【番外編】仲立ちの比翼連理(なかだちのひよくれんり) その1
【あらすじ:洛中で婦女暴行事件が相次いだ。それだけならまだしも殺人まで起きたというから時平様が直々に調べるようにとの勅命が下りた。溺愛する姫の機嫌を取りつつ事件の捜査に忙しい時平様は、今日も比翼連理に憧れる!
*普段の連載「平安貴族の侍従・竹丸の日記」(889年~890年?)から約九年後を舞台にし、一つの事件を竹丸と浄見がそれぞれの立場から記し作品とすることを試みました。この作品は事件を竹丸から見て書いた「竹丸編」です!「完全版」は連載「少女・浄見(しょうじょ・きよみ)」に追加いたします。】
私の名前は竹丸。
歳は十九になったばかりだ。
平安の現在、醍醐天皇の御代、政権首位の座につく一の大臣と言えばこの人!大納言・藤原時平様に仕える侍従である。
私の主の若殿・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中・・・・だったのは過去のこと。
現在は十六歳の妙齢の女性に成長した宇多帝の姫とイイ感じになったと思ったのも束の間、宇多帝の姫が『複数の恋人を持つ』宣言をしたからさぁ大変!
何やら不穏な空気が漂い、張り詰めた空気が満ちる時平様の剣幕という雷はいつどこに落ちても不思議じゃない!
*この作品は連載「少女・浄見(しょうじょ・きよみ)」の一部分『伊予の事件簿「夏草の逢瀬(なつくさのおうせ)」』直後から始まります。ご興味をお持ちの方はそちらもお読みいただけますと幸いです。
六月だというのに、昼間の暑さが和らいだ程度の涼しさでしかない蒸し暑い夜、侍所で夜間警備するという役目ながら、寝転がってウトウトゴロゴロしていたある夜のこと。
今夜は宮中で、一晩中、宿直のハズだった大納言である若殿がなぜか夜中に堀河邸に帰ってきた。
侍所に立ち寄り苛立った声で
「竹丸!酒を持ってきてくれ!」
命じてスタスタと立ち去った。
『は~~~い!チッ!まだ厨で仕事してる侍女に頼めばいいのにっ!!』
不満タラタラながらも起き上がって厨へ向かい、酒と自分用の枇杷を山盛りに調達して若殿のいる主殿へ向かった。
格子を閉め切り、遣戸だけが開いていたのでその前で
「若殿!酒をお持ちしました。」
「んっ。入れ!」
若殿はちょうど、奥様である廉子様に直衣を着換えさせてもらってた。
「竹丸!酒を付き合ってくれ!あ、お前はそれを食え!」
下着姿になると廉子様に向かって
「ありがとう。今日は疲れてるから一人で休む。」
廉子様は何か言いたげな表情をしたが、結局、何も言わず一礼して下がった。
この夫婦も近頃ちょっとギクシャクしてる~~というか、二人の間に流れる空気はピリついている。
ま、原因はハッキリしているが。
酒の入った銚子と器を若殿の前に並べ、私は枇杷を盛った器を前に置いて食べ始めた。
若殿が手酌で酒を注ぎ、器を口に運びながら黙り込んでるのでしびれを切らした。
「今夜の宿直はサボっていいんですか?」
若殿はピタリと動きを止め
「あぁ。そうだったな。」
「朝は『今日は浄見と過ごす!』ってご機嫌だったじゃないですか?何があったんですか?私に愚痴りたかったんでしょ?宇多帝の姫のことで」
若殿は険しい顔つきになり器を下に置いた。
「まぁな。浄見のことはお前にしか話せんからな。」
昔から宇多帝の姫に関する愚痴を一手に引き受けていた身としては、サッサとうっぷんを晴らしてくれればいいのに!この沈黙の時間無駄だなぁ~~!と思いながら話すのを待ってる。
やっとのことでフッとため息をつきながら
「浄見のところへ行ったら影男に抱きしめられて口づけされてた。」
はぁっ?
「ってぇぇえぇーーーーーっ????!!」
夜中なのに思わず大声を出す。
宇多帝の姫もああ見えてアレだなぁ~~!
純真そうなのに!
けっこーお盛んなのね?
ふ~~~ん!!へぇ~~~~!!!意外~~~~!!!
でも・・・・
「非道いですよねぇ~~~!若殿がどれだけ姫の事を想ってるかを知ってて無視してっ!!
そんな風に見えなかったですよねぇ!!
そんな、えっっと、その、『尻軽浮気女』には!」
最後はちょっと躊躇ったけど口に出してしまった。
(その2へつづく)