誘いの龍笛(いざないのりゅうてき) その7
若殿が
「話は聞かせてもらいました。
死んだふりをして四人を殺しその持ち物を奪い銭に換えた。
これは立派な犯罪です。
あなたを捕らえて弾正台に引っ立てます!」
静かだが怒りを込めた強い口調で言い放った。
葉二と従者は立ち上がって逃げようとしたが
「動くなっっ!!逃げても無駄だ!お尋ね者になりたいのか?!一生追われる羽目になるだけだぞっっ!!」
葉二と従者は動きを止め、力が抜けたようにヘナヘナと座り込んだ。
耳が尖っていて目の間隔が狭い神経質そうに見える顔を引きつらせ、葉二は項垂れながらも声を絞り出した。
「わ、私は、死にたがっている人間を手助けしただけだ。
持ち物は私の自由にしていいと言われたんだ!
証拠として本人が書いた遺書も持っている!
一体何の罪に問われると言うんだ?!」
「判断は弾正台が下します。
・・・同行して下さい。」
葉二と従者を乗せた牛車を弾正台まで送り届け、夜遅く帰宅した若殿に
まだたくさん残っている質問をぶつけた。
「ええと、まず葉二はなぜ死にたかったんですか?」
「手にかけた被害者の一人目が妻だった。
病を苦にして死にたがっていた妻を葉二は殺した。
それを妻の兄・水龍に見破られ、脅され大金を強請り取られた。
このままでは一生、水龍に銭を要求されることや殺人が明るみになり雅楽人としての名誉が台無しになることに悩み、恐れ、疲れ果てて自殺したことに見せかけた。」
「水龍は白骨を葉二だと思ったんですね?じゃあはじめは塗籠の白骨は一体だったんですね?」
「そうだ。水龍は元々妹の所有だった屋敷を相続したが、立ち寄るたびに白骨が増えていることを気味悪がり、何もせず放置した。」
「じゃあ葉二が塗籠で四人を殺したわけじゃないんですか?」
「そうだ。塗籠の床は血液で汚れた形跡もなく匂いもなかっただろ?
鳥辺野か化野で骨を拾ってきて塗籠に置いたんだ。
被害者が覚悟を決めているなら片付ける手間がいらない鳥辺野か化野へ連れて行って殺すのが一番簡単だ。」
妻を殺して以来、四人を短い間隔で殺し続ける葉二に得体のしれない不気味さを感じた。
水龍を追い払うためだけに見知らぬ人の骨を拾って塗籠に置き、その近くで何も感じず生活できる感覚は異常だ。
自殺者の手助けというより銭のために殺したんじゃないかとしか思えなかった。
「被害者は最後まで大人しく殺されたんでしょうか?
中には急に気が変わって『やっぱり生きたい!』ともがいた人もいたかもしれませんね?」
若殿は『わからない』という風に首を横に振った。
「鬼の笛の音は『この世にたぐひなくめでたく』聞こえるという。
鬼のようにすばらしく笛を吹きならせる者ならば、
鬼の所業も容易く真似できるのかもしれないな」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
安楽死って難しい問題ですが、『絶対ダメ!!!』とも思いませんがどうでしょう?
時平と浄見の物語は「少女・浄見 (しょうじょ・きよみ)」に書いております。