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第69話 神のチカラ

東京に帰ることに、疲れて眠る東一郎がまた夢をみるのだが!?

東一郎が東京に戻ってからも、東北の金刺家の保養所で出会った藤堂小雪のことが頭をよぎった。

彼女は人間ではなくて、幽霊でもなくて、妖怪でもない。

彼女はあの山に住む神様だと言う。


その割に随分親しみやすい神様だったと東一郎にしてみれば思える。

とてもじゃないが信じがたい。幽霊だと言われたほうがまだしっくり来る。

東一郎が神様という言葉に引っかかるのは、やはりこの世界に来たきっかけが、滑落事故であり、それが起こった現場が神社であったこと。


そして何より


「叶えよう。役目を果たし然るべき時に戻れ」


という滑落時に聞いた誰かの声。東一郎はこれが神社の神様の声だと思っている。

叶えようというのは、東一郎がお参りした時にお願いした願い事なのだろうか。


一体神様は何を叶えてくれたのか?

どうしてこの世界に神崎東一郎が水島瞬として存在してしまったのか?


東一郎は事あるごとに考えていた。

そしてこれこそが元の世界に戻るためのヒントだと思っているのである。それ故に東一郎は事故の現場、そして何故水島瞬との入れ代わりが起こったのかを調べていた。 


小雪が言った事。

彼女が言った言葉の違和感の正体。東一郎は考えてみた。


彼女との会話は鮮明に覚えている。鮮やかに蘇る小雪の姿。

浴室であった時、もつれて倒れた時の彼女の細い体。

二人で酒を飲んで話をしたロビーのソファー。

そして、彼女が姿を消す直前の小さな社での最後の会話。


彼女が言った。


「本当は連れて行こうとした」

あれは何の意味だったのだろう。


東一郎は考えた。連れて行く?どこに?別の場所?別の世界?それとも別の時代?

連れて行くという事は、小雪も当然一緒なのだろう。

小雪は山の神様、女の神様であり、そう言われてみればこころの身体を暖める姿を見たくないと言って社を出ていった。


「そうか…山の神様は嫉妬深いんだっけ?」

東一郎はふとそんな会話を思い出していたが、一つ明確に思い出したことがある。


小雪が言った言葉。


いや言葉じゃなくて、彼女が東一郎を呼んだ時の名前。


「東一郎くん!私はこういう時に冗談を言う事はしない。助けたいなら早くして」


そうだ。小雪は東一郎のことを水島瞬ではなく名乗っていない「東一郎」と呼んだのだ。


つまり東一郎が水島瞬としてこの世界に生きる前、今から6年後の世界の神崎東一郎である事実を小雪は知っていたのだ。


「小雪ちゃん…マジで神様だったのかよ…」

東一郎は椅子に深々と腰を落として天井を見上げた。


彼女は言っていた。


「それにね。本当は君を連れて行こうと思ったの。例え連れてこられた君だとしても…本当に…嫌な女だね…」


どういう意味だろう。

彼女が本当に神様であるならば、俺が元いた世界の神崎東一郎が連れてこられた事を知っていた。それでも連れて行こうとした?

それが何で嫌な女になるのだろう?東一郎はまだまだ頭を整理する必要があった。


だが一つ分かったこと。

この世の中には、どうやら「神様」が実在してその力を持って、東一郎をタイムスリップ&入れ代わりをさせたのだろう。

これが「神のチカラ」という訳だ。


一体何のために?

そしてそのワザは「神様」であるならば、可能であるが何らかの条件や対価が必要なのだと思う。

東一郎は水島瞬の部屋を見渡した。

何もない部屋、一体水島瞬は何を考えて、どういう理由で入れ替わったのだろう?


神様が今回の引き金であるなら、水島瞬も神様に何らかの依頼をしたのか?

東一郎はぼんやりと水島瞬の部屋の天井を見上げていた。


小雪にもう一度会って聞いてみたいことが山ほどある。会えるのだろうか?また行かなくてはいけない。東一郎はそう思った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その日は卒業式の練習という名目で、在校生の1年、2年もリハーサルに参加する日であった。


東一郎の1年D組も在校生の中に並んだ。

まだ3月に入ったばかりで、冬の寒さは十分に残っていた。

でも、東北のスキー場での凍死寸前の状態に比べればそんなに大した話ではないと東一郎は思っていた。


卒業式のリハーサルの時だった、東一郎の少し離れた場所にいた女子生徒が急に座り込んだ。

東一郎は、何となく座り込んだ生徒とその子を心配する複数の女子生徒をぼんやりと眺めていた。

貧血とかなのだろうか?

座り込んだ生徒は具合が悪いのか青白い顔をしてフラフラと体育館の外に連れ出されていた。友達なのだろうか3人位の女子生徒が付き添っている。


その時、教員がマイクで全体に対して座るように指示をした。

用意された椅子に座りながら、ふと思った。

さっき女子生徒に付き添っていた3人の女子生徒…なんか見たことあるような気がする…でも、誰だろう?顔もちゃんと見てないし、その雰囲気?横顔?誰だっけ?


東一郎は扉から出ていった女子生徒を見ようとしたがもう姿は見えなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その日の晩、東一郎はまた夢を見た。この世界に来て恐らく2回目の夢だ。

正確には夢と認識できる夢を見たのが2回目という事で、知らない内に夢は見ているのかもしれない。


そして前回の夢と同様。真っ白い世界に一人の少年が歩いている。

水島瞬だ。


東一郎は必死に追いかけた。


「おい!お前!水島瞬だよな!おい!止まれよ!」

東一郎の声は相手には聞こえていない。


だが、前回の夢よりは少しだけ距離が近づいているように感じた。

明確に水島瞬だと認識できたのだ。


「おい!聞こえるか!水島瞬!おいってば!」

呼びかける東一郎の声に、水島瞬は歩みを止めてキョロキョロと辺りを見渡した。


「こっちだこっち!おーい!!聞こえるか!」

東一郎は大声で叫んだが、水島瞬はそのまま向こう側に歩いていってしまった。

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