誘いの龍笛(いざないのりゅうてき) その2
巌谷はウンウンと何度も頷き
「も、もちろんですっ!!
犯行当日の現場不在証明が無い者が犯人なので、笛の名人の中でその人物を探しました。
しかし、四人が行方不明になった日の全てに現場不在証明の無い人物は誰もいないのです!!
ですから、捜査が行き詰ってしまって、恥を忍んでこうして助言をお願いに参ったわけです。」
「同一犯ではなく、複数で誘拐事件を起こしたなら、四日のうちどれかに現場不在証明があってもかまいません。」
巌谷は組んだ腕の片方で顎をつまみ
「ということは・・・・」
と言ったきりウ~~ンと唸ると考え込んだ。
私も考えてみる。
ええと~~~、だから~~~現場不在証明がある日は犯行してないってことで、その日に別の人が現場不在証明が無ければその人が犯行したってことで、その人たちが親交があればいいから・・・・・つまり、どーゆーこと?
ややこしいなっ!!!
何を探せばいいのっ!!?
巌谷も黙ったままなので若殿がしびれを切らし
「つまり、『現場不在証明が無い日』、言い換えれば『犯行可能な日』が異なる人たちの間で親交が深い人々を探せばいいんです。」
巌谷がアッと合点し
「はいっ!!わかりました!ではそのように捜査しますっっ!!」
慌てて出ていこうとするのを引き留め
「行方不明になった人たちの家族や近隣住民に聞き込みはしましたか?
調書があるなら持ってきてください。
もちろん、笛の名人たちの調書もです。」
「はいっ!!では急いで手配しますっ!!」
キビキビと立ち去った。
真面目で仕事熱心なところはいい人。
ただし、若殿を使って楽して解決!ってズルしようとするところは抜け目ない狸オヤジ?
まぁ若殿も楽しんでるしタダで捜査してあげてもいいんじゃない?
・・・・まてよ、もしかして私が若殿の代理を名乗れば、報酬を受け取ることができるんじゃないか?
後で試してみよう!
事件が解決したら、こっそり巌谷を訪ねて話を持ち掛ければいい!!
ックックックッ!!
楽しみすぎて笑いが止まらない!!
しばらくして巌谷の使いの者が調書を持ってきた。
若殿が手に入れた調書を見せてもらう。
あらましは全ての事件で同じで、
・『真夜中に門の外から美しい曲を奏でる笛の音が聞こえた』と家族や使用人が証言。
・笛の音は近隣住民のなかにも聞いた人がいた。
・次の日、被害者がいなくなったことに家族や使用人が気づいた。
・被害者が外出したところを直接見た人はいなかった。
・侍所の警備の下人の一人が、笛の音をきき門の外へ出てみると、音が止み、質素な牛車に狩衣姿の人物が逃げ込んだのを見た。
読みながら考えを整理しようと
「う~~~ん、つまり、犯人は笛で合図して被害者を呼び出し牛車に乗せて連れ去ったんですね?
じゃあ知り合いってことですよね?
あらかじめ合図を決めてたんだから!」
独り言のようにボソッと呟く。
若殿は隣で黙ったまま調書を読みふけってる。
読み進めると家族や使用人の証言に
「行方不明になる数日前から被害者は何かを気にしている素振りを見せた。持病の悪化を恐れていた。」
とか
「被害者は失恋のショックで落ち込んでいて、長い間泣き暮らしていた」
とか
「『宮中に勤めに出る気力がない。何もしたくない』と言っていた。食欲もなく痩せてしまった」
とか
「些細な出来事に悲観的になり、クヨクヨと考え込んでいた。文を読んで、明るい表情を見せたこともあった。」
とかがあった。
フムフム!
そのうち『ハッ!』と被害者のある共通点に気づいた。
「わかりましたっっ!!
四人とも宮中に勤めに出ている人です!
ええと、内教坊(舞踊・音楽の教習が職掌)の女儒、後宮で雑用をする女儒、xx女御付きの女房、の女性三人と一人だけ男性の、勘解由使次官の官人です!」
エヘン!と得意になって言い放つ。
返事がないけど
「・・・という事は犯人も宮中に勤めてるか住んでる人で、この四人の知り合いじゃないんですか?」
(その3へつづく)