難波津の怪異(なにわつのかいい) その6
伊勢は気が気でならない様子で
「ええと、普通の生薬です!乾燥した葛の根ですわ!薬師に分けてもらったんです!まさかそれに毒が入ってたんですか!!」
「いいえ。そうではありません。
では、あなたが送ったのは葛の根と『早く元気になってね』という文だけですね?」
伊勢は心配そうな顔でウンと頷いた。
ここまで聞いて私は思わず
「じゃあ一体誰が毒の蔓を次郎様に送ったんですか?同じ文箱に入ってたなら伊勢の仕業でしょう?!!」
若殿が難しい顔をして
「いや、次郎に送る文の内容を確認し、誤って毒を飲ませようと真栄蔦を混入させた者がいるのかもしれない。
次郎に恨みを持つもの・・・・。」
私もう~~~んと考え、ハッとひらめいた!
真栄蔦はかもじを意味しているのでは?
それなら犯人は・・・・
若殿が再び浪花に会いに行くというので『やっぱり!』と納得してついていった。
同じように出居に通され浪花と御簾越しに面会し早速
「仲平に最後に送ったものは何ですか?」
浪花は驚いたように息をのみ
「ええと、何のことでしょう?仲平様に?何も送ってなどおりません!
しつこく名前とこの屋敷の住所を聞かれましても答えませんでしたのに・・・・!
なぜ?何をお疑いになっているの?」
涙声で今にも泣きだしそう。
浪花の窮状を察したのか東の対へ渡る廊下を狩衣姿の中年男性が渡ってきた。
「あの~~、もし、頭中将様ですか?
私は浪花の叔父の波男と申します。
浪花は心根の優しいいい子です。
何を疑ってらっしゃるのか存じませんが、他人に迷惑をかけるようなことはしません。
それに、宮中で主や同僚に虐められ困り切り弱り切って、思い出しては泣き疲れて床に臥す日が続く毎日です。
浪花のこの美貌のせいで関白殿に目をつけられ気苦労の絶えない後宮に上げられたうえに、その若君に付きまとわれ、悪い噂を流されたせいで病を得てふさぎ込んでいるというのに、全く、あなたがた関白家の人間はどこまで我々を痛めつければ気が済むんだ。」
静かな口調だったが最後は怒りが抑えきれず声が一段と大きく高くなった。
全て波男の言う通りなので、私まで身につまされ申し訳なくなって小さく縮こまった。
次郎様の女好きと大殿の権力への執着心は私のせいではない!!
温子様も悪気があって『海の妖怪が憑いてる』と揶揄ったわけではない!・・・と思う
が、関白家の一員としては(例え使用人でも)、よってたかって浪花を苛んだようで心持が悪い。
若殿もちょっと耳の痛そうな顔をしていたが『ハッ!』と何かを思いつき
「あなたは確か、難波津から水揚げした魚介類を運び、京の市で商っているんですよね?」
不機嫌そうな波男が頷くのを確認した後
「少しお願いがあるのですが・・・・もし引き受けてくだされば浪花の悪い噂はたちどころに消えることを保証します」
ヒソヒソと何かを耳打ちしてた。
波男が眉をひそめ疑い深そうに
「そんなことで浪花の悪評が消えるんですか?それなら何としてもそれを手に入れましょう。」
悪評って『海の妖怪が憑いてる』ってこと?
何を入手すればそれが消えるってゆーの??!!
(その7へつづく)