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第17話 「散髪」乱れ髪

放課後、近くの100円ショップでハサミを買ってきた東一郎は、屋上の広いところに椅子を持っていき、またゴミ袋を被った。


「じゃあ、いくよ」

ユリは手慣れた感じで、チョキチョキ切り始めた。


「おお!なんか凄い手慣れてんな。お前そんな特技があるとは!流石だな!」

東一郎は感嘆の声を上げた。


「ねぇ、ちょっと私にもやらせてよ」

エマがウズウズした感じでユリに頼んだ。


「なあ水島。なんかお前、両手に花って感じで凄い楽しそうだな」

横で見ていたヤマトがちょっとジェラシーを感じて意見した。


「ちょっとやめてよ」

「いいじゃん、私も水島くんの髪切りたい!」

「いや、いいけどさ、ちょっとここは私が…」

「いいじゃんユリ!ちょっとだけ…」


「あ…」

どちらかの声がした。


と同時に、ヤマトの表情がみるみる曇っていった。

東一郎はあからさまな失敗を理解したが、願わくば軽いものであってほしいと願った。


東一郎は恐る恐る渡された鏡で、髪を見た。

「あれ?結構いい感じじゃん。何だよ焦らせんなよー」

笑いながら振り返る東一郎だったが、問題は正面ではなかった。


後頭部あたりにユリとエマが争った際に誤って切り落とした部分があり、髪の毛の量が多い東一郎の頭部は明らかに異彩を放っていた。

一言で言ってしまえば「まるで剥げている」ように見えるのである。


「あのさ、もうちょっと短くしていいかな?」

無理やり笑顔を作るユリとエマの二人に東一郎が気が付かない訳がなかった。


「ああ!何だよお前らこれ!?」

東一郎は悲鳴にも似た声を上げた。


「ぎゃー!ごめんなさいごめんなさい!」

ユリとエマは平身低頭で謝った。


「いや、もういいよそれは…俺も頼んだ手前失敗は覚悟の上だし…」

東一郎は意外にも冷静で、諦めたような笑顔で言った。


「それはそうと、ここまでガッツリ行くと流石にな…」

東一郎は考えながら言った。


「ごめんー。マジでどうしても私も切りたくて…」

エマは消え入る声で言った。


「エマ、お前その発言だけ聞くと結構なサイコパスだな…」

東一郎は表情を曇らせていった。


「まぁ、こうなったらその短い部分に合わせてちょっと切ってくれないか?」

東一郎はユリに懇願した。


ハサミ一本で、短い髪の毛を切るという事がどれだけ難しいかをこの時誰も知らなかった。

結局東一郎の髪を短い部分に合わせて切っていくと、恐ろしく時間がかかった。

ユリ一人ではとても切りきれず、最終的にはエマもヤマトも教室に合ったハサミを持ってきて一緒に切った。


その結果…

「いや、お前らこれワザとやってないか?」

短くなった髪が不揃いかつ不格好な東一郎の頭を見て、呆れながら言った。


「マジでごめんなさい!!」

ユリ、エマ、ヤマト3人は東一郎の報復を恐れて遠くに逃げなら言った。


「いや、別に怒ってないって。さっきも言ったけど」

東一郎はボウズ頭に近いがとてもボウズとは言えないような、頭を触りながら言った。


「いやだー!絶対怒ってる!絶対怒ってる!」

ユリとエマとヤマトは三人で手を取り合って、東一郎に文句を言わんばかりに言った。


「いや、お前らの態度ちょっとオカシイぞ」

東一郎は一向に近寄ってこない三人に対し、呆れていった。


「もういいって、こうなったらアイツラに頼むしか無いな」

東一郎はこの状況を諦めてそういった。


「アイツラって??」

三人は近づこうともせず、質問した。

三人ともいつでも逃げれる準備を崩さない、東一郎の怒っていないという言葉を信じようとしなかった。それだけ凄い頭だったのだ。

今年で38才、バツ1、転職を繰り返し、借金まみれの神崎東一郎

趣味で空手道場を始めた「うだつの上がらない中年男」


ひょんなことからその一番弟子となった女子大生の藤村唯

その優しく真っ直ぐな性格に惹かれはじめる東一郎

だいぶ年の離れた教え子に対する自分の感情に戸惑いながらも穏やかに過ごしていた


生涯喧嘩負けなし、無敵の空手家と言われた東一郎だが、高台の建設現場の作業中に事故で滑落してしまう

生死不明の複数の作業員。東一郎もその中のひとりだった

滑落時に聞いた誰かの声


「役目を果たし然るべき時に戻れ」


しばらくして東一郎が気がつくと、そこは見ず知らずの高校の教室だった。

神崎東一郎は事故から6年前の高校生、水島瞬と入れ替わっていたのだった。


本作品はカクヨムでも掲載しております。

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