ガールズミートガール
初めまして。ボチボチ書き進めますので、気長によろしくお願いします。
デスクの呼出し灯が点滅して、スクリーンにコーラーの位置が表示される。同時に、管制室大スクリーンにもビーコンが次々とポップアップする。
草臥れた様子で無精髭を撫でてから独りごちる。中央通りか、日曜の官庁街に何が起きたんだ。
緊急呼び出しに規則通りワンコールで応答したオペレータのインカムに、耳を聾する爆破音が飛び込んできた。
朝の当番替えの喧騒に包まれていた司令センターの室内が遠くなる。
現場の警官からの第一報。コールサインが聞こえない。画面表示を見て叫ぶ、「どうした、SF-12?聞こえてるか。何があった!現場はクロム銀行本店で間違いないのか」気がつくとヘッドセットは沈黙していた。
「襲撃だ、また銀行だ」
一瞬の静寂に続いて、管制室の騒音が溢れるように耳に飛び込んで来た。「また銀行なのか。」「一陣はやられた」「なに」「今時、銀行強盗って一体なに考えてやるんだ」「例のお嬢ちゃんたちか?」「らしいな」「当直明けなんだぞ」「対象は重火器を装備と想定しろ!」「負傷者はいるのか」「救急と消防も大至急呼べ」
司令官が叫ぶ、「近隣の各班は急行、第一級装備で当たれ、警邏中の軽装備の班は署に戻って指示を待て」
現場に向かう刑事らが慌ただしく部屋を飛び出していく。
ハリス中佐、獲物が網にかかったようです。
そうか、このまま急行しよう。途中で、アレックスを拾って行く、今日は非番だが、近くにいる筈だ。緊急電で呼び出して、出来れば、4丁目の交差点で合流するように伝えてくれ。
ようやく、たどり着いた、彼女のお目当ての子達だ。
ここ1年、急に増えた銀行襲撃事件から、探り当てた、彼女の獲物。多発する事件の中から、軍の購入代金支払いの決済日に、指定の銀行経由の送金が出来ないように仕組まれていた襲撃事件を選り分けて、そのカラクリを見破り、ギャングガールズの次の目標を推定した、この半年間の技官連中とアレックスの成果だ。選り分けたケースが全部、推定通り、1つのチームの仕事なら、やっと、母なる部隊の影から独立出来るだけの戦力が手元に来る。やっとだ。
休日のオフィス街のクロム銀行本店、電磁的に麻痺させられた、その金庫室に侵入途中の賊が起こした爆発の振動を、偶然、隣のビルの警報システムがキャッチして、自動通報した10分後。
分署の警官隊が駆けつけて、撤退途中の賊をやや多めの銃撃でビルに再び押し込める事には成功したものの、双方の過剰な銃撃のせいで、警官隊に多数の負傷者が発生。「恐らく、賊は魔力を持っているものと推定されます。至急、応援を。」
賊は信じられない弾数の早撃ちで、物陰から出るとすぐに撃ってくる。それも連続して撃ってくるのでSMGを想定しているが、音が思いの外に軽いので、魔力付与した自動小銃程度かもしれない。
サイレンが集まって来るね
だね
あんたが撃たなけりゃ、こんなには来なかったかもしれないけど
って、まさか、警備システム以外に、パトロールがいるなんて知らねぇよ
おい、インカムで怒鳴るなよ
地下が潰れたから、外のマンホールに飛び込むしか無いんだ、もうちょっと、押し出そう
「絶対に逃がすなよ」「撃ちまくって押し込めるんだ」「まだだ、仲間がやられてるんですよ、撃たなきゃ」「いいから、さっさと制圧しろ。急がないと」
「警部、外線から指名です」
「警部、お手数をかけますが、包囲を、あと、20m下げてもらえますか。うちの子が生け捕りに伺いますので」
「あんたが、あのハリス中佐ですか。相手は警官を撃ってるんだ、渡す訳にはいかない、これはうちの獲物だ。」
「その子ら、ビルの壁をぶち抜いて金庫を下水道に沈めたそうですね、最近の機動隊は、そんな重火器にも対抗出来るんですか」
「ああ、そうだな。分かっちゃいるが、部下も血の気が多くてね、早い者勝ちではどうですかね」
「では、こちらが着くまでに確保出来ていなかったら、という事で。」
警官隊からの切れ目の無い銃撃が再開され、外は、言葉通り、弾雨と硝煙の雲に包まれる。
皮肉な事に堅牢な銀行のビルは重火器、砲撃並みの銃撃に耐えている。
金庫室を予定通り魔力弾で地下道に飛ばしたまでは良かったけど、潜り込んだ時に、通報されてたのは予定外ね
システムは先触れ役が黙らせた筈なのに、警官が来るなんて思わなかったから撃っちまったけど、何人やったかなんて今更じゃない
(大丈夫だ、きっと。いい加減、早くはけて、遊んでやる)
こっちは、入り口左にベス、反対側のデカイ柱の陰にニッキー、カウンターの中にアイリーン、二階へ行く右階段の下に、あたしだ。みんな、例の魔女判定のせいで、仲良くギャングの下っ端に雇われて。ここ最近は、銀行強盗ばっかだ、金庫の金塊を地下トンネルに落として来い、後で回収するからって、バカにしてんのかね、しばらく沈めておけば、株屋が仕掛けた空売りが上手く行くんだろ、で、その上前をはねるって。
これが最後で、しばらくは、あたしらはバカンスって話だったのに
みんな、ゴメン。まさか、マジで立ち寄りの警官と鉢合わせするなんて、思わなかった
ドジ、うっかり応戦したせいで、撃ち殺したし、応援が来ちゃって、出るに出られなくなっちまったじゃん
しかないでしょ、打って出るしかないよ、ここにいたって、弾切れんなったら、パクられんだよ
やだよ、当たったらやだよ
大丈夫だよ あたしら、お守りがあるから
誰も助けにゃ来ないんだ、出るなら今しかないよ
よーし、カウント20数えたら、向いの黒いバンを吹っ飛ばすから、マンホールの上の車まで走るよ
ビルの周りを固められた。出入り口自体、極端に少ないビルで、裏の通用口は入る時に潰したから、入るも出るも出来ない。玄関を正面突破して、逃がし屋の車に飛び込めば勝ちみたいなもんだが、警察の包囲が早過ぎて、さすがにビビった。
最初にバンを魔弾で吹き飛ばしてから、撃ちまくって、警官の輪を押し返さないと
「警部、申し訳ないが、まだのようなので、行かせてもらいますよ。」
「仕方無いです、分かりました。総員、退避、少なくとも、30、いや、60メートルは下がれ」「何言って」「なぜ」「軍からの要請だ、つべこべいわずにさがれ」
「この借りは、必ず」「精々、期待してますよ」
銃を構えたその時、警官隊を蹴散らすように、聞き慣れない、キュンキュン言う一際大きなサイレンが近付いた。救急車によく似た塗装の大型の白いバス?が2台、銀行の出口前に突っ込んで来て、停車。入れ替わりに、警官隊が少しずつ後退していくのが、どの窓の対魔獣用遮蔽シャッターの隙間越しからでも分かる。
警官隊が見えなくなったじゃない、今だよ、あれ撃って出よう
待って、なに、あれ?
ヤバい奴でも乗ってんじゃないの?
バンの後ろドアが開いて出てきたのは、あたしらと変わらない、二十歳前くらいの女1人だけ、他は降りてこないし、警官隊はずっと後ろに引き上げたらしい。
変なヒラヒラした光るミニドレスに、右手にデカイ拳銃、左手は何かひらひらして光ってて見えない、で、ヤバい奴だって事は分かった。
顔には風防のガスマスク?だけ
防弾チョッキも防刃ジャケットも、戦闘服も着てない!
何考えてんだ、マジでヤバイやつじゃん
こっち見てやがる
行くよ、まず、あの女を全力で撃って、倒れなくても、押しのけて出るよ
再び、射撃音炸裂音でホール中が鐘のように鳴り出す。場違いな女は、銃弾の、魔弾の爆発する弾煙の雲で一瞬かき消されたが、弾幕の合間から見れば、繭のような煙に覆われて、何も起きなかったみたいに、そのまま立っている。
魔力の充実と一緒に、いつもの耳鳴りが後頭部のあたりでチリチリ鳴りだす。メディカルが言うようなインカムのせいじゃない。けど、行こうか。
降りてすぐに撃ってこないだけマシかもと思ったけど、良い方の勘違いだった。狙える場所まで来るのを、待ってただけだった。リアクティブシールドを見せつければ、諦めると思ったけど。シールドは予想してた?入ったら、遠慮なく、ガンガン撃ってくる。実際に撃ちまくられるのは、インカムのノイキャンMaxでも耳は痛いし、精神的に厳しい。演習の時は、一発一発が見えたけど、この子たち、撃ち過ぎ、意外に魔力強めだし。連射と爆発の魔術をどうにかものにしたみたい。「中佐、面白いよ。みんな、魔術師だ」
七発、五発の塊で聞こえるから、ワントリガーで斉射する魔術でも開発したのか。面白い。
入り口右扉に影と、左の柱の影、正面カウンター、あと、本命の子が階段下か。
「中佐、前衛2人、後衛2人のフォーメーションらしいです。多分、後衛の火力バカがリーダー」
右に向かって踏み出す、ああ、また、耳がバカになるほど、撃ってくる。全然通信出来ない。
弾幕が切れるのを待っても、キリが無いから、そのまま、右にいる子に向かって、ダッシュ、足から滑り込んで、近付いたら、やっぱ、周りからの射撃が止まった、シールドは無いんだ、そのまま、思いっきり、脚を払って、倒れた所を抑え込む。
床を氷みたいに滑ってきた、と思ったら、イキナリ、蹴り倒されて、上に乗っかってマウント取ってきやがった。どけ。くそ、なんか、硬い空気?で囲まれて動けないし、銃が無い、いつにまにか取られた。しくった
名前は?
ああ?
じゃ、後でいい。
左手でのど元を押さえて、術を発動して、固定したのを確かめてから、立ち上がる。
あのさ、この子、抑えたよ。諦めてくれないかな。
さすがに仲間に向かっては撃ってこないか。威嚇射撃してみよっか。右手をホール中央の床に構えて、一発だけ。爆縮弾を、極小で。
発射音と同時くらいに床が10cmくらい爆発して、物凄い音と一緒に、一瞬で反転爆縮して、粉々になったコンクリートが垂直に吹き上げて、放電と一緒に熱気が放射されて、狭くはないホールに砂塵が一気に充満して、視界が白くなる。
床には50cmくらいの丸い穴が残った。
部屋中の空気が白濁し、轟音が響く中、微かに次弾を装填する音が聞こえる。
ヤベェ
なに撃ったのか見えなかった
あれは警官じゃないんじゃないか?
撃ち合いにもなんないよ、どうする
一人だけなんだ、数で押し切ろう
大きな粉塵が収まるのを待って、マスクを当てた口を開く。訓練用マスクしてきて、正解だったかな
銃捨てて出てきて。撃ちたいわけじゃないんだから。
口の中が粉っぽい。
ニッキ、アイ、伏せてから、カウント5で、あいつの頭を狙って撃って
あいつに当たれ、ほとんど見えない左目をつぶって中古の大型拳銃でステンレス弾を右に撃つ、と、頭の奥に、グイグイ近づく壁が見える、左に回れ、柱を避けて、あいつの後ろに回れ
頭の中で、あの女を中心に、互いに引き合って、高速で旋回しながら、見えない壁に何度も弾かれる弾光が筋を引くのが見える。
また、撃ってきた、反応してシールドが自動で張り直される、ほとんど自動化したけど、展開速度をもうちょっと調整したら、術式を固定しよう。
左右から撃ってきたのが陽動で、メインのお姐さんの一発は、追随式か、あれ、周りをグルグル回ってガリガリ、シールドにこすってる、この一発。すごい、貫通力重視のステンレス弾か、戦術眼もあるし、ああ、こういう子が欲しかったんだ、魔弾の術式を撃つギャング姐さんがいるって、本当だったんだ。
クッソ、周りのバリアかなんか、こそげても全然薄くならない、あいつ、たいした魔女じゃないか、なら、もう一発、こっちだ。
今度は反対側、左に向けて撃つ、と、二発目の弾丸は一発目に惹かれるように、ベスから少し離れた女に向かって急カーブを切って左旋回、一発目も急加速して、その周りを二発の弾丸が高速で回りだす。
うわ、厄介だ。マジで魔弾だ、途中追加の加速アリか、結構磨きこんでる感じで、良いんだけど、仕組みがちょっと分かんないな。これは、仲間になってくれなきゃ困るわぁ。
仕方ない。
三層シールドの最外装の爆裂層を自爆させて、弾を二発同時に破壊して、爆炎が消えるより先に、不完全な二層シールドのまま、階段下に向かって走って飛び込む。衝撃がかなり痛い。
ちくしょ、コッチ来やがった、手元の拳銃をまとめて連射しても、まんま突っ込んできやがる、近過ぎてニッキもアイももう撃てねぇか。
面と向かった至近距離なのに、まだ、この子、撃ってくる?良い根性してんじゃん。この子を抑えれば、終わりだね。
拳銃の持ち替えで銃撃が途切れた一瞬、ヤッ、と掛け声かけて、銃を投げつけてから、シールドを外して、足を払って、そのまま、片手倒立の要領で頭を蹴り上げる。倒さなくてもいい、触れば。
チキショウ、弾切れ!弾幕が切れちまう、あいつ、何突っ込んで来てんだ!足払いとか、蹴りとか、速すぎんだろ。
左手で足首を掴んで、抑えてあった術式を展開!
掴んだままで、いったん、一緒のシールドで囲んで、シールドの発動術式を強制的に移譲する術式で、相手の魔力を使って再度シールドを、逆向きに、制御を外に、防壁を内に向けて、発動させて、泡の繭袋入りギャング女の出来上がり。
すぐに、自分の銃を拾ってシールドを張って、構えて振り向いて、喚く。
身の安全は保障するから、投降して。
あとの2人は、自主的に封印に協力してくれた。一人ずつ左手でつかんで放すと、それぞれ鈍くて白い光の繭で覆われて、手足が固定されるので、転んでしまう。あ、ごめん。
ハンドサインで呼び寄せた特別憲兵隊が4人をシールドごと担架に乗せて運ぶ先は、リーダー格が指揮車で、あとは後続のバスだ。
バスの中で、コーヒー片手に、憲兵隊を指揮していたハリス中佐が振り返る。
ミニドレスの少女が座る椅子の列の端に、拘束用の椅子が一つあり、そこに拘束シールドが展開したままのリーダー格を座らせると、自動的に固定用の網がかかって縛り付ける。
そして車が走り出す。
私は、ハリス中佐、まず、君の名前の確認からいいかね。
こんな特別扱いして、罠張って待ってたんなら、知ってんだろ
素晴らしい、よく分かったね。お役所仕事だ、答えてくれ。君は、ジェニファー、呼び名はジェニーかな。
それでいいよ。あんたら、警察じゃないんだね
ここにいるのは、まぁ、軍だね。
で、あたしらは、どうなんの
来てくれるんなら、カバー作って、別人にしてあげるって話。
行かなかったり、途中で逃げたら?
あの壁ぶち抜いたでしょ、あれで、この前出来た法律に引っかかるんだって、特殊威力破壊防止なんとかって罪で、軍と一緒に作った特別重犯罪者収容施設に監禁されると思うんだけど。
ああ、で、何それ
特別法案ってのは、
じゃなくて、カバーって、何?
つまりね、平凡でリッパなご両親とまっさらな経歴のきれいな身体で軍隊に入って鍛え直してもらいましょうって話なの。
じょーだん止めて
マジなんだ、悪いけど。中佐もあたしも暇でやってる訳じゃないんだ。
収容施設の見学でもするかね?
中佐、あんまり苛めないで。仲間になるんだから。
ちっ、勝手にしろ、で、この泡だか膜だか、外せよ
あ、向こう着いたらね。お腹すいてたまらないんでしょ、向こう着いたら食事もしてもらうから、安心して。
おい、なぁ、これ、あたしの魔力で作ってんのか?
そうよ、よく分かったね。
怠くて仕方ないし、変な、ゾワッとしやがったんだ、あん時。で、あんたら、この襲撃の裏の事はどうでもいいのか?
私は正直、どうでもいいけど。
話してくれたら、カバーも作り易いし、民警に恩が売れて助かる。
あっち着くまでに、考えといてね。で、さぁ、その、もこもこのジャージの下、やっぱ、防弾着てんのね?
当たり前でしょ、あんたと違って、ね
他にも持ってるよね、お守り。あれ、あたしのには効かないから。今度、マシなやつ、教えるよ。
で、行くなら、あたしら、みんな一緒に、だね
編成は、私の管轄ではないんだが、できるだけ、善処するよ。
ばらけるんなら、この話は無し、で、あんたは、何?
ハリス中佐だ、今は徴募官、つまりリクルーターだが、本来は、トレーナー兼コーチだ、対魔獣戦担当の特殊部隊を指揮する。
ジェニー、あたしはアレックス、皆の上司兼教練担当になると思うから、よろしく。