誘いの龍笛(いざないのりゅうてき) その4
その夜は現場をそのままにして関白邸に帰ることにした。
道中、疑問を解決すべく若殿に
「急使が持ってきた文には何とあったんですか?なぜあの屋敷に向かったんですか?」
「ああ、あれは巌谷からの文だ。
『都を夜間警備中の役人が笛を吹いていた男を見つけ尋問しましたが、特に怪しいところがなかったのでそのまま放免しました。
身元を聞き取り、念のためその男が乗った牛車の後をつけ、住所を確認しましたので報告します』
とあった。」
「へぇ~~~、で誰なんですか?あの怪しい骨のあるボロ屋敷の持ち主は?まだあそこに住んでるんですか?」
若殿は面白そうに眉を上げ私の顔を覗き込み
「名前を葉二というそうだ。雅楽寮の笛工だったそうだ。」
「なるほど~~!じゃあ笛が上手いはずですよね~~~。
ってアレ?
葉二が四人の誘拐犯なら事件当日の四日とも現場不在証明は無いはずですよね?
見落としたんですかぁ~~~!?
全く!ユルイなぁ~~~!
正しい情報をちゃんと教えてくれないと捜査できるワケないでしょっ!!」
若殿がニヤニヤしながら薄目で私を見て
「だから、笛工『だった』と言ってるだろ?
三か月前に葉二は死んでるんだ。
警備の役人が見たのは亡霊だったというわけさ。」
ひゃーーーーーっっ!!
「じゃあ、あの骸骨は葉二だったんですかっ?」
「それは調べてみないとわからん。」
「じゃ、じゃあ、あの屋敷の持ち主は誰ですか?葉二ですか?」
「そうだ。笛を吹いていた男が名乗った名前が葉二で、役所の知る葉二の住所はあの場所で正しかった。
おかしいのは葉二が三か月前に鬼籍に入っているということだけだ。」
鬼籍?戸籍じゃなく?
「ええと、じゃあ、今までの出来事をまとめると、死んで鬼になった葉二が夜な夜な笛を吹き、人を攫って喰い骨にして塗籠に放置したってことですか?」
若殿がムッとした表情で
「だから、明日骨を調べるまで何もわからん!!
笛を吹いていた男が葉二の名を名乗っただけかもしれんだろ?
生前の葉二を知る者に特徴を聞き、笛吹き男の特徴と一致すれば葉二だと言えるかもしれんが。」
次の日モチロン同行し調査を見守っていると、明るい太陽の下に引っ張り出された骨は人のもので、数は五人分だと判明した。
絵巻物でしか見たことのない本物のシャレコウベ?!にビクビクしてたけど、白く乾いて匂いもない骨なので現実味がなく案外平気だった。
若殿は塗籠の床を綿密に調べてた。
見た目はフツーの木の床だったけど、何が気になったんだろう?
若殿は屋敷の長櫃や棚を開けて調べつくし、生前の葉二が残した龍笛や狩衣や袴、小袖、靴下や扇、烏帽子などの日用品があることを確認し、葉二の妻のものと思われる何枚もの単衣や袿、小袖や袴、櫛やかもじなどの身の回りの品があるのも確認してた。
「そう言えば葉二の妻はどうなったんですか?」
「葉二より一年も前に亡くなったそうだ。」
「自分が死ぬまで妻の遺品を取ってあったんですね。
しかもよっぽど着道楽だったのか袿も単衣も何枚もありましたねぇ。」
ハッ!と忘れてた質問を思い出し
「葉二が死んだのは確かなんですか?なぜ死んだんですか?」
「塗籠で自殺したらしい。
一月ほど姿が見えないのを怪しんだ水龍という、葉二の妻の兄が発見した。
既に白骨化していたという。」
「葉二の妻はなぜ死んだんですか?」
「それがよくわからない。
葉二が役所に妻が死んだと届け出たが、遺体を確認したのは兄である水龍と葉二だけで、死因も病だという葉二を信じるしかない。
近所の薬師に見せた形跡もない。」
ふぅ~~~ん。
じゃあ、あの白骨の五人のうち二人は葉二とその妻ってことかぁ。
アレ?と思って
「葉二の自殺って判断したのは遺書か何かがあったんですか?」
(その5へつづく)