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【番外編】仲立ちの比翼連理(なかだちのひよくれんり) その4

「でね、昨日またあいつが無断で私の対の屋に入ってきたから、父さまからもらって準備してた痺れ薬を飲ませたの。

動けなくなって、(よだれ)をダラダラたらしながらのたうち回ってたあいつを縛って刀子(とうす)でゆっくりと首を切ってやった!

血がたくさん出て興奮したわ~~~!!

切り取った頭を母さまに見せてあげたのよね?ね?いい気味でしょ?私にあんなことをした罰よっ!!」


怖っっ!!

罪に対して罰が重すぎるっっ!!

強姦に対して首切りっっ??!!


若殿(わかとの)が感情を押し殺した声で

「で、切り落とした頭は手箱の一つにしまったんですね?手箱の中身が周囲に散らかってました。」


あの豪華な蒔絵螺鈿(まきえらでん)の手箱に人の頭が入ってたのっ?

切り落とした頭が大事な宝物?

想像するだけで背筋がゾ~~~っと寒くなった。


「ッヒッ!!フフフッ!あら、もうわかったの?これから時々取り出しては眺めて楽しもうと思ったのに、取り上げてしまうの?残念だわっ!!」


「うっうっうっ・・・・・」

むせび泣く女性の声が聞こえ

「どうか、(ごく)ではできるだけ、なるべく、優しくしてやってください。お願いします。可哀想な子なんです。私たち夫婦が甘やかしすぎたせいかもしれません。・・・・うっうっう」


犯人は明らかに清華(きよか)だし、痺れ薬を用意しそれを結果的に手伝った父親で医師(くすし)(よう)も共犯の可能性があるとの事で、牛車に乗せて検非違使(けびいし)庁まで連行された。


すっかり日が暮れ、辺りは夜の湿気を含んだ冷たい空気に変わった。

涼しい風に(いや)され清々(すがすが)しい気持ちで

「これにて一件落着!!ですねぇ」

伸びをしながらスッキリした気分で

「いや~~~!簡単でしたよねぇ~~!動機も証拠もハッキリしてましたしぃ~~!」


若殿(わかとの)は険しい表情のまま

「首切り殺人は解決したが、連続婦女暴行事件はまだ解決していない。

そもそも連続婦女暴行事件が起きなければ、この殺人は起きなかったかもしれない。

・・・・少し気になることがある。

お前は帰っていいぞ!」


ポツリと呟き、急いでどこかへ走り去った。


次の日、内裏から帰ってきた若殿(わかとの)はツヤツヤの肌をご機嫌に輝かせ

「被害者たちに話を聞きに行こう!」

というのでお伴した。


なぜご機嫌?

肌がツヤツヤ?

まぁどーでもいいけど。


被害者に会い

「強姦事件の前に、見知らぬ男性から、住所、名前入りの恋文を受け取りませんでしたか?

そしてそれに返事を書きませんでしたか?」

確信を込めた目付きで見つめた。


被害者は御簾を上げて対面してくれた、ある貴族の侍女だったが、首を傾げ

「ええ。男性の住所、名前入りの恋文なんておかしいなと思いました。

確かに受け取りましたが、見知らぬ男性なので返事は返してません。」


若殿(わかとの)はハッと目を見開いて明らかに驚いたよう。


その後も強姦被害者に数人会って話を聞くことができたが、全員、差出人男性の住所、名前入り恋文を一通以上受け取ったことがあった。

返事は書いた人もいれば書かなかった人もいた。

差出人男性の名前と住所は全員違ってた。


堀河邸に帰ると、侍所(さむらいどころ)大舎人(おおとねり)姿の男が小さな子供を伴って若殿(わかとの)の帰りを待っていた。

この男に身覚えがある!

たしか宇多帝の姫と山中の寺でイチャついてた影男(かげお)とかいう身辺警護(ボディガード)だ!

顔がツンケンしてて見るからに不機嫌そう。


若殿(わかとの)の敵だ!』


思い込んで睨み付けてるとニコッと愛想笑いを浮かべ

「あんた竹丸さんだね?大納言殿に文使いを捕まえたと伝えてくれ。」


隣で水干、括袴(くくりばかま)の十歳ぐらいのどこかの使用人かな?という身なりの子供がモジモジとしてる。

影男(かげお)は子供が逃げ出さないように肩のあたりの衣を(つか)んでた。


若殿(わかとの)に知らせると侍所(さむらいどころ)に駆け付け

「お前に文を届けさせたのはどんな男だ?」


子供はモジモジしてたが、若殿(わかとの)が銭を一文とりだし握らせると二カッと笑い

「ええとね、キレイな女子(おなご)みたいな貴族さまだよ!キレイな衣を着てたからわかったんだ!

文をちゃんと届ければお礼に五文くれるというからね!」


「その文使いは一度だけではないな?どこで声をかけられた?」


「僕だけじゃないよ!市で(かぁ)ちゃんの縫った衣を売るのを手伝っていたら声をかけられたんだ!

他の子も声をかけられて文使いをしてるよ!!」


なるほど!じゃあもしかして!と思いつき

「そのキレイな貴族は耳に金と真珠の連珠の飾りをつけてなかったかい?

束ね髪、または下げみづらで頬に後れ毛を垂らしてなかった?」


子供は三人の大人が注目してることが照れくさいのか、鼻の下を擦り、また二カッと笑い

「うん!丸い珠の耳飾りをしてた!後ろで一つに括った髪型だった!紺の生地に銀の刺繍で模様が入ったキレイな衣だった!」


若殿(わかとの)と顔を見合わせ頷きあった。


あの人だ!!

泉丸(せんまる)こと源香泉さま!

宇多上皇の弟君。


束ね髪から落ちたおくれ毛や金と真珠の連珠の耳飾りが揺れて頬をチラチラ隠す感じとか、まぶたを縁取る長い睫毛がバサバサと音を立てて瞬きする感じだとか、キラめく光を宿す瞳だとか、口角の上がった形のいい唇だとか、とにかく美人だなぁ~~とついつい見とれてしまう人。

その美しさは今も健在かなぁ?

頽廃的な雰囲気もそのままかなぁ?


泉丸(せんまる)に会いに行くんでしょ?怪しい文使いのために子供を雇ったのなら黒幕でしょう?また新しい商売をしてるに違いありません!」

鼻息荒く主張してみる。

ちょっと楽しみ!!

(その5へつづく)

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