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不染の蓮(そまらずのはちす) その6

「そうだ。甲斐(かい)国府(こくふ)には疫病が嘘だったことやxx川で砂金が産出することを報告した。砂金の産出量を調査させ、都に貢納させる。採取の労働にあたった徭夫(ようふ)には国府(こくふ)に収められた税としての米で労働の対価が支払われる。」


えぇ?

絶~~~~っ対、砂金の方が価値があるよね?

労働した分の米がどれくらいかは知らないけど。

砂金ならいろんなものと引き換えられるし。

腐らないし。


不語仙(ふごせん)和尚の方が貧しい人々のために砂金を使うから有益では?

チラッと思ったので


「都に税として砂金の全部を貢納しないとダメなんですか?」


若殿(わかとの)が眉をひそめ

「いいや。その取り分を主上(おかみ)に掛け合うつもりだ。不語仙(ふごせん)和尚に砂金が(いく)ばくか渡るようにしたい。その方が住民の役にたつ。」


宇多帝の別邸に到着し、若殿(わかとの)主上(おかみ)と会合する主殿へ、私はいつものように姫の対の屋に渡った。


宇多帝の姫は私を見るや否や泣きそうな顔で

「竹丸だけ?平次兄さまはどこ?かいの国から帰ってきたんでしょ?」

きつい口調。


頬をポリポリ掻き

「はい、あぁ~~主殿に御渡りになったと思います。主上(おかみ)へ報告があるからと。後でこちらに寄るでしょうけど。」


姫は急いで対の屋から飛び出しバタバタと駆けていった。

私もソロソロと主殿へ渡り、怖いもの見たさで御簾の隙間から中を(うかが)うと、主上(おかみ)と向かい合って座る若殿(わかとの)(あし)に顔をうずめて泣きじゃくる姫の姿があった。

若殿(わかとの)が困ったように頭をなでている。


対面した主上(おかみ)も困惑した顔で泣きやむのを待っているみたい。


若殿(わかとの)が姫をなだめ、手をつないで主殿から出てきたので急いで身を引き覗くのをやめた。


私を見てウンと頷き

「浄見を自分の対の屋へつれていってくれ。浄見、待っていてくれ。後でゆっくり話そう。」


姫に向かってはニッコリと微笑んだ。


平気そうに見えたのにずっと寂しかったの?

我慢してたの?

それがイキナリ突然、爆発したの?

女の子って難しいなぁ~~!


まだ赤い目をして鼻水をたらしてる姫をチラチラと見ながら

「寂しかったならそう言ってくれればよかったのに!」


キッ!と睨み付け

「竹丸に言ってもしょーがないでしょっ!!思い出すだけで悲しくなるんだからっ!!」


「まぁそうですけどぉ~~~。どうしようもないですけどぉ・・・」


気の強いわがまま少女は扱いにくいっ!!


やっと泣き止んで笑みがこぼれるようになった姫と遊んで待ってると、突然、御簾の外から男の声がした。


「ここには誰がいるんだ?」


ビックリしてキョロキョロするが、乳母やも侍女もそばにいない!

私が姫を守らなくっちゃっ!!

焦って、背中に姫が隠れるように前に立つ。


「あれ?お前は竹丸?」


聞き覚えのある声に御簾をめくって覗きこむ男の顔をよく見ると泉丸(せんまる)だった。


泉丸(せんまる)・・・様こそ!どうしてここにいるんですか?」


一瞬、驚いたけど、主上(おかみ)の弟君なのでおかしくはないのか。


泉丸(せんまる)が長いまつ毛が縁取る美しい目を細め

「お前の後ろにいる女の子は誰だ?なぜ隠している?」


「べ、別に隠してませんっ!!宇多帝の姫です!」


「ふぅん。まぁいい。兄上に会いに行ってくる。」


顔を引っ込め立ち去った。


 主上(おかみ)への報告が終わり、若殿(わかとの)が宇多帝の姫と只ひたすら見つめ合うという、二人以外の人にとっては無意味で無駄な長~~~~い逢瀬を済ませた後、やっとのことで帰路につくことができた。


帰り道、言いたいことと残った疑問を片付ける。

「さっき、泉丸(せんまる)に宇多帝の姫が見つかってしまいました!」


若殿は不機嫌になり

「油断ならんな。あいつは。甲斐(かい)国からの帰りは別行動だったんだ。武蔵(むさし)国に会いたい人がいるとかで。」


胡散臭(うさんくさ)い人ですよね~~~!」

話を合わせた。

・・・・何度も会いたくなるほど美形だけど。

ついつい見とれてしまうけど。


不語仙(ふごせん)和尚の砂金の取り分はどうなったんですか?」


若殿(わかとの)はもっと不機嫌そうに

「たった一割ということになった。あいつが!」

ギロっと私を睨み

泉丸(せんまる)不語仙(ふごせん)和尚が実は他にも砂金のでる川の支流を隠していたと曝露(ばくろ)したんだ。横領を反省しておらずまだ他にも隠しているに違いないから、調査で明らかになった全ての砂金は税にすべきと。」


「えぇっ!!不語仙(ふごせん)和尚は他の場所を隠してたんですかっ!!それは同情しなくてもいいのでは?」


若殿(わかとの)はため息をつき

「まぁな。でも、慈善も福祉も銭が必要なのは確かなんだ。不語仙(ふごせん)和尚が悪人だとは思えない。最終的な使い道が正しければ私は断罪できないな」


雲法(うんぽう)寺の修行僧たちの腕にあった蓮の実の刺青は何だったんですか?どう見ても気持ち悪い模様なのに!」


若殿(わかとの)は思い出すように空を眺め、今にも振り出しそうな曇天に眉をひそめた。


「蓮は『泥より出でて泥に染まらず』といわれる。生まれや育った環境が劣悪であっても善人となることができるという意味が込められてるんじゃないかな?不語仙(ふごせん)和尚が引き取った子供たちは昔は悪ガキ連中だったのかもしれない。

蓮の実が生理的に気持ち悪く感じるのは『あばた』を避けるため、つまり人間には生まれながらに『疱瘡(ほうそう)』を回避する本能が備わっているからかもしれないな。」

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

『あばた』と似てるから蓮の実などブツブツが集まった絵が怖いのかなぁと思いましたが、合理的には回復後の瘢痕だから絶対安全なんですけどねぇ。

時平と浄見の物語は「少女・浄見 (しょうじょ・きよみ)」に書いております。

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