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第49話 「勧誘」組手

「キャプテン!先輩方!連れてきました!最強の新入部員です!」

嬉しそうに、蒼汰は2年の先輩達に東一郎を紹介した。

ここは学校の武道場、畳が敷かれており、どうやら元々は柔道場のようだ。


「あ、そ、そうなんだ!ありがとう!大変だったね…」

2年の先輩でキャプテンと言われた男子生徒が、状況を想像してなのか顔を引きつらせながら、東一郎に礼を言った。


「おい!入部するなんて一言も言ってないぞ!」

東一郎は蒼汰に文句を言った。


「まぁまぁ!そんな事より、早速練習に参加して欲しいんだ!」

蒼汰はウキウキとした顔で、東一郎に当然のように話した。


「お前、さっき道場に来てくれとしか言ってないぞ!練習なんてするはずないだろ!俺は帰る!」

東一郎はさっと立ち上がり帰ろうとした。


「ちょ!水島君!ちょっと待ってよ!先輩たちの為にも話だけでも聞いていってよ!お願いだ!」

蒼汰は再び東一郎に土下座をした。東一郎は先輩たちを見た。

誰一人として、乗り気な雰囲気のものは居なかった。


「あっと、水島君…でいいのかな?ごめんな。忙しい所。ちょっとコイツは突っ走ることがあって…気にしないでくれ。どうもありがとう」

キャプテンはそう言って頭を下げた。


「ああ、別にいいよ。悪気はなさそうだし、変に期待させちまって悪かったな…」

東一郎はそう言うと、武道場を出ようとした。


「チョット待ってくれ!せめて、せめて組手だけでもやっていって欲しい!お願いだ!部に入るかどうかは、そこで改めて考えてくれ!」

蒼汰は東一郎の目の前に寄ってきて、頭を下げた。


「何で組手なんてやるんだよ!?それで何で部に入るとかなるんだよ!入らないってんだろ!」

東一郎は繰り返す会話に流石にうんざりした。


「だけど、凄い楽しいよ!一緒に青春しようじゃないか!今は女子とか居ないけど、来年になったらきっと女子も何人か…」


「おいおい、勘弁してくれよ!なんで来年の話になってんだよ!よし分かった!もう!じゃあ、これでいいか!組手で俺が全員に勝ったら諦めろ!そして俺に二度と絡むな!分かったか?」


「全員??」

その言葉を聞いたキャプテン含む2年生3人が、すっと立ち上がり鋭い目つきで東一郎を見た。


「そう。この場にいる4人全員だよ。これで俺が勝てば空手道部として俺に関わらない!それで良いな」

その視線に気がついた東一郎は、不敵な笑みを浮かべて4人に対して言った。


「そうか。じゃあ、古いけど道着があるんだ。着替えてくれ」

2年の先輩たちの雰囲気が変わった。蒼汰だけは、東一郎が組手をするという事実に一人素直に喜んでいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「伝統派空手の経験は?組手のルールは分かる?」

2年のキャプテンは東一郎に聞いた。


「ああ、ルールは分かるよ」

東一郎は空手衣を来て、白い帯を締めて柔道場の畳の上に立ち軽くストレッチをしていた。


「じゃあ、早速試合と行くか。最初は蒼汰!お前が行け」

キャプテンは柿崎蒼汰に指示した。


「オス」

蒼汰は短く返事をすると、すっと畳の前に出てきた。


「ルールは3ポイント先取した方が勝ちとします」

キャプテンは審判となり、組手が始まった。


東一郎が入れ替わった水島瞬の身体は、178cmあり線は細いものの引き締まった体つきだった。格闘技全盛時の東一郎の身体と比較しても、強度や筋肉量は本来の東一郎の身体に劣るものの身体の柔らかさとスタミナ面はなかなか優れていた。


「始め!」

キャプテンの号令とともに、東一郎と蒼汰は軽いステップを踏んで相対した。


「なかなか雰囲気あるな…」

「結構自信あり気なのは、嘘じゃないってことか」

「まずは様子を見るか…」

2年の先輩たちは、東一郎の立ち姿を見て一目でなかなか腕の立ちそうな経験者であることを理解した。


「水島君、じゃあ、行くよ!」

蒼汰はそう言った瞬間にパン!と踏み込んで、東一郎に刻み突きという、所謂ジャブのような素早いパンチを打った。


「遅い!」

東一郎は蒼汰の刻み突きを左手て軽くいなすと、右手で顔付近に突きを入れた。付けた拳サポーターと言われるグローブの触れた瞬間に東一郎は、あっという間に遠い距離に離れていた。


「!!?」

「何?何だ今の?」

「嘘だろ」

その場にいた2年、蒼汰までも驚きの表情を浮かべた。東一郎はあっという間に離れた位置からスタスタと歩いて元いた位置に戻ってきた。


「続けて、始め!」

キャプテンの合図で改めて二人は対峙した。


東一郎はノーガードのままあっという間に距離を詰めると、そのまま突きの動作にはいった。

蒼汰は距離を取るため、一旦離れようと1m程度後ろにステップバックした。が、見計らったように東一郎は同じ距離ステップ・インしてそのまま蒼汰の頭に蹴りを放った。

蒼汰の顔付近をかするように東一郎の足が止まり、そのまますっと離れていった。


「やめ!一本!」

東一郎はまたゆらゆらと歩きながら、元の位置に戻った。

蒼汰は信じられないという表情を浮かべ、2年の先輩たちは思わず絶句した。


蒼汰は1年とは言え、相当な実力者でこうも一方的にやられるとは思っていなかったからだろう。


「次!」

キャプテンの呼びかけとほぼ同時に、二人目の選手として2年生が東一郎の前に立った。

だが、キャプテンを含め2年生3名もまた東一郎に、瞬殺されて組手を終えたのだった。2年生3名と蒼汰の空手道部の4人は呆然として東一郎を見ていた。

東一郎は悠然と帯をほどいて、道着を脱いでいたのだった。

今年で38才、バツ1、転職を繰り返し、借金まみれの神崎東一郎

趣味で空手道場を始めた「うだつの上がらない中年男」


ひょんなことからその一番弟子となった女子大生の藤村唯

その優しく真っ直ぐな性格に惹かれはじめる東一郎

だいぶ年の離れた教え子に対する自分の感情に戸惑いながらも穏やかに過ごしていた


生涯喧嘩負けなし、無敵の空手家と言われた東一郎だが、高台の建設現場の作業中に事故で滑落してしまう

生死不明の複数の作業員。東一郎もその中のひとりだった

滑落時に聞いた誰かの声


「役目を果たし然るべき時に戻れ」


しばらくして東一郎が気がつくと、そこは見ず知らずの高校の教室だった。

神崎東一郎は事故から6年前の高校生、水島瞬と入れ替わっていたのだった。


本作品はカクヨムでも掲載しております。

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