誘いの龍笛(いざないのりゅうてき) その6
若殿は真剣な目でギロっと睨みつけた。
「あなたは葉二が生きてることも知っている!
四人目の自殺を葉二が手伝ったのは数日前だし、
葉二が自殺を手伝い始めたのはせいぜい一月ほど前からだ!!
葉二が死んだのは三か月前だが、この四人の病状が回復せず自殺念慮を持っていることを伝えたのは一月ほど前のことだろう?」
そうか!!
なるほど~~~!
葉二は自殺したがっている人たちに
『あなたを楽にしてあげましょう。笛の音が聞こえたら外へ出てきてください。』
という文を送り、自殺を決心した人たちは葉二とともに屋敷を去ったということか。
若殿は静かな声で
「葉二はまだ生前と同じ屋敷に住み続けているんですね?
あなたたちはまだ付き合いを続けていますね?」
釘打はあきらめたようにため息をつき
「そこまでご存じなら、何も言う事はありません。
ええ、そうです。
最初は葉二自身も何か悩みがあったらしく、典薬寮を訪れ、夜眠れるように薬を求めてきました。
私が処方すると喜んでいましたが、しばらく薬を飲んでも状況は改善しなかったようです。
そして三か月ほど前、ついに自殺したくなったと言ったのです。
止めましたが決心は硬いようでした。
しかし、彼が自殺したという報せの後もなぜか彼からの文が届き、私はそれに返事を送りました。
結果について深く考えず苦しみから解放されたがっている他の患者のことも書き送ってしまいました。
まさか、葉二が自殺を手伝うような真似をするとは思いもよりませんでした。」
項垂れ、沈んだ表情でポツリポツリと話した。
若殿がその足で弾正台に立ち寄り巌谷に報告を終えた。
「次はどこへ行くんですか?」
「葉二の屋敷をもう一度訪ねる。葉二がいるかもしれない。」
屋敷へ向かう途中、馬の背に揺られながらあれこれ考え込んでしまった。
まず、生きていられないほど苦しんでいる人がいること。
葉二もそうだったこと。
葉二は悩んで自殺したがっていたのに、なぜ自殺したように見せかけ、他の人を手にかけているのか?
自殺ほう助と言うと聞こえがいいが、結局することは殺人と同じだ。
殺した後で『本人が死にたがっていた』と言い訳できるところが危ない。
自分の快楽目的や金銭目的に殺したのかもしれない。
再び荒れ果てた葉二の屋敷に忍び込み、今度は廊下に上がらず、縁の下から姿勢を低くしてコソコソと主殿に近づいた。
主殿から人の話し声がボソボソと聞こえた。
「私は市でこれを米と魚に替えてくる。お前は牛の世話をしてくれ。」
「はい。
・・・・・あの、葉二さま、いつまでこんなことを続けるおつもりですか?
弾正台の役人に白骨が見つかってしまいました。
先日は運よく身を隠すことができましたが、我々が見つかるのも時間の問題です。」
「ふん。心配するな。この屋敷は今、あの強請り野郎の水龍の財産だ。
役人が勝手にどうこうできるものではない。
その水龍がこのまま白骨を気味悪がり祟りを恐れてここを処分する気が起きなければ、我々は住み続けることができる。
全くっ!!感謝することだな!白骨さまさまだ!!」
「しかし、笛で誘い出し殺した者たちから身包みを剥ぎ、それを食料に変えて生活するなど、このような非道で下劣なことなど!・・・・これ以上耐えられません!!」
おそらく葉二とその従者の会話。
隣の若殿がザッと勢いよく立ち上がった。
ヒョイと縁に上ったので私もあわてて真似してヨッコイショと登った。
葉二と従者は驚きの表情でこちらを見つめて呆気にとられている。
(その7へつづく)