焦熱の神火石(しょうねつのかみびいし) その3
若殿は結局、那須の屋敷を訪ねて直接調べることにした。
那須の屋敷は父君が国司だった時に蓄えた財力のせいか思ったより広くて立派だった。
若殿は頭中将と本名を名乗り、権力圧を加えて那須の曹司(専用の部屋)を調べる許可を父君にもらった。
那須の曹司は廊下でつながっていない高床の建物で、塗籠や母屋と庇があるところは主殿と同じ。
若殿はさっきから塗籠の中に置いてある長櫃や、厨子棚を開けて中身を引っ張り出しているが、文や書はすでに焚き上げられてて見当たらない。
私的な書き付けはほとんど何も見つからなかったが、文箱の中に残っていた一枚の紙をヒラヒラと私に見せ、
「請求書のようだ。
『神火石の代金、五百文なり。
x月x日までにお支払いいただきたい。
xxx寺 僧都 妙高』
と書いてある。」
何の石?
五百文って結構なお値段!
榛名への贈り物の玉?
翡翠とか水晶とか?
『神火』ってことは赤いの?
赤瑪瑙とか?
「x月x日って今日じゃないですか!那須は支払ったんでしょうか?それなら領収書があるハズですよね?支払わないまま死んだんでしょうかね?それにそれらしい『石』はどこかにありましたか?」
若殿はギロっと睨みつけ
「お前も探したらどうだ?しかし私が見た限り、どこにも五百文もするような綺麗な『石』は見当たらないな。」
「もう榛名に贈ってしまってここにはないのかもしれませんよ!」
若殿は那須の両親や侍女、警備の下人、など屋敷の全ての人に『神火石』と呼ばれるものを那須が持っていなかったか、と誰かに贈らなかったかを問いただしたが、全員の答えが
「見たことない。どんな石かもわからない」
だった。
次にxxx寺へ出かけ妙高僧都に会うことにし、平安京内にあるそのxxx寺へ出かけた。
xxx寺は東寺の北東に位置し、同じく真言宗の寺だった。
妙高僧都に護摩堂に通され、不動明王に睨みつけられながら対面して座り話を聞く。
若殿がさっきの請求書を見せ
「神火石とは何ですか?この代金は支払われましたか?」
妙高僧都は太い眉の片方をピクリと上げ
「神火石とは呪力を込めた石のことです。ある呪法にのっとり呪文を唱え呪具である石に呪力を込めたものです。五百文では安いぐらいですが、残念ながらまだ支払いは済んでおりません。」
若殿が平然と
「実際の効力は何ですか?」
妙高僧都も顔色一つ変えず
「それを持つ相手を呪い殺すことができます。」
堂々と言い放つ。
はぁ~~~?
ホントに?
今の法律(律令)では呪詛によって標的が死んだら死刑だけど大丈夫?
体調が悪くなっても殺人未遂で罰せられるけど?
若殿が探るように見つめ
「那須が亡くなったのは神火石のせいですか?肌身離さず持っていたからとか?」
妙高僧都の口の端がピクっと動いた。
「それは知りませんな。どう使うかは購入者本人次第ですから。」
「呪力を込める前の石はどこで入手しましたか?」
明らかに不機嫌な顔で
「信濃国から取り寄せたものです。貴重な石です。」
「特徴は?」
ため息をつき、渋々といった口調で
「拳ぐらいの大きさで全体が黒く、小さな穴がたくさん開いています。これ以上は言えません。呪術の秘密を明かすわけにはいかないのです。」
黒いの?
じゃあ赤瑪瑙とかキレイな石じゃないんだね?
まぁ呪物なら当たり前か!
xxx寺を後にし、帰る途中、若殿に
「那須は家族にも見せず、肌身離さず神火石を死ぬまで持っていたんでしょうか?それとも呪い殺したい誰かに渡したんでしょうか?というかどのくらいの期間、どのくらい近くに持っていたら死ぬんでしょうか?今その石はどこにあるんでしょうか?も、もしかして、知らない間に寝所に置かれてたりしたら死ぬんでしょうか???!!!」
話してるうちに怖くなってきた!
持っているだけで死ぬ!なんて怖すぎるっ!!
気づかないうちに枕元に置かれでもしたらどーしよーーーっ!!
帰ったら変な石が落ちてないか探してみなくちゃっ!!
想像するだけでパニック!
(その4へつづく)