表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
210/369

松林の人喰い鬼(しょうりんのひとくいおに) その5

『鬼頻出区域(ゾーン)』の松林をやっと抜け、観念したような這子(はいこ)と連れ立って右兵衛府についた。

若殿(わかとの)は建物の入り口で翌檜(あすな)を呼び出してもらった。

翌檜(あすな)は兵衛府の武官である兵衛(ひょうえ)だから近衛府(このえふ)権中将(ごんのちゅうじょう)である若殿(わかとの)は直属の上司ではないが、おなじ六衛府(ろくえいふ)のなかでも近衛府(このえふ)が一番地位が高いので、その上から三番目?の地位である若殿(わかとの)に対しては畏敬なのか恐縮なのかカチコチになってた。


翌檜(あすな)は生真面目そうなハキハキと話すシャキッと姿勢のまっすぐな二十代半ばの好青年。

連れ立ってる這子(はいこ)をチラッと見ただけで視線を若殿(わかとの)に戻し、『何でも聞いてください!』とキラキラした目で見つめる。


「では、二年前の紅子(べにこ)の手足を発見した経緯(いきさつ)から話してください」


翌檜(あすな)はコクっと短くうなずき

兵衛(ひょうえ)府で宿直しておりましたところ夜中に女官二人が駆け込んできまして、キョロキョロしておりましたので私が対応したところ『友人が鬼に喰われた』と言いますので、現場に駆け付けました。

細い、筋肉のない女のものと思われる、肘から手先までの右手と、肩の下から手先までの左手、膝から足先までの右足と、(もも)から足先までの左足がありました。

その直後、二人から聞いた『鬼出現!』の一大事(いちだいじ)と現場の状況を上司に全てくまなく報告し、大内裏(だいだいり)中ひいては都中の知るところとなったのです。」


ひぇ~~~!具体的に聞くとグロいっ!


若殿(わかとの)は眉をひそめ

「手足の断面から血はでてましたか?」


翌檜(あすな)は『さて?どうだったかな』と言う顔つきで考え込んだ後

「そういえば、現場にも血は落ちていませんでしたね。翌日の朝見た時も断面は黒く変色し固まっていました。」


「翌朝、手と足に触りましたか?硬さはどうでしたか?」


「ええ。夜は暗いのでそのままにしておき、手と足を回収したのは朝でしたが普通ですよ。生きた人のような硬さです。」


「他の部位はなかったんですね?」


「はい。」


う~~~ん。遺体の回収までちゃんとするとは生真面目な人。


若殿(わかとの)が疑念を少し込めた目で翌檜(あすな)を見て

兵衛(ひょうえ)の職責を超えているようですがなぜ遺体の回収までしたんですか?」


翌檜(あすな)は褒められたと勘違いしたのか上気した顔で

「はっ!一度引き受けた仕事は最後までやり通すことが使命であると決心しているからですっ!」

チャキ!っと姿勢を正した。


若殿(わかとの)は礼を述べ翌檜(あすな)を右兵衛府に帰すついでに葉五(ようご)をここに呼び出してもらった。


葉五(ようご)翌檜(あすな)と打って変わって気だるげな二十半ばの青年で、おそらく地方の豪族か郡司の子弟で、京では社会勉強のため兵衛(ひょうえ)に配属された感じの人。

地方に帰って跡を継ぐので、都で上司の機嫌をうかがう必要はないと考えてそうな態度で、若殿(わかとの)を見てもちょっと顎を動かし挨拶する程度だった。

武官なのに色白で冠からのぞく後れ毛の長さと位置をいつも鏡を見ながら気にしてイジってそうな、ぱっと()イケメン。

でもよく見ると部分(パーツ)の形とバランスがイマイチの平凡な顔立ち。

『雰囲気イケメン』なのでフツーに女性からはモテそう。


若殿(わかとの)の後ろにいる這子(はいこ)と目が合ったらしく突然ピタリと硬直したと思ったら、ゴクリと息をのむ音が、少し離れて立っている私にまで聞こえた。

(その6へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ