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不染の蓮(そまらずのはちす) その2

それから私は、宇多帝の姫と三日に一度は遊びながら、若殿(わかとの)が帰ってくるのを待ってた。

双六や貝合わせをして遊んだり、草子(ぞうし)を読み聞かせたり、庭に花を摘みに行ったりして過ごしてたが、寂しそうな素振りもなく、いつも通り元気そうに見えた。


若殿(わかとの)が帰京するまで、移動と調査で一月(ひとつき)はかかると思っていたけど、三週間ぐらいたつとひょっこり帰ってきた。

厩舎(うまや)に馬を入れ、敷き(わら)を整えたり(くら)をはずしたり水を飲ませたり飼葉(かいば)を運んだりの世話をした後、若殿(わかとの)の対の屋へ話を聞きに行く。


湯殿(ゆどの)で汗をながし、サッパリした顔の若殿(わかとの)に、期待で胸を膨らませつつ


甲斐(かい)国へは一体何の調査だったんですか?

教えてくれるんですか?それとも国の機密事項ですか?」


長旅で頬がこけ、目の下に(くま)ができ、無精(ぶしょう)ひげが伸びた疲れが残る顔をしつつも安堵した表情で

「ん?まぁ、これから宇多帝の別邸に報告へ行く。その途中に話そう。」


鏡で無精(ぶしょう)ひげの伸び具合を気にしながら

「ひげは剃ったほうがいいかな?浄見が嫌がるかな?」


っはんっ!!

別に(ひげ)だらけでもお構いなしでしょうよっっ!

思ったけど、薄目の冷ややかな目で見つつ


若殿(わかとの)だと分からないんじゃないですか?どこかの悪漢が来た!って怖がって逃げると思います~~~!」


(うそぶ)くと、慌ててひげを()ってた。


 宇多帝の別邸へ行く途中、歩きながら若殿(わかとの)


「よし、じゃあ最初から話してやる。」


と長~~~い話をしてくれたのを、私なりにまとめたのが以下の通り。


****************


これは、若殿(わかとの)甲斐(かい)国へ調査へ行くことになった日のこと。

内裏で、ある参議が主上(おかみ)に申し上げた。

甲斐(かい)国のxx村で、半年ほど前から疫病が流行り、かれこれ百人もの村人が死に絶えたそうです。

その村が川の上流にあることから、川を通じて疫病が下流の村々に広がることを恐れていると甲斐(かい)国守(くにのかみ)から報告がありました。どのような対策を取るべきかご下命を頂きたいとのこと。さらに、京から医師(くすし)を派遣していただくわけにはいかないかとの打診がありました。」


主上(おかみ)

甲斐(かい)国府(こくふ)もその下流にあるというわけだな?お前はどう思うのだ?」


その参議は

甲斐(かい)国は都から(とお)ございますから、様子を見守っておればいつか疫病はおさまるでしょう。わざわざ人を派遣しその者が疫病を都に持ち込んでは最悪の事態になります。」


「それもそうだな。

うん?何だ、時平、何かあるか?」


蔵人頭(くろうどのとう)として主上(おかみ)のそばに伺候(しこう)していた若殿(わかとの)


「はい。都から遠いといえど、百人もの人が死んでいるというのは事は重大です。

その疫病が万が一、都に持ち込まれたときの対策を練るためにも、医師を派遣し治療にあたらせ薬の効き目を試すなど調査もかね人を派遣した方が良いかと存じます。」


主上(おかみ)はジッと考え込んだ後

「では、蔵人頭(くろうどのとう)、お前がまず疫病の状況を調べに甲斐(かい)へ出かけ国守(くにのかみ)(国司の長官)を訪ね、詳しく話を聞け。お前の判断で現地を訪れ医師や薬が必要かを調べ、報告の文を送るようにせよ」


「ははっ」

という経緯で若殿(わかとの)甲斐(かい)国へ調査旅行へ出かけた。


****************


「なぜ泉丸(せんまる)が同行することになったんですか?」


若殿(わかとの)は首を横に振り

「確かなことは分からんが、主上(おかみ)は私が東国で密かに郡司(ぐんし)(地方の有力者)と面会する、兵馬を調達するなど不穏な動きをせぬかを見張らせるつもりだったのかもな。本人は『ずっと甲斐(かい)国へ行ってみたかった』と。」


ふぅ~~~ん。

自分(おかみ)が派遣しておいて疑うって?!

仲がよさそうに見えても腹の探り合いは欠かせないのね!!


「それから甲斐(かい)国へ着いてからはどうだったんですか?」

(その3へつづく)

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