【番外編】仲立ちの比翼連理(なかだちのひよくれんり) その2
若殿は凹みつつもジロッと睨み付け
「それは構わないんだ。というか仕方がないことだ。それを言うならこっちは『尻軽浮気男』だし」
若殿の場合、家のため、家族のため、政略結婚は必須だったし、何たって宇多帝の姫はまだ結婚できる年齢じゃなかったし、本気で姫の事を忘れようとしてた時期の荒れた姿を知ってるだけに『同情してもし足りない』ほど可哀想!!
つくづく不幸というか、女運が悪いというか、厄介な女子に惚れたなぁ~~~!と哀れになった。
「で、どうするんですか?別れるんですか?」
チラッと見ると俯き青白い顔で黙ってる。
「まぁ、そんなことができればとっくに別れてますよねぇ。
じゃあフラれるのを待つんですか?」
若殿がグイッと酒をあおった。
「浄見が言うには、愛情が重いらしい。だから大勢の恋人の一人でいたいと。」
「はぁっ!!?何ですかそれ?わがままにもほどがありますよねっ!!若殿も浮気してやればいいんですよっっ!!」
宇多帝の姫と付き合いだしてから若殿は腑抜けみたいに女遊びをピタリとやめた。
いつも上機嫌で浮足立ってフワフワしてるから不気味だしこっちが心配になるほど浮かれてた。
他人の幸せほど見ていて『不愉快』なものは無いから、若殿が凹んでる今の状態は、ある意味『愉快』というか『蜜の味』。
だけど、女遊びが激しかった時代は、とにかく荒んでたというか、手当たり次第というか、心の穴を埋めようとするかのような遊び方だっただけに、姫と別れてアレを再び繰り返すのはいかがなものかとも思う。
「・・・・あの~~~ぉ、誰かぁ~~?、もし~~~?」
夜中というのに侍所に人が訪ねてきた気配がし、急いで向かうと、大納言への文を届けにきたとのこと。
紙を細く折りたたんで結んだだけの文を若殿に渡すと、開いて読んだあと、急に『満面の笑み』かつ『ご機嫌』になり
「竹丸!話を聞いてくれてありがとう!今日はもう寝る!下がっていいぞ!!」
ニヤケながら楽しそうに言い放った。
何?一体誰から何の文?
奪い取って読んでやろうかと思ったけどめんどくさいので
「ふぅわぁぁ~~~~~!」
欠伸しながら侍所に帰って寝ることにした。
翌朝、出仕する若殿を大内裏の郁芳門まで送ったとき、
「今日は浄見と過ごすから迎えはいいぞ!」
ウキウキしてる。
『はは~~ん!』ピンときて
「昨夜の文には何と書いてあったんですか?宇多帝の姫からだったんでしょ?」
「ええと、まぁ・・・
『人しれず 逢うをまつまに 恋死なば 何にかえたる 命とかいはむ』
(人知れず逢瀬を待ってる間に、もしも恋しすぎて死んでしまったなら、私って無駄死にしたってこと?)
(*作者注:本院侍従『天徳四年 内裏歌合』)
と書いてあった。」
デレデレしながら頸を扇で掻いてた。
なのに昼頃、堀河邸に帰ってきて
「急な仕事が入った。検非違使と捜査に出かけるぞ!ついてこいっ!」
とまたまた不機嫌そう。
宿直で姫と過ごす予定はどうなったの?
またサボり?
それとも土壇場中止?
どちらにしてもまた宇多帝の姫ともめた感じ?
大納言だし検非違使別当でもないし捜査する必要はないのになぜ?
弾正台の役人だった巌谷が今は衛門大尉兼、検非違使大尉になったのでその付き合い?
都の大路を並んで馬を歩かせながら
「何の捜査ですか?」
「今朝の朝議に奏上された『連続婦女暴行事件』の捜査だ。
被害件数が多いのと、ついに昨夜、被害者女性の屋敷で、殺人まで起きた。
早急に解決せよと帝の御達しでな。」
「えぇーーーーっっ!!女性が暴行されたうえに殺されたんですか?」
若殿が眉根を寄せ深刻な顔で首を横に振った。
「いや。以前暴行を受けたことがある被害者の屋敷で、今朝、見知らぬ男が殺されて見つかった。」
(その3へつづく)