表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
史上最強の眠り姫  作者: 栗尾りお
第2章
97/97

史上最強の眠り姫96

 歩くだけで水っぽい音が出る地面はもうない。ひび割れた大地に息絶えそうな木が所々に生えているだけ。悲しい景色に孤独と恐怖が込み上げる。


 「……そっか」


 パニックになりかけた私の頭が現状を理解し始める。

 さっきの湿地帯には転移魔法を使う魔物が生息していた。多分私たちとルルフの間にいたんだろう。それに気づかず、不用意に前に飛び出し、罠が発動した。だから私だけが転移したんだ。


 「とりあえず、みんながどこにいるか確認しないと」


 手を胸元に当てて魔力を込める。そして、いつも通り睡眠魔法を発動させた。

 今いる場所は一面荒野の世界。こんな場所で下手に動き回るのは体力の無駄遣いだ。


 半透明になった体が空気中にはじき出され、上昇していく。疲労を感じることなく、空を駆け巡るこの時間が私は好きだ。でも少し問題があるとすれば、この味気ない景色をどうにかして欲しかった。


 高い所から見たら緑が見えるかもしれない。そんな淡い期待を抱いていたから幽体離脱を行ったのだろう。しかし待っていたのは枯れた植物がどこまでも広がる世界だった。

 現在位置は分からず、元の場所への戻り方も分からない。

 知識のあるサーラや、人間より高いスペックを持つルルフがいれば、まだ希望はあったかもしれない。でも今この場にいるのは、これと言った長所がない一般人。

 水も食料も手荷物の中に入っているだけ。闇雲に歩こうが、この場で待ち続けようが力尽きる未来は変わらない。


 『……よし』


 現状を冷静に分析して導き出した結論。本来なら、もっと焦るべきなんだろう。しかしながら、これほどまで打つ手が無いことが分かると慌てる気にもならない。


 能天気に空を飛び回る。飽きるまで幽体離脱を楽しんでから、私は起床魔法を展開した。


 「……暑っ」


 ここには日光を遮る木や草がない。直射日光を浴び続けた甲冑は温まり、中に篭る熱を必要以上に上昇させる。もう少し起きるのが遅ければ私の体は蒸し焼きになっていたかも知れない。

 寝ている時だけ無敵になる『眠り姫』の能力。今更になって屋外で無防備で寝られる自分が不思議になってきた。


 「暑すぎるって!」


 早く蒸し地獄から解放されようと甲冑を乱雑に脱ぎ捨てていく。地面に抜き捨てられた甲冑がか地面とぶつかり、派手な音を奏でる。

 やはり甲冑を脱ぐ判断は正しかったみたいだ。

 汗と湿気でぐっしょりとなった服。そこに乾いた風が吹き抜ける。砂埃と熱を含んだ風なんだろう。そんな風でも濡れた服に当たることで熱った体を冷やしていく。風が吹く。ただそれだけの現象がこの上なくありがたかった。


 「よし! 復活!」


 体の熱が逃げ元気になった私は周囲を見渡した。状況は何ひとつ変わっていない。それでも、熱を溜め込むだけの錘から解放された私はテンションが上がっていた。


 甲冑と一緒に脱ぎ捨てた短剣を拾い上げ、鞘がついた状態で甲冑を叩く。


 カンッ!


 手に伝わる痺れと共に、予想より大きな金属音があたりに響いた。


 「うるさっ! すごい響くじゃん……あれ? これでルルフに助け呼べるんじゃ」


 カンカンカン!


 空いた手と肩で耳を塞ぎながら何度も鞘を叩きつける。亜人は人間より五感が優れている。実際、転移魔法ではぐれても私たちのいる場所まで戻ってきた。なら大きな音を立て続けることで、ルルフは私の所へ駆けつけてくれるはず。そうすれば楽して助かることもできる。


 欲にまみれた汚い発想。それでも最善の作戦だと信じて疑わなかった。それからどのくらいの時間が経ったんだろう。鞘を叩く腕が疲れ落ちている石を当てる遊びが始まり、近くの手ごろな大きさの石が消えた。その時だった。


「頭がおかしいのは相変わらずですね」


 頭上から聞き覚えのある声がした。


 逆光であまり見えないけれど、影でなびく金色の上と神経を逆なでるような発言で声の主が判明する。


 「ルクス……隊長」


 「そうですよ。見てわかりませんか?」


 「逆光で見えませんから」


 「そうですか。ところで今呼び捨てにしようとしていました?」


 「いいえー。自意識過剰では? それよりいい加減見下すのやめてくれません?」


 「すみません。頭のおかしい人と同じ目線に立ちたくなかったので、つい」


 『つい』じゃないよ! どうして人の嫌がる発言をピンポイントでできるかな? ほんと相変わらずな対応怒りを噛み殺す私のもとにルクスがふわりと着地する。手入れの行き届いた甲冑。艶がある金色の髪。女性のようにきめ細かな白い肌と整った顔。


 悔しいけど些細な動作1つで魅了されてしまいそうな美しさがある。


 「とにかく拾い食いはダメですよ」


 ため息まじりに言葉を放つルクス。こんな呆れ顔ですら絵になるなんて美形は色々得だ。


 「は? 何の話ですか?」


 「あんな奇行に走るなんて、拾い食いしない限りあり得ませんから」


 「……拾い食いはしていません」


 「え⁈ 拾い食いはしていないのですか? あ、失礼。奇行に走るのは前からでしたね。少し忘れていました」


 大袈裟に驚いてから急に感情なく淡々と謝る。もう私を煽るためだけにやっているとしか思えなかった。


 どうして来たのがコイツなんだろう。他の人ならもっと素直に喜べるのに。現在私は遭難したようなものだ。元の場所に帰るにはこいつの手を借りるしかない。大嫌いな相手に助けを求める。その選択しか残されていない現状が心底悔しかった。


 「……こですか?」


 「へ? 今なんて言いました?」


 「湿地帯はどこですか?」


 「すごい怒りですね。何があったかは知りませんが、人にものを尋ねると言うとは思えません」


 「態度は後で改めます。それより今は仲間のもとに帰りたいのです。とにかく教えてください。湿地帯の場所はどこですか」


 「湿地帯ですね……ん? もしかして、あなたを指輪を探しているのですか?」


 質問を質問で返す。普段の私なら、それに噛み付いていた。でも、今はそれよりも先に驚きが出た。


 「ルクス隊長も指輪探しを?」


 「質問を質問で返すのはいかがなものかと」


 「チッ」


 「今舌打ちしました?」


 「いいえ気のせいでは?」


 遅れていた苛立ちがようやく追いついた。ダメだ私。皿達と合流するまで、合流するまではこいつの言うことを聞かないと。


 「遠征の帰りに依頼が来たのですよ。恐らく他の第3部隊は先に到着していると思います」


 「遠征の帰りですか……と言うことは、ギラルさん……じゃなかった。ギラル副隊長とか他の隊員がいないのですか?」


 「ギラル副隊長は優しいですから。私が気疲れしないように部隊を先導しているのです。気づけばあたりに誰もいなくなっていたくらい流れるような指揮でした」


 いなくなっていた? それって置いていかれただけじゃ……ふっ、あのギラルさんにも嫌われているなんて。本人は気づいていないみたいだし、今私の口から伝えるのは違うよね。知らない方が幸せなこともあると思うし。


 「何ニヤニヤしているのですか?」


 「え……あー、思い出し笑いですね」


 「そうですか。なら笑っていないで早く甲冑を着てください」


 めんどくさそうな顔しながら顎で地面に散らばった甲冑を指す。口から出そうになった僕の言葉を必死に乗り込み甲冑を見に纏っていく。冷静を装うとしたけど、ぶつかり合う金属音は無意識のうちに大きくなっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ