難波津の怪異(なにわつのかいい) その5
若殿はいよいよ後宮に、温子更衣様と伊勢に話を聞きに行くというので、当然私は同席できなかった。
ふくれっ面で関白邸で待機してると、夜帰ってきてその内容を全部話してくれた。
その内容を私なりに整理してみた。
若殿はまず温子更衣様と面会した。
確か容貌は、一見すると若殿とあまり似ていないが、顎のくっきりと尖ったところは似ている。
目元が若殿よりもさらに切れ長で冷たい印象で、じっと見つめられるとこっちの考えを見透かされているようで怖い。
一言で言うと切れ者って感じがする。
若殿は次郎様の病状を知らせず質問した。
「浪花の悪い噂と病の原因となった伊勢はどんな女子ですか?」
温子様は二人のいざこざにウンザリしているのか投げやりに
「そうですわね。伊勢は目端が利く、話も面白い、和歌も上手い、全てに聡い女子ですわ!
こちらの言ってほしいことを先読みして答えてくれるから、退屈しないし、楽しい、気の合うお友達みたいな人です。
浪花はウジウジしてちょっとしたことに敏感になりすぎる人ね!
伊勢だってわたくしだって虐めようとしたわけじゃないんです。
『浪花が海の妖怪に憑りつかれたんですってぇ~~!面白いわねぇ!!ちょっと髪の毛を動かしてみてちょうだい!』
とか冗談で言ってみただけなのに、気にしてふさぎ込んでしまって、ついには親戚の屋敷に帰らせてもらいます!って帰っちゃったんです!」
被害者が虐められてると思った時点で加害者は悪者なんですよぉ!!
若殿は
「伊勢と浪花のいざこざの原因は次郎でしょう?
次郎は浪花にも手を出したんですか?」
温子様は呆れ顔で
「そうなんです!
兄上からも叱ってやってください!
次郎が先に文を送り、やっと伊勢を口説き落としたというのに、面会に来てそばに仕える浪花を見た途端、視線がくぎ付けになり何とか名前を聞き出そうとしてるところに伊勢が現れたんです!
伊勢の機嫌を取ろうとペコペコしてる様子なんて無様で見てられなかったわ!
兄上はそんな醜態をお曝しにならないでしょ?」
よゆーで宇多帝の姫へお曝しになってる!
若殿が平然とウンと頷き
「じゃあ、伊勢を怒らせたという事か。」
考え込んだ。
温子様は何食わぬ顔で続ける。
「さぁ、それよりも嫉妬で不安になってたみたい。
伊勢が次郎の気持ちをもっと惹き付けたい!と悩んでいたので、わたくしが一肌脱いだんです!」
得意げに言い放った。
次に若殿は伊勢に面会した。
伊勢はどんな人ですか?と若殿にきいても
「う~~ん、あまり印象に残らない顔だったな。美人・・・だったような?
いや、そもそも扇で隠してたからよくわからないなぁ。」
って興味ないからよく見てないのね!!
若殿がギロっと伊勢を睨みながら(多分)
「私の弟、仲平に一番最近、何を贈りましたか?」
伊勢はツンと澄ました顔で
「頭中将様、兄君と言えども個人的な事をお話する義務がありますか?」
「このままでは仲平毒殺未遂の下手人として捕らえられ、弾正台に引っ立てられ裁かれることになりますが?」
伊勢は驚き、ソワソワし始め
「ま、まさかっ!!そんなっ!何があったんですか?毒にあたったんですか?なぜ?!容体は?大丈夫なんですか?このまま儚くなるというなら、最後に一目だけでもお会いしたいわっっ!お願いします!会わせてくださいっっ!」
と言ったらしい。
情熱的?だし真剣の恋愛っぽい。
若殿は少し眉を上げ
「あなたが最後に送ったものは何ですか?」
(その6へつづく)