表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
246/367

柔靭の白羽(じゅうじんのしらは) その3

質問すると、巌谷(いわや)

「彼らは旅芸人の一団で、(えん)松原(まつばら)でうろついていたところを大舎人(おおとねり)に見とがめられ、連れてこられたらしい。昨夜、大歌所(おおうたどころ)(大歌を教習する所。大歌とは古代宮廷の祭祀や節会に用いられた歌謡をいい,舞を伴うものもあった)で何やら宴があったらしく、その余興のために招かれたそうだ。」


そう言えば大きい葛籠(つづら)を背負った男たちや、琵琶(びわ)の形をした布包みを持った男もいたなぁ。

旅芸人なら荷物が大きいのも納得。


巌谷(いわや)が続ける

「で、仕事が終わったので帰ろうとして、(えん)松原(まつばら)へ差し掛かったところを、大舎人(おおとねり)に引き留められたと彼らは主張しているらしい。」


疑わしそうな口調にピンときて

「その言葉を信じてないんですか?」


難しい顔つきで首を横に振り

「そもそもが旅芸人など身元が不確かだし、このまま野放しにするわけにはいかない。尋問して犯人ではないと確信できるまでは牢に収容する必要がある。」


う~~~ん。

疑いだけで身柄拘束!

そんな目には遭いたくない!


複雑な気持ちで、巌谷(いわや)が尋問するために官舎へ向かって歩いていくのについていくと、弾正台(だんじょうだい)の役人に追い立てられて同じ方向へ歩いていた旅芸人の葛籠(つづら)がガサゴソと揺れた。


へ?

何?

中身が動いてるっ!!!

ビックリして、前を歩く背中の葛籠(つづら)へ目がくぎ付けになる。


ガサッ!!ガサゴサッ!!ガサッ!!


激しく左右上下に揺れ、葛籠(つづら)の蓋が二寸(6cm)ほど持ち上がり、(しわ)のある赤い顔に、眉のないまん丸の目がある、薄茶色のフサフサの毛が顔の周りにびっしりと生えた、明らかに猿が、葛籠(つづら)の隙間から顔の上半分をのぞかせた。


えぇっっ!!

可愛(かわい)っっ!!


「あっ!!!猿っ!!」


テンションが上がり思わず叫ぶと、猿は驚いたように葛籠(つづら)の中へ潜った。


猿の入った葛籠(つづら)を背負った男性が振り返り、ニッコリ微笑み

「そうだよ。子猿が芸をするんだ。珍しいだろ?」


「へぇ~~~~っ!!!凄いですっ!!見たいですっ!!」


「そうだなぁ、次の興行は、xx寺かな?ここを無事出ることができて、機会があれば見においで。」


「行きますっ!!絶対にっ!!弾正台(だんじょうだい)の役人にあなたたちを出してくれるように頼んでおきますっ!!」


「はははっ!頼もしいねぇ。よろしく頼むよ。」


信じてないような愛想笑いで返されたけど、絶~~~っ対っ、この人達の無実を証明して、猿の芸を見るぞっ!!

心に固く誓った。


巌谷(いわや)が尋問のために、旅芸人たちを一人ずつ呼び出した。


官舎の一角を衝立(ついたて)で仕切り、文机を挟んで巌谷(いわや)と尋問される人が向かい合って座った。

私と記録係はその横に待機(スタンバイ)して、ボンヤリ見守るのとテキパキ記録するのとに役目を分担した。


巌谷(いわや)は一人ずつ呼び出した旅芸人たちに

(えん)松原(まつばら)にいた理由。

・どこから来たのか。出身国は?

・この先の予定。

・何の芸を見せてるのか。


などなどを質問して、答えを記録してた。


猿を葛籠(つづら)に入れてた男性は早太郎(はやたろう)という名前で『信濃国(しなのこく)』出身。

(えん)松原(まつばら)にいた理由はさっき巌谷(いわや)が言ったように、昨夜、大歌所(おおうたどころ)の宴会の余興で芸を披露し、昼頃、解放されたので洛中にある宿へ戻るところだった。

この先の予定は三日後、xx寺で興行があると言ってたのもさっきの通り。

絶対行かねばっ!!

これは絶対見逃せないっ!!

全身に力が入り、グッと手に汗を握る。


遊び女と称された女性は、芸としては舞を披露したらしい。

出身はこちらも早太郎(はやたろう)と同じ『信濃国(しなのこく)

宿と予定は旅芸人全員同じだそう。

ここまで聞いて退屈になったので、気分転換に外にでると、早太郎(はやたろう)が、猿を葛籠(つづら)から出して器に水を入れて飲ませてた。


猿は地面に置いた器の水を、犬みたいにかがんでピチャピチャ舐めてたので、ちょっと意外だな~~と思った。

人間みたいに手で持って飲むのかと思った。


その様子を眺め、何となくさっきの遊び女と呼ばれた女性のことを考えながら

「確か、彼女は同じ信濃国(しなのこく)出身なんですよね?名前は何と言うんですか?」

(その4へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ