表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/367

貪欲の秋茜(どんよくのあきあかね) その1

【あらすじ:時平様の父君が用意した歌合の席で、出席者の一人を見た途端、ある姫君が気を失って倒れ込んだ。その姫君には、数日後に起こった殺人事件へとつながる過去があった。時平様は今日も真実にたどり着く唯一の合理的結論を導き出す。】

私の名前は竹丸。

平安の現在、宇多天皇の御代、日本で権勢随一を誇る関白太政大臣・藤原基経(ふじわらもとつね)様の長男で蔵人頭・藤原時平(ふじわらときひら)様に仕える侍従である。

歳は十になったばかりだ。

 私の直の(あるじ)若殿(わかとの)・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中。

宇多帝の別宅に訳アリで、隠し育てられている姫を若殿(わかとの)は溺愛していて、周囲に気づかれていないと思っているが、使用人はじめ母君・大奥様にもバレバレ。

若殿(わかとの)いわく「妹として可愛がっている」。

でも姫が(から)むと、はたから見てもみっともないくらい動揺する。

従者としては、たかが小さな女の子に振り回されてる姿はいかがなものか。

今回は貪欲であり続けられるというのも才能ですよね!というお話(?)。

 ある日、大殿(おおとの)主催の歌合(うたあわせ)がこの藤原邸で行われることになった。

前回の歌合(うたあわせ)大殿(おおとの)判者(はんじゃ)となって万事取り仕切り、主役になって目立つため(?)だったが、今回は若殿(わかとの)を『健全な青少年の恋愛』に目覚めさせるため(?)のようで、年頃の貴族の娘さん三人と、テキトーな男性貴族を二人呼び寄せ、さながら集団お見合い(合コン)のようだった。

若殿(わかとの)は例のごとく仏頂面で、大殿(おおとの)が座る奥から一番近い位置に座り、そこから男性二人が並んで座り列をなし、向かい合った女性の列には三人の姫君たちが扇で顔を隠しながら座っていた。

つまり、奥に大殿(おおとの)一人が座り、その両側に男性の列と女性の列が向かい合っていた。

出席者には軽い膳と酒が用意され、大殿(おおとの)が出すお題に即興で歌を詠み発表するという段取りだった。

男性三人と言ったが、それは全員(そろ)うとそうなるということで、最後の一人の男性貴族は、今はまだ到着していなかった。

私は若殿(わかとの)の後ろに控え、墨をすりながら、

「どうですか今日の調子は?いい和歌(うた)が思い浮かびそうですか?」

と冷やかすと、若殿(わかとの)は口をとがらせ、肘置(ひじお)きにもたれかかるようにして酒を(あお)りながら

「なぜ私が歌合(うたあわせ)に参加せねばならんのだ?不得意なのに。」

愚痴(グチ)る。

「そりゃあ、大殿(おおとの)の目的は歌合(うたあわせ)じゃなく年頃の娘さんを若殿(わかとの)に会わせてあげようという親心でしょう?」

若殿(わかとの)がげんなりした表情で

「やっぱりそうか。お見合いと称すれば私が逃げるから、歌合(うたあわせ)と称して参加させたのか。どのみち言い訳があれば逃げたのに。(ヒマ)だったのが()やまれるな。」

とブツブツ言う。

「本当に興味ないんですか?」

いい歳して年頃の女性に興味がないとなると前途多難(ぜんとたなん)だなぁと思いつつ墨をすっていると、若殿(わかとの)はキッパリと

「ない。一分(いちぶ)(3mm)もない。」

私は『自分からイジられにきたよね?』と思いつつ

「やっぱり、宇多帝の姫一筋(ひとすじ)なんですねぇ。」

と冷やかした。

案の定、赤面した若殿(わかとの)が焦って早口で

「ちっ、違うっ!そうじゃない!浄見をそういう目で見たことは一度もないっ!」

・・・・ハイハイそういう事にしておきます。

と白い目でチラリと真っ赤な顔を見つめ何も言わず受け流した。

言葉で否定すればするほど照れて(あわ)てる様子との違和感が引き立ち、ますます本気だと思われていることに気づいてないのかな?

『そう!一筋(ひとすじ)なんだよ~~』とかサラリと肯定して(かわ)せばいいのに、焦って真剣に否定するから面白くてからかいたくなるんだよねぇ。

そうこうしているうちに、遅刻してきた貴族・藤原鬼矢(ふじわらおにや)が姿をあらわしペコペコと頭を下げながら

「いや~~本当にすみません。遅れてしまってぇ~~」

と愛想笑いを浮かべながら入ってきて自分の座についた。

藤原鬼矢(ふじわらおにや)は整っていると言えなくもない顔立ちの、日焼けした、目じりに細かい(しわ)のある三十ぐらいの男で、愛想良く見せかけてるが腹の底は見通せない感じ。

正面にいた貴族の娘・(みずき)が扇で口元を隠しながら藤原鬼矢(ふじわらおにや)の顔をじっと見つめ、それを藤原鬼矢(ふじわらおにや)が見つめ返し沈黙の時間がしばらくあったと思ったら、(みずき)

「ああっ!」

(つぶや)いたかと思うとその場で横に崩れ落ちて倒れ込んだ。

若殿(わかとの)が慌てて立ち上がり、(みずき)のそばに駆け寄ると脈をとり

「気を失っているだけのようですが、今日は歌合(うたあわせ)どころじゃないですよね、父上」

大殿(おおとの)を見ると、大殿(おおとの)はガッカリした顔で出席者に解散を告げ歌合(うたあわせ)は一首も()まずにお(ひら)きとなった。

(その2へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ