誘いの龍笛(いざないのりゅうてき) その3
若殿は眉をひそめ
「だが巌谷の調べたところによると笛の名人の中に、四人の共通の知人はいなかったらしい。」
ふぅん。
「でも複数犯なら別にいいですよね?」
若殿も半信半疑の表情で
「まぁな。」
と肩をすくめた。
数日後に届いた巌谷からの報告では、『犯行可能な日』が異なる人たちの間で親交が深い人々も見当たらなかったらしく、ここで捜査は行き詰った。
しばらくモヤモヤした日々を過ごしていたが、時々事件について何気なく思い出した。
特に行方不明被害者が受け取った文の中に
『あなたを楽にしてあげましょう。笛の音が聞こえたら外へ出てきてください。』
と書いたのがあり
それがずっと心の片隅に引っかかっていた。
都の夜の警備を強化すると巌谷は受け合い、その成果がすぐに出た。
数日後の真夜中、関白邸に急使が駆け込み、若殿に文を届けた。
文を読んだ若殿が
「竹丸!馬を用意しろっ!」
命じると同時に、太刀を佩くと急いで馬を駆る。
遅れまいと必死でついていった。
小路の端の木に馬をつなぎ、ボロボロに崩れかけた築地塀にそって、忍び足で前を歩く若殿に
「ここはどこですか?」
ヒソヒソと訊くと
「しっ!!」
黙るように合図された。
崩れかけた築地塀をたどって門に着くと、若殿が中を覗き込み、車宿に質素な牛車が止まってるのを確認した。
しばらく様子を窺っていたが、人気がないと分かるとこっそりと屋敷内に入り、さらに黙って中門廊(廊下)に土足でヒョイと上がった。
真似して私も土足で上がる。
その屋敷は車宿や侍所もある立派な造りだが、雑草がぼうぼうと生い茂り、雑木も所かまわず生え、とくに竹が林をなして茂っていた。
土足で上がっても心が痛まないぐらい、廊下も柱も色が黒く変色し朽ちてたし、屋根も雨漏りしてそうなぐらい荒んでた。
キョロキョロ辺りを見回し
「誰もいないんじゃないですか?」
一応声をひそめる。
廊下を足音を立てないように渡り、西の対、主殿まで来たが、格子もなく、御簾もかかっておらず、あるものと言えば円座や表面がボロボロの長櫃、帷が破れて穴だらけの几帳、紙がヨレヨレで破れた衝立、床板もところどころ朽ちていた。
空き家だと勝手に判断し、すっかり安心して結構大きな声で
「人は住んでないんじゃないですか?
でも牛車は割とキレイでしたよね?」
若殿がキッ!と振り返って睨み付け
「黙ってろっ!」
小さく叫ぶ。
再び忍び足で塗籠まで来ると若殿が妻戸に手をかけゆっくりと開いた。
対の屋は壁がなく、月明かりが差し込み外とほぼ同じ明るさなので夜闇に慣れた目なら、物の輪郭はわかるが、塗籠は土壁で囲われているので、妻戸から差す光だけが頼り。
当然中は真っ暗で何も見えない。
・・・なのに!!
開いた妻戸からわずかに差し込んだ月明かりを映す床の上に
うっすらと白いモノが浮かび上がった。
自然と全身が緊張し、目だけをジッと凝らす。
白いモノは丸かったり、細長かったりがいくつもあるように見えた。
ゴクリと唾を飲み込み
「あ、あれは何ですか?」
若殿が妻戸を閉め
「多分、骨だ。人のものかどうかわからん。夜が明けてから巌谷と詳しく調べることにする。」
ボソリと呟いた。
えぇーーーーっっ!!
なぜ人骨がこんなところに?
しかも、怖ろしいことに・・・・・
背筋からゾクゾクと寒気が這い上がり、
さっき見た光景を思い出した。
丸い頭蓋骨と思われる骨が何個もあったように見えたけど?!!
やっぱりどーみても人の骨でしょっ!!
何人分っ?
なぜここにっ?
誰が持ってきたのっ?
何のためにっ?
それとも・・・・まさかっ!
ここで死んだのっ?
殺されたのっ?
どの答えでも充ーーーー分っ怖いんですけどっっ!!!
(その4へつづく)