松林の人喰い鬼(しょうりんのひとくいおに) その6
這子の表情は葉五の様子をうかがうような、何かを探るような真剣な目つきだった。
葉五は若殿に目を移し
「彼女は誰ですか?」
若殿は口の端で笑い
「這子という掃部寮の女官で紅子の従妹だそうです。お知り合いではないのですか?」
葉五は驚いたように目を見開き
「いいえ。知りませんでした。今日初めて会いました。
彼女と似ているので驚きました。
ただ、紅子はもっとふくよかで明るく元気で、そばにいるだけで温かい気持ちになるような人でした。」
「確か黒枝ともお付き合いされていたそうですね?
二人の恋人が宴の松原で亡くなるとはお気の毒です。」
若殿の言葉に葉五の瞼に痙攣が走ったように見えた。
葉五がフッと寂しそうな笑みを漏らし
「私と付き合えば死ぬというなら、結果的に彼女たちを死に追いやった私こそが松林の鬼ということですかね?」
『うん!多分そう!!』
言いそうになったがここは『違いますよぉ~~~』と言ってほしいんだろうな。
若殿も慰めず真顔で
「黒枝は紐で頸を絞められたわけですから、おそらく鬼ではなく人の仕業です。犯人に心当たりはありますか?黒枝を憎んでいる人はいましたか?」
葉五はボンヤリと考え込み
「黒枝を一番恨んでいるのは、・・・・きっと紅子でしょう。私が彼女に乗り換えたと思っているでしょうから。紅子とは来世も恋人同士になろうと誓った仲でしたから。」
紅子があの世から生き返って鬼となって黒枝を殺した?
でもそれなら従妹の這子が代わりに恨みを晴らすために黒枝を殺したかも?
でも一番悪いのは乗り換えた葉五だから葉五を殺すべきでは?
葉五と別れ、弾正台に向って歩きながら若殿が這子に話しかけた。
「あなたが宮中へ出仕し始めた時期はいつごろですか?誰の紹介ですか?」
「つい一月ほど前です。紅子の父親で私の叔父にあたる人の紹介です。以前、大舎人でしたから紹介を頼みました。」
無言で歩き続ける静寂に耐えきれず若殿にヒソヒソと
「あの~~、もしかして、黒枝を殺した犯人がわかったんですか?
這子を連れて弾正台にいくのは這子が犯人だからですか?」
若殿がこちらを向いて満面の笑みでニヤッと笑った。
何っ?どうなのっ?
ハッキリ言ってくれればいいのにっ!
イラっとしたが自分で考えてみる。
う~~~んと・・・・ひとつめに考えられる事件の真相は
『葉五を寝盗られた紅子の恨みを晴らすため這子が黒枝を殺した。』
この場合は葉五も恨まれてるハズ?
次は
『葉五が何らかの性嗜好異常者で快楽のために黒枝を殺した。』
その場合は紅子も殺した?
でも殺し方が違いすぎる!
最後は『唐子が黒枝と喧嘩して殺した。』
この場合は二年前は鬼のしわざで、今回は黒枝に腹を立てた唐子がやったというだけ?
この中に答えがあるのかなぁ?
(その7へつづく)