難波津の怪異(なにわつのかいい) その7
数日後、若殿は波男から『アレを入手できた』との文を受け取り、使いの者をやって波男と浪花を関白家に招いた。
同時に温子様に文を出して里帰りさせ、ついでに伊勢も関白家に招待した。
次郎様はまだ病床に臥していたので、伊勢が見舞った後、若殿は東の対の屋に一同を集めた。
いよいよ次郎様毒殺未遂事件と海の妖怪憑依事件の解決を教えてくれる!!
興奮でドキドキが止まらない!
東の対の屋では若殿一人に対し、左側に温子様と伊勢が並び、それに向かい合って浪花と波男が並んで座った。
私は対の屋の廊下ギリギリの端に若殿の横顔を見て座った。
若殿は揉み手しながら瞳をキラキラさせて
「では、まず次郎毒殺未遂の犯人をお知らせしましょう。
伊勢から次郎へあてた文箱に真栄蔦と文を入れたのは・・・・」
一同を一人ずつ見つめ、温子様のところでぴたりと止まった。
「私?そうですわね。
確かに絡み合った真栄蔦に文を結び付けたものを文使いに渡し、伊勢からの文だと言って次郎に渡せと命令しましたわ!
文箱?には入れてないわよ!
それがどうしたの?」
温子様がキョトンとして言い放った。
若殿は呆れたようにため息をつき
「お前の文使いは、めんどくさがって伊勢からの文も一緒にしてしまえと同じ文箱に入れて次郎に届けたんだよ。
お前が余計な事をしたせいで次郎は毒の蔓を葛の根と一緒に煎じて飲んでしまったんだ。」
温子様は思わずアッと大きく口を開き、急いで扇で隠し
「まさか!えぇっっ?!次郎は真栄蔦の毒にあたって寝込んでいるの?!!まぁ!何てことでしょう!」
焦って心配そうにしてたが
「でも死ぬほどの量を飲まなくて良かったわ!大丈夫なんでしょ?兄上?」
すぐにケロッとして若殿に確認してた。
若殿がギロっと睨みつけ
「お前が伊勢の肩を持ち恋文と真栄蔦を届けようとしなければ次郎は何事もなかったがな。」
でも・・・・まぁ・・・・温子様は良かれと思ってしたことだし・・・・
次郎様も口に入れるものが何かぐらいちゃんと確認してから煎じなきゃ!!!
「では次に、浪花に憑りついた海の妖怪についてですが・・・」
若殿が話しながら波男に目で合図すると、波男が立ち上がって、どこかから一抱えもある水瓶を持って入ってきた。
皆の中央に置き、若殿が
「一人ずつ中を確認してみてください。」
波男以外の女性陣が困惑しながらも順番に瓶の中を覗きこみ
「まぁっ!!」
「えぇっ!!」
「イヤっっ!!」
口を扇で隠しながらも感嘆の声を上げた。
温子様は背筋がゾクゾクしたときみたいに気味悪そうにブルっと身体を震わせてた。
伊勢は案外平気な顔で、浪花は目を袖で隠しながらチラ見してた。
いよいよ私の番だ!!
期待と恐怖でドキドキしつつ意気込んで水瓶を覗き込む。
そこには黒い、遠目で見ればまさにかもじの括った部分を持ってひっくり返した時のようなものがあった。
一寸(3cm)ぐらいの短い黒い毛のようなものがびっしり生えた数本の黒い脚(?)が放射状に広がり、上下にうねうねと動きながら漂っていた。
一本の黒い脚の長さは一尺(30cm)ぐらい。
何コレっっ!!キモっっ!!
(その8へつづく)