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第10話 「カワイイ」執行

今年で38才、バツ1、転職を繰り返し、借金まみれの神崎東一郎

趣味で空手道場を始めた「うだつの上がらない中年男」


ひょんなことからその一番弟子となった女子大生の藤村唯

その優しく真っ直ぐな性格に惹かれはじめる東一郎

だいぶ年の離れた教え子に対する自分の感情に戸惑いながらも穏やかに過ごしていた


生涯喧嘩負けなし、無敵の空手家と言われた東一郎だが、高台の建設現場の作業中に事故で滑落してしまう

生死不明の複数の作業員。東一郎もその中のひとりだった

滑落時に聞いた誰かの声


「役目を果たし然るべき時に戻れ」


しばらくして東一郎が気がつくと、そこは見ず知らずの高校の教室だった。

神崎東一郎は事故から6年前の高校生、水島瞬と入れ替わっていたのだった。


本作品はカクヨムでも掲載しております。

「本当に許せない!あいつ…」

エマは怒り心頭だった。


「ちょっと、エマ!先行かないでよ」

ユリは追いすがった。


「ユリもちょっと問題発言あったけど、まぁ良いわ。それよりあいつよ」

エマは眉間にシワを寄せて鬼の形相になっていた。


「ちょ…エマ、顔!顔!」

周囲を見渡して、慌ててユリはエマに言った。何人かの生徒がエマを見ていた。彼女はいるだけで非常に目立つのだ。


「え!?ああ、ちょっと…うっかりしちゃった」

エマはいつものように笑顔にすぐ戻った。


「エマ昔っから本気になると悪い顔になるよね…」

「そお?私は単に真剣になっているだけなんだけどね」

「で、どうするの?手伝うよ!」

「ありがとう!ユリ!いつも私を助けてくれて!」

「ううん。親友だもん!私はあなたの味方だよ!」

「ありがとーユリ…でも、私ってちょっとオタクで、男を手玉に取って…って思ってたんだねー」

エマはとびきりの笑顔のままでユリに言った。


「あ、覚えてたんだ…」

ユリは引きつった笑顔のままだった。


「まぁ、いいよ。まずはアイツよ!アイツ!後悔させてやるわ!」

エマは決意新たにそういった。


「やあ!エマちゃん!元気?」

ふとそんな時に声をかけてきたのは、エマのクラスメイトの男子ケンだった。

ケンは特に取り柄は無いが、体が大きく力も強い。そして素直に言うことを聞いてくれるエマ親衛隊の1人だった。ちなみにエマ親衛隊は分かっているだけでも10名程度いる。


「ねぇ!ケン君!聞いてよー」

エマは甘えた声で、ケンに事の成り行きを大袈裟に話した。そして東一郎こと、水島瞬バカにされたと上目遣いでケンに話したのである。


「まじかよ!?俺一言言ってくる!許せねー!」

ケンはエマの話を真に受けて、放課後になると東一郎のもとに向かったのだった。


「さて、私のファンがあなたを許さないわ。思い知ればいい」

ケンを見送るエマの顔は悪い顔になっていた。


「エマ…顔…」

ユリはエマの顔を見ずに注意した。


「うふふ。カワイイの刑!執行よ」

エマは悪い顔のまま、直そうとはしなかった。


勇んで出ていったケンだったが、その直後から彼を見かける事はなかった。

エマはいつものように、犬のように報告に来るケンを待っていたが、報告に来なかったのだ。


「ケンくんどうしたのかなぁ?」

次の日、エマは周囲に聞こえるように、ユリに話をした。

ユリも当惑している。


「どうしたの?エマちゃん」

今度は同じく親衛隊のヒカルとユウヤがエマのもとにやってきた。

エマはケンにやったことと同様に、話を大袈裟且つ東一郎を悪役として話をした。

同じく怒り浸透のヒカルとユウヤは、その日の放課後やはり東一郎のもとに向かった。


だが、ふたりとも戻ってくることはなかった。

ケン、ヒカル、ユウヤの3人共、報告に来ることはなかった。

ユリが調べたところ3人共に学校を休んでいるという。


「何?一体何が起こっているの!?」

エマは少し焦りを感じた。

ユリに探ってもらったが、文句を言いに来た3人は東一郎とともにすぐどこかに行ってしまったようだ。で、10分もしないうちに東一郎だけ何食わぬ顔で戻ってくるとのこと。


ケンとヒカル、ユウヤに何があったのか?ラインを送ってみたが返答はなかった。

業を煮やしたエマは、親衛隊のメンバー全員に大事な話があるとして呼び出した。


エマからの直接呼び出しともなれば、喜んで馳せ参じる親衛隊の残り5名。

エマは、東一郎にバカにされたと大袈裟かつ極端に話をした。

そしてケン・ヒカル・ユウヤが抗議に行ってくれたけど、その後連絡がついていない事を悲しげに訴えた。

親衛隊メンバー5名は怒り、我先にと東一郎のもとに向かった。


「役者だねぇ…」

ユリはエマにある意味呆れ顔で言った。

「ふふふ。役者じゃないよ!私はモデルだよ!これで水島くんもおしまい!カワイイは正義なのだ!」

エマは不敵に笑った。もちろん悪い顔をしていたが、ユリは何も言わなかった。


そして抗議に向かった5名の親衛隊員達は、そのままエマのもとに帰ってくることはなかった。

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