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史上最強の眠り姫  作者: 栗尾りお
第2章
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史上最強の眠り姫94

 「ねえ、私悪いことした?」


 「……いいえ、そんなことはないかと」


 「サーラも悪いことしてないよね」


 「はい」


 「ルルフもしてないのだ」


 「だよね! 私たち頑張ってるよね!」


 「……はい」


 「だったら何で罰を受けてるの⁈」


 ついに我慢出来なくなり上体を起こそうとする。しかし時間をかけて固まった体には「起こす」という行為でさえ厳しかったようだ。

 声にならない悲鳴と共に中途半端な姿勢で固まってしまった。






 皆が寝静まった頃に国を出た私たち。

 目的地もはっきりしているし、ルルフ探しの依頼に比べたら距離も近い。おまけに深夜テンションに入っていたため、道中の私たちは上機嫌だった。


 月明かりに照らされる道を夜風を楽しみながら歩く。『第六感』を持つルルフのおかげで周囲を警戒する必要はない。

 まだルルフがサーラに怯えて距離をとっていること以外はすべて順調だった。


 足裏から伝わる感触が踏みならされた地面から柔らかい草原に変わる。足を取られるような緩い感触に変わる頃には夜が明けていた。


 「この辺りですね。早速捜索開始といきたいところですが」


 地図を確認しつつ任務を開始しようとするサーラ。しかし、あまりにも広大な景色にぼう然と眺めることしかできなかった。


 確かに覚悟してたけれど。でもこうしてみると絶望感が半端じゃない。

 こんなに任務を引き受ける方もそうだけど、頼む方もどうかしている。普通は罪悪感を覚えるはず。こんなのどう探せば正解なのか分からない。


 「ルルフ、匂いとかで探せない?」


 「無理なのだ。会ったこともない人の匂いなんて分からないのだ」


 「……だよねー」


 淡い期待を抱いた質問もあっけなく切り捨てられる。

 ルルフの言う通り私たちは依頼人の顔を見たことがない。それどころか今回探す指輪についてもほとんど知らない。

 依頼を受けた紙には指輪の絵は描かれていなかったし、ダリ隊長からも何も聞いていない。

 正直、任務を遂行させる気があるとは思えない。まだ、私たちを誘き出すための罠と言われた方が納得がいく。


 水分たっぷりの大地を移動してサーラに近づく。10歩程度の距離なのに想像の倍体力を奪われる。


 「サーラ。今回も警戒した方がいいよね」


 「うーん……今回はそれほど警戒しなくてもいいのでは? 危害を加えるならここでなくても」


 ルルフに聞こえないように耳元で囁いた言葉に、サーラは再度周りを見渡してから答えた。


 言われてみたらそうか。ここは一晩かければ余裕で着くほどの場所。距離は近いし……いや、夜通し歩いたから決して近くはないんだけど。

 ダメだ。疲労と寝不足のせいで頭がおかしくなってきた。


 「でもこの感じ、2人は警戒したほうがいいのだ」


 さりげなく呟いたルルフの言葉。それに反応したのはサーラだった。


 背中に背負った棺を構えつつ、後に飛び退く。ぬかるんだ地面でいつもと変わらない動きをする。もともとサーラの素質も関係しているかもしれない。しかし、ある程度身構えていなければ、これほどスムーズにうごけていなかっただろう。

 中腰になり、じっとルルフを睨み付けるサーラ。そこに言葉はない。あるのは異常なほどの殺意だった。


 「……」


 つられるように戦闘体勢になるルルフ。白く綺麗な手を地面につけ耳をピンと立たせる。サーラのように分かりやすい殺意はない。神経を張り巡らせ、相手が動くのをじっと待つ。その静けさが逆に怖かった。


 「……ちょ、ちょっと! 何でいきなり戦うの⁈ 今は任務中でしょ⁈」


 派手に泥を跳ねさせながら2人の間に割って入る。後悔が押し寄せるのは大きく両手を広げた後だった。


 「ネムさん。どうして亜人をを庇うのですか?」


 「庇うとかそういうわけじゃなくて……」


 「ネム、気をつけるのだ。下手すると食べられるのだ」


 「サーラはそんなことしないよ!」


 正面からくるサーラの詰問。それに対応しようとすると今度は後ろからルルフの杞憂が飛び掛かる。2人が不仲なのは知っていたけど、これほどとは想像していなかった。


 ルルフの本気を見たことはまだない。それでも、かつてのナリ副隊長を軽く凌駕するほどの実力。そんなものと本気で戦えば、こちらが怪我をする。その未来だけは避けなければ。


 「2人とも黙って! えっと……まずは……」


 睨み合う2人の間に立ち、和解を試みる。だが普通に暮らしていて、こんなバチバチの喧嘩などそうあるものではない。初めての体験にどうして良いか分からず、その場で固まってしまう。


 「ネムさん、そいつ何か企んでいます! だから私たちに警戒するよう促したのですよ!」


 「『第六感』で危機を察したから教えたのだ! スキルについてはナリから聞いてるはずなのだ!」


 「そんなスキル存在しません!」


 「存在するのだ!」


 子供みたいな言い争いをする2人。殺し合い寸前の喧嘩が一気に平和になる。このレベルの喧嘩なら頻繁に見る。私の経験からすると言い争いをしている間は放置していても大丈夫なはずだ。


 大きく広げていた腕を下げ、そそくさと2人の間から抜ける。もちろん私が抜けた後も言い争いは止まない。

 『喧嘩するほど仲がいい』どこかの誰かが言っていたことが本当なら、この2人は現在進行形で仲良くなっていっているのだろう。ただ第三者からすると、とても仲良くなっているようには見えない。


 それに普段から冷静で大人っぽいサーラともしかしたら私より年上説があるルルフ。密かに憧れを抱いている2人の情けない姿をこれ以上見たくない。


 「じゃあさ、先に指輪見つけた方の意見が正しいことにしない?」








 という、やりとりを経て今に至る、


 本来の目的を思い出させることで2人の熱は一旦治った。しかしながら、この方法はその場凌ぎでしかない。指輪が見つかれば歪み合いは再開する。それに今だって2人の空気は険悪なままだ。会話などあるはずもなく、泥が跳ねる音と草を掻き分ける音しか聞こえない。

 このまま指輪が見つからなければ。任務嫌いの私がそんなことを願っているなんて、2人は想像もしないんだろう。


 ルルフが少し離れた場所を探しているのを確認してから、さりげなくサーラに近づく。黙々と指輪を探し続ける横顔はいつもと変わらない。しかし、これが数時間前から変わらず続いているとなると心配が勝つ。


 「サーラ、休憩とかしないの?」


 「指輪が見つかった後でします」


 そう言って探す手をとめない。休憩させることを諦めた私はサーラの隣にしゃがみ込み、指輪探しを手伝う。


 「思ったんだけど、あの時ルルフが攻撃を仕掛ける意味ってある?」


 「ないですよ。言ったかもしれませんが攻撃するなら夜の方がいいですし」


 「それ分かってて戦闘体制に入ったの?」


 「ふっ、ご名答です」


 「うわっ、凄くいい顔してる……確かに子供苦手って言ってたけどさ。単にルルフのことが嫌いってわけではないんだよね?」


 「いえ、そういうことではないのですが……今度話します」


 遠くを見つめるサーラの表情が分かりやすく固くなる。そこに私の知っている優しくていつも穏やかなサーラはいなかった。


 多分サーラも疲れているんだ。特別任務は多いし、サーラにはいつも甘えてばかりだし。今度サーラに何かあげよう。サーラにだって欲しい物があるはず。


 あれ? そういえばサーラって何が好きなんだろう。


 地面に目を落とし、これまでの記憶をさかかのぼる。しかし、出てくるのはお菓子を準備する姿や私のくだらない話を聞いてくれる姿ばかりだった。


 「あのさ――」


 「ネムさん、あれを見てください」


 相手のことを知ろうと発した言葉がサーラの言葉に綺麗に被った。サーラの方を見上げると遠くを指差していた。


 「?」


 不思議に思いつつ指差す先を見る。するとルルフが遠くの方で走り回っているのが見えた。


 「あれ何してんの?」


 「分かりません。ただ、先ほどから同じ所を何度も往復していて」


 「へー。あっ! サーラが意地悪するから拗ねたとか?」


 「べ、別に意地悪なんてしていません! 感じたことを言っただけで!」


 私の冗談に面白いように慌てふためくサーラ。その視界の端で突如ルルフの姿が消えた。

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