誘いの龍笛(いざないのりゅうてき) その5
「水龍が白骨化した遺体とともに遺書を見つけたそうだ。
しかし先ほど調べたところでは、紙と筆、墨や笛の楽譜や書はあったが、葉二がやり取りした文はなかった。」
う~~~ん、じゃあ葉二の妻の死を確認したのは葉二と水龍だけで
葉二の死を確認したのは水龍だけでしかも白骨だし。
生きてる可能性が極強だよね~~。
またまた捜査は行き詰ったかに見えた翌日、大内裏にある雅楽寮へ葉二の同僚に話を聞きに行くというのでお伴した。
雅楽寮の同僚に
「葉二の見た目の特徴は?」
「そうですねぇ。耳が尖ってるところと、目の間がちょっと狭いぐらいですかね?」
思わず芸術家肌の神経質そうな顔を想像してしまった。
次に若殿はなぜか典薬寮を訪ね、四角く区切られた空間に薬草をしまってある棚や材料をすりつぶす鉢や棒や天秤を置いてある机、たくさんの巻物や書をしまってある棚、調合が終わった紙包みやそれ以前の材料を持ってウロウロしてる人々をぐるっと見回した。
一人を捕まえ、袂から紙をとり出して開いて見せ
「この人たちを診ていた医師が誰かわかりますか?」
「ああそれなら・・・・」
『誰々に聞いてください』を繰り返し、たらい回しにされたあと、やっと目的の医師を突き止めた。
その医師・釘打は鬢(こめかみあたりの髪)が白髪になっている、気難しそうな五十ぐらいの男性。
若殿は紙を見せ
「この人たちのことを葉二に話しましたね?」
釘打はハッと驚愕して身構えたようだった。
「な、何の話ですか?葉二とは誰ですか?この患者たちのことを話したとは一体どういう意味でしょう?」
その様子を一瞥し
「そもそも、宮中に勤めるこの人たちは病に苦しみ、典薬寮を訪れあなたから治療を受けていた。
ですが長い間、病状が改善せず死にたくなるほど苦しんでいましたね?
そのことをあなたが葉二に伝え、葉二は彼らの自殺を手伝った。
違いますか?」
釘打はブルブルと全身を震わせ首を横に振り
「いいえ!!そんなことはっ!
葉二はすでに死んだ人間でしょうっ?
できるはずがないっっ!!」
(その6へつづく)