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焦熱の神火石(しょうねつのかみびいし) その1

【あらすじ:難しい試験に合格し、妻を娶ったばかりの前途有望な若者貴族が謎の死を遂げた。その遺品を焚き上げる護摩(ごま)法要で発生した原因不明の病によって、甥の赤子が命を落とした。死者が黄泉の旅路へ伴を求めた呪いなのか、それとも単なる事故なのか?時平様は今日も灼熱の火宅(かたく)を生き抜く!】

私の名前は竹丸(たけまる)

歳は十になったばかりだ。

平安の現在、宇多天皇の御代、日本で権勢随一を誇る(いちばんえらいひと)関白太政大臣・藤原基経(ふじわらもとつね)様の長男で蔵人頭(くろうどのとう)右近衛権中将うこのえごんのちゅうじょう藤原時平(ふじわらときひら)様に仕える侍従である。

 私の直の(あるじ)若殿(わかとの)・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中。

宇多帝の別宅に訳アリで、隠し育てられている姫を溺愛していて、周囲に気づかれていないと思っているが、使用人はじめ母君・大奥様にもバレバレ。

若殿(わかとの)いわく「妹として可愛がっている」。

でも姫が(から)むと、はたから見てもみっともないくらい動揺する。

従者としては、たかが小さな女の子に振り回されてる姿はいかがなものか。

今回は岩も石も砂も大きさの違いだけですよね!というお話(?)

ある日、従者仲間から興味深い話を聞いた私は、朝政(あさまつりごと)を終えて大内裏から退出したばかりの若殿(わかとの)を捕まえて、興奮気味に話しかけた。


若殿(わかとの)!宇多帝の姫も気をつけなくちゃいけませんよ!」


若殿(わかとの)は眉をひそめ

「何の話だ?浄見がどうした?」


「さっき従者仲間から聞いたんですが、一月ほど前、国司を務めたこともある貴族の息子で那須(なす)という擬文章生(ぎもんじょうしょう)に合格したばかりで、妻をもらったばかりの前途のある若者が、不幸にも亡くなってしまったそうです。で、その遺品を焚き上げる法要があったらしいんですが、その護摩法要(ごまほうよう)の最中に、那須(なす)の甥にあたる赤子が原因不明の病にかかり、その日のうちに死んでしまったのです!同じく甥の少し大きな幼子も一週間ほど生死の境をさまよい、何とか一命をとりとめたそうです!呪われたんです!那須(なす)に呼ばれたんですよ!一緒にあの世に行こうって!」


若殿(わかとの)がキョトンとし

「それが浄見と何の関係がある?」


察しが悪いのにイラっとして

「『幼子は死者にあの世に連れていかれやすい』と言いたいんです!だから宇多帝の姫も、周りの親しい誰かが死んだときは気をつけなくっちゃ!」


言ってて気づいたが、姫に近い周りの人物といえば、若殿(わかとの)、宇多帝、乳母や、そして私?ぐらいなので、もしこの中で誰かが死んだりすれば、私だっておちおち姫の心配なんてしてられない!

他人事じゃないし!

パニックでそれどころじゃないっ!

想像してひとりで青ざめた。


若殿(わかとの)は顎に指を当て少し考えこみ

「幼子と赤子だけが呪われたのか?大人たちに影響は無かったのか?」


こめかみに指を当てう~~んと考えてみたが

「自信ないですけど、那須(なす)の父母には具合が悪くなる症状が出たとか言ってたような・・・。私が聞いたのは那須(なす)の友人の明経道(みょうぎょうどう)学生・奥白根(おくしらね)の従者からです。」


クルリと方向を変え、

「よし、奥白根(おくしらね)に会って話を聞こう!」


朱雀門の二条大路を挟んだすぐ南にある大学寮へスタスタ歩き出すので、あわててついていった。

大学寮で明経道(みょうぎょうどう)院(大学寮内の寄宿舎)を訪ね、侍所(さむらいどころ)で管理人に奥白根(おくしらね)を呼び出してもらった。

大学寮で学んでる最中の奥白根(おくしらね)を呼び出して連れてきてくれるのをしばらく待ってると、管理人とともに二十歳前後の狩衣姿の若者が現れた。

とりたてて特徴のない大人しそうな若者・奥白根(おくしらね)に向かって若殿(わかとの)


「藤原時平です。先日、ご友人の那須(なす)護摩(ごま)法要で幼子たちが被害を受けた状況について話していただきたいんですが。」


奥白根(おくしらね)は疑い深そうな目をチラッと若殿(わかとの)に向けたが

「はい。時平様?というと頭中将(とうのちゅうじょう)と同じ名前ですね。那須(なす)護摩(ごま)法要での出来事ですか?何のために調べてるんですか?」


若殿(わかとの)はめんどくさそうに顎をさすり

「ええと、弾正台(だんじょうだい)巌谷(いわや)という役人から、その件について事件性がありそうかどうか関係者に話を聞いてくれと頼まれましてね。事件なら弾正台(だんじょうだい)が捜査する必要があるんです。」


息を吐くように嘘をつく。


奥白根(おくしらね)は納得したようにウンと頷き、伏し目がちにしポツリポツリと話し始めた。

「では、最初からお話します。まず、あの護摩(ごま)法要は那須(なす)の生前大切にしていた遺品を焚き上げるために、ご両親が律師(りっし)を招いたものでした。律師(りっし)が経を唱えはじめ、扇や書、文などの遺品が護摩(ごま)壇にくべられていく中、突然、那須(なす)の父君が立ち上がり、那須(なす)の妻に向かって暴言を吐きました。」


若殿(わかとの)がピクリと眉を上げ興味を示した。

那須(なす)は妻を娶ったばかりでしたね?その新妻に対して父君がどのような暴言を?」


奥白根(おくしらね)はゴクリと息をのみ、ためらうように

「ええと、確か『お前のせいで那須(なす)が死んだんだ!』といいました。『お前の妖力のせいで那須(なす)は生気を吸い取られ、やせ細り衰弱し、最後は骨と皮だけになり、心臓が止まったんだ!この鬼女めっ!!悪女めっ!息子を返せっっ!』とすごい剣幕でした。」


鬼女っっ!!

額に(つの)が生え、裂けた口から長い牙がのぞく、髪を振り乱した女の姿を想像した。

見たいっ!!


若殿(わかとの)が眉をひそめ

「なぜ父君はそう言ったんですか?那須(なす)の妻に異常なところがあったんですか?」

(その2へつづく)

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