――――*ここから上が
〇ニ |白の内地。
――――――――|
もんだい・・・二つのサイコロの出目が『二』と『四』のとき、さいしょにうごかす白石〇はどれ?
』
う~~~ん。
自分の石は〇。
進む方向は上。
まず外にある〇ニを『二』または『四』マス上に進めて内地に入れないとダメだな。
ん?これは簡単なのでは?
〇ㇿも〇ㇵも『二』マス上に進むと黒石◎◎が『一荷』なので置けない。
〇ィはこれ以上、上がないので進めない。
だから、『二』動かすことができるのは〇ニだけ。
〇ニを上に『二』マス進めるだけでは、自石が全部『一荷』という条件を満たさないので、〇ニをさらに『四』マス進めれば〇ィと『一荷』『〇ィ〇ニ』になり、内地に全部格納できたので上がり!!
えへんっ!!
と威張って姫を見ると、いつの間にか取り出した紙にサラサラと書き付けていた。
答えを覗くと
『〇ニ』
ってちゃんと正解してた。
ちなみにこれは〇ニを最初に四マスすすめて、◎を場外に出したあと、ニマス進めてもいい。
サイコロの出目のどちらから進めてもいい。
(その2へつづく)
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<(盤)双六の規則>
・一マスに六個以上の石は置けない
・敵石が二個以上ある『一荷』の状態のマスに自石を置けない。自石が一個~四個あるマスにはおける
・敵石が一個あるマスに自石を置くと敵石は『ふりだし』(双六盤中央のマス目のない場所で、石がスタートするマス付近)に出すことができる(『石を切る』という)
・二つの賽の目により一つまたは二つの石を動かすことができる。(一つを動かす場合、出目の通りに二回にわけて動かすこと)
・全ての自石を一荷の状態で内地に格納できれば勝ち
・後戻りはできない
<*この問題に共通の規則>
・自石は白石〇である。この回で白石を全て一荷状態で内地に格納できるとする。
<*注>
・実際のゲームでは、盤上には二十四マスあり、黒白十五個ずつの石を決まった初期配置におき、交互にサイコロを振って石を進め、自分の内地に全部の自石を相手より早く格納することを目指すが、『詰め盤双六』なので考えないものとする。
・「古代盤上遊戯」さんのサイトを参考にしました。(https://www.osakac.ac.jp/labs/kishi/yuugi.html)
・実際の双六盤は四角の盤の上下両端にマス目が十二ずつあり、黒が下左端から反時計回りに進むとき、白は上左端から時計回りに進む。黒の内地は上左端から中央までの六マスで、白の内地は下左端から中央までの六マスである。
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