表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/121

第51話 「勧誘」世代

「お前、相当だな。柔道か…総合…いや、日本拳法、それか空道か?」

東一郎はスーパーセーフを外すと、それを掲げて蒼汰の前に差し出した。


「よく分かったね。結構レアだからね。空道だよ」

蒼汰は肩で息をしながら言った。

空道とは、打撃、投技、寝技が許されスーパーセーフという直接打撃用の防具をつけて本気で打ち合う武道であり、その強さは武道の中に置いても別格の強さを誇る。


「水島君、君は一体何なんだい?」

「まぁ、ベースは空手、だけど色々やったからな。まぁ、キャリアの違いだ。気にすんな。お前、マジ強いと思う」

「そうか、でも完敗だよ。強いな君は…」

「そもそも何で空道の人間が、空手部に居るんだ?」

「まぁ、空道部が無いからね。だから柔道部で寝技と投技を磨いて、空手部では打撃を磨こうと思ってね。ホントは掛け持ちしたい位だよ!」

「ああ、そういう事か。まぁ、賢明な判断だな」

「いやー、でもここまで手も足も出ないと、もう頼みにくいな…」

「まぁ、これで俺の勝ちだ。悪いけど俺にはもう構わないでくれ」

東一郎は今度は道着を脱ぎながら言った。その体は汗一つかいていなかった。


「すまなかったね。ありがとう。君、本当に強いな」

キャプテンは半ば呆れ顔で言った。


「ああ、アンタ達もなかなかじゃんか。いい選手だと思ったよ」

東一郎は笑顔でそう言うと、空手道部のメンバーに礼をして道場を出ていった。


「先輩方!申し訳ありませんでした!」

蒼汰は東一郎が出ていくと直ぐに先輩たちに詫びを入れた。


「気にすんなよ。お前も一生懸命やってくれたじゃん」

「いえ、でも、空手だけじゃなくて、これまで持ち出してしまいました」

蒼汰はそう言って東一郎と自分がつけていたスーパーセーフを前に出した。


「まぁ、やりすぎだけど、武道家としての血が騒いだか?」

別の先輩が笑いながら蒼汰に言った。


「はい。申し訳ありませんでした。アレだけの強さを見せつけられたら、どうしても確かめたくなってしまい、本来の目的と別の事をしてしまいました!」

そう言うと蒼汰は土下座をして頭を下げた。


「しかしアレはマジで強かったな。あと態度もな…先輩を先輩と思ってねーな」

キャプテンは笑いながらそう言った。


「ああ、確かに敬語ってものが全く出てこなかったよな。変わったやつだな」

別の2年生が言った。


「3年の先輩方が居なくてよかったよ。ははは」

「全くだ!空手部5人目なんて夢のまた夢になっちまうからな!あはは」

2年生達はどこかホッとした表情で笑った。


その時だった。


「誰が居なくてよかったって?」

「随分舐めたマネされたんだな…」

「お前ら、何してんの?分かってんのか?」

「勝負に負けてヘラヘラしてるとかありえない…」

道場の入り口から声が聞こえた。そこには5名の生徒が立って鋭い目つきで空手道部のメンバーを見ていた。


「せ、先輩…!?」

キャプテンは青ざめた表情で呟いた。

蒼汰も思わず直立不動に立ち上がり目を伏せた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「聞いた?空手部…」

「なんか1年と2年、ほぼ全員やられたらしいよ…」

「ありえなくね!ちょー怖いんだけど」

翌日空手道部の噂で持ち切りとなっていた。


元々は名門と言われた空手道部は今年の3年生が引退してからは、わずか3名で活動せざるを得なくなり、蒼汰が加わりなとか4名となったが当時の一学年10名以上が所属し、最盛期に男女合わせ60名を超える部員がいた部活動とは思えなかった。

当時の厳しい練習、指導、そして先輩の課す理不尽な練習についてこれなくなった部員が、一人、また一人と消えていったのだ、その最後の生き残りと言われた3年が引退してから部活動の存続の危機すら迎えていた。そんな時期に部外者に完敗したと3年生にバレてしまったのだった。


「あのさ…学校にエアコンがあるって良いな!!」

東一郎はヤマトに緊張感なく言った。


「なんか、聞いたら空手道部の3年が1,2年をシメたらしいよ」

東一郎は空手道部の3年生による1,2年生の粛清の噂話をヤマトから聞いた。


「はぁ!?アホだと思うんだよな。そんな上限関係って必要か?アホらしい」

東一郎は呆れ顔で引きつった顔をした。


「で、原因は?」

「いや、部外者にボロ負けしたのが3年にバレたんだって…」

「いつ?」

「いや、昨日だって…」

「へー、昨日か…、じゃあ、俺と組手したあとに、誰かに襲われたのか?」

「え、いや…」

「アイツラを倒すなんて、結構なレベルじゃないと無理だと思うぞ」

「あ、あのさ…、それって…水島のことじゃない?」

「はぁ?学内の俺が何で部外者?」

「いや、空手部じゃないから…部外者でしょ…」

「ああ、そういう事!?てっきり学外の人間の仕業と思ったよ。そりゃ無理だろ。俺に勝てるわけ無いだろ。その3年っての舐めすぎ…」

東一郎は呆れて教室の天井を見上げた。

エアコンの排気口から暖かい空気が流れていた。


「水島君!大変だ!柔道場に来てほしいって!」

見知らぬ生徒が血相を変えて駆け込んできた。


「くだらねー」

東一郎は心底面倒くさい顔をした。


「ただ、年食ってるだけで偉そうに!俺を舐めてくれたガキどもには一言言ってやらねーとだな…」

東一郎は鋭い眼光になって出口に向かった。


「あまり無茶するな!」

ヤマトは東一郎にそう言ったが、東一郎は右手を軽く上げて行ってしまった。

あの雰囲気をヤマトは知っていた。東一郎が何かに怒っている時の雰囲気そのものだった。

今年で38才、バツ1、転職を繰り返し、借金まみれの神崎東一郎

趣味で空手道場を始めた「うだつの上がらない中年男」


ひょんなことからその一番弟子となった女子大生の藤村唯

その優しく真っ直ぐな性格に惹かれはじめる東一郎

だいぶ年の離れた教え子に対する自分の感情に戸惑いながらも穏やかに過ごしていた


生涯喧嘩負けなし、無敵の空手家と言われた東一郎だが、高台の建設現場の作業中に事故で滑落してしまう

生死不明の複数の作業員。東一郎もその中のひとりだった

滑落時に聞いた誰かの声


「役目を果たし然るべき時に戻れ」


しばらくして東一郎が気がつくと、そこは見ず知らずの高校の教室だった。

神崎東一郎は事故から6年前の高校生、水島瞬と入れ替わっていたのだった。


本作品はカクヨムでも掲載しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ