表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
248/368

柔靭の白羽(じゅうじんのしらは) その5

若殿(わかとの)が少し眉を上げ興味を示した。


ええっと、他に怪しいのは、真言院(しんごんいん)を訪れた僧侶かぁ、持ち物は普通だなぁ。

錫杖(しゃくじょう)って、先っぽに金属の輪がついてて振り回したらシャンシャン音がなるやつ?

弓の代わりにはならないなぁ。


真言院(しんごんいん)を訪れた僧侶の服装は?ダボッとした袈裟(けさ)の中に弓を隠してたとか?」


「それは無いと思うが・・・・そこまで詳しく調べていないようだが。」


ビミョーな答えっ!!


あとは、采女町(うねめちょう)かぁ・・・宿舎では女官が下着姿(小袖(こそで))でうろついてるのか。

女子(おなご)しかいない場所だと、気が緩んで恥も外聞もないのかなぁ・・・。

下着姿と聞いて猩子(しょうこ)のことを思い出して

「腰ひもに、(うちぎ)(すそ)を挟み込んだ変な恰好の遊び女と呼ばれる女性が、旅芸人の一団にいました!猩子(しょうこ)という名で、『春を売る』らしいんですが、どうやって季節を売るんでしょうね?値段はいくらなんでしょうか?冬とか寒い季節に買うと温かくなるんでしょうか?どれくらい持つんでしょうか?」


私の真摯(しんし)な疑問は大人たちの『ウォッホン!』という咳払いにかき消され無視された。


ともあれ、

『猿の芸をする旅芸人たちは絶対犯人じゃない!!早く釈放すべき!』

と強調する私の意見を含んだ、お互いの情報を交換し終えたあと、黙り込み考え込んでしまった巌谷(いわや)若殿(わかとの)の真似をして、黙り込んで矢を放った犯人を推理してみる。


う~~~ん。

矢?

白い羽、白羽がついた矢?

白羽の矢!

といえば、各地に伝わる昔話に、『白羽の矢が屋根に立った家の娘は、生贄(いけにえ)として山に連れて行かれて、猿神に捧げられる』というのがあるらしいが、それと何か関係があるの?


「あっ!!!」


思わず声を上げ

信濃(しの)は猿神の生贄(いけにえ)にされたんじゃないですか?そうです!旅芸人の早太郎(はやたろう)は猿の芸を披露してます!あの子猿が実は猿神で、夜は大きな化け物の姿に変じて、娘を食べるんですよっ!!犯人は猿です!!」


若殿(わかとの)巌谷(いわや)は顔を見合わせ、何を言ってるのか理解できていない様子。

「ほらっ!!しっぺい太郎伝承って聞いたことあるでしょ!しっぺい太郎という名前の犬を戦わせて猿神を退治した話とかのっ!!」


さらに脳内で次の(ひらめ)きがスパーク(起こった)っ!

そうだ!そうだったんだっ!!

あの死に際遺言(ダイイングメッセージ)の意味は!

キレッキレの推理だ!

信濃(しの)が死ぬ間際に『しらは、えて、うれ、つつ、がな』と言ったでしょ!あれは『白羽の矢を受けて・・・』みたいな事を言ってたんですよっ!!全部がつながりましたっ!!」


得意満面で言い放った。


若殿(わかとの)怪訝(けげん)な顔で

「じゃあお前は猿神が念力で矢を飛ばしたと言いたいのか?」


ウンと(うなず)

「そうです!可愛い子猿に見えて、妖怪だったんです!」

子猿の芸も見てみたかったが、化け物猿も見てみたいっ!

怖いけど。


若殿(わかとの)が眉を上げ目を丸くし驚いた後、片方の口角を上げニヤッと笑い

「では、私はその子猿が化け物ではないという証拠を見せてやる。ついてこい。」


立ち上がってサッサと歩き出した。


曹司(ぞうし)の外はすっかり日が落ち、夕闇に包まれていた。

薄曇りの空は夜も星が見えず、各官庁の建物の塀に沿って並べられる篝火(かがりび)の明るさを頼りに、北へ向かって、おそらく(えん)松原(まつばら)へ向かって歩いている。

人食い鬼が住む松林はやっぱり薄気味悪く、そこへ差し掛かった途端、背筋がゾクゾクするほど寒気がした。

若殿(わかとの)にコソっと近づき直衣(のうし)の背中をギュッと引っ張るので、足が(から)まりそうになると、キッ!と振り返り


「チッ!」


イラっとして舌打ちされ

「掴むなら袖にしろっ!!足を蹴るなっ!!」


言われたので袖をギュッと握り、離れないようにグルっと手に(から)ませた。


ビクビクしながら

『真っ暗な松林に入るのか~~~?!!!』

とソワソワしてると、手前で西に曲がり、目の前に見えた建物に着くと

右兵衛府(うひょうえふ)だ。巌谷(いわや)、昼間、(えん)松原(まつばら)にいた三人組を呼び出してくれ。」

(その6へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ