焦熱の神火石(しょうねつのかみびいし) その4
私がオロオロしてると、若殿は肩をすくめ
「信濃から京へ石を運んだ者が死んでいないのなら『石を持っているだけで死ぬ』というのは嘘だろうから、今お前の枕元にあったとしても大丈夫だろう。ただ・・・」
と言ったきり黙って考え込んだ。
若殿は確認したいことがあるともう一度、那須の屋敷を訪れた。
父君に護摩法要をしたとき、参列者が座っていた位置を確認した。
位牌とお供え物に向かって護摩壇を設置し、そのすぐ前に律師が座り、護摩木とお焚き上げの遺品をくべながら読経した。
その後ろ一列目には那須の両親と姉とその息子たち、つまり幼子は座り、赤子は寝かされていた。
その後ろ二列目には、那須の伯父や叔母などの親戚と妻の榛名、三列目には友人・奥白根と他の友人たちだった。
「よし!最後に榛名に会いに行こう」
若殿が硬い表情でキッパリと言い放つ。
えっ???!!!
もうっ??!!
「何か分かったんですか?!!」
モヤモヤが解決っ?!
すっかり期待で胸を膨らませ、遅れないようピッタリとお伴した。
京の西はずれにある榛名の屋敷へ馬を走らせながら疑問を整理してみた。
・神火石は今どこにあるの?
・神火石の呪力は本物?だとしたらどうやって呪い殺すの?
・那須は何のために神火石を手に入れたの?誰を呪いたかったの?
・那須はなぜ死んだの?榛名は那須の死に関係があるの?
若殿にその疑問をぶつけても
「さあね」
とはぐらかされた。
榛名の屋敷につくと、連日の猛暑による地獄の炎のような西日に焼き尽くされた木々の葉は萎れ、草花は茶色く枯れ果てていた。
川から水を引いた遣水も、底に少し水が残っている程度で虫や魚といった生き物の気配がない。
この屋敷の生き物たちが飢えと渇きにあえぐ、弱り切った地獄の亡者の化身のように見え、背筋にゾッと悪寒が走った。
榛名はもしかして地獄を統べる焔摩天の后・黒闇天女?
髪を振り乱した鬼女が口から火を吐き木々や草花を焼き尽くす姿を想像しブルっと身を震わせた。
侍所で案内を乞うと、侍女が我々を榛名のいる対の屋へ案内してくれた。
廊下に座り御簾越しに中へ向かって若殿がイキナリ話しかけた。
「私の話にどこか間違いがあれば訂正してください。」
はっ?
中に人がいるかの確認もしないの?
まぁどうせいつものハッタリでしょっ!
冷ややかな目で若殿の背中を見つめてた。
「まず、那須はあなたの元へ通い、夫婦の営みの最中に弱っていた心臓に無理がたたって死んでしまった。そのとき那須が身につけていた神火石を見つけたあなたは、那須が大事にしていたものだと思い、遺品のお焚き上げの際、その石が何かも知らず、誰にも言わず火をつける前の護摩壇にくべた。」
御簾の中の反応を窺うが誰も何も答えない。
「あなたのその行為のせいで、那須の甥二人が重篤な被害に遭いました。赤子は死に、幼子は回復に一週間もかかったのです。大人たちも軽症だったとはいえ被害に遭いました。」
ここではじめて御簾の中からゴクッと息をのみ、喉を鳴らす音が聞こえた。
続けて、女性のか細い上ずった声で
「・・・・・あれは何ですの?わたくしは・・・・わたくしのせいで!?赤子が死んでしまったのっ!!本当にっ?!あぁっっ!!どうしましょう!そんなに危険なものだとは知らなかったんです!!ただ、彼のっ、黄泉の国にいる那須の元へ大切なものを届けたかったんです!それなのにっ!!一体あれは何ですの?」
(その5へつづく)