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史上最強の眠り姫  作者: 栗尾りお
第2章
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史上最強の眠り姫93

 ガチャリとドアノブが鳴る音がした。


 うっかり聞き逃しても不思議じゃないくらいの大きさ。しかしベッドの上で呆然と天井眺めていたのを高速回転させるには充分だった。


 昼食後の皿洗いを急いで済ませ無理矢理作った休憩時間。代わる代わるやってくる雑用で筋肉痛に侵された体を慰める癒しの時間。そんな貴重な時間がドアの向こう側の人物によって終わらされそうになっている。


 嫌な空気を感じ取った私はすぐに目を閉じる。蝶番が高い音を奏で廊下の空気が流れ込む。足音とともに再度蝶番が鳴り空気が逃げ場をなくした。

 扉が閉まり静けさを取り戻した部屋。妙に緊張感がある部屋の中にカツカツと軽快な足音が響く。目は開けていない。それでも伸びた背筋が容易に想像出来るほど気品に満ち溢れた足音だった。


 徐々に大きくなる足音が枕元で止まった。


 「任務です。寝たふりを止めてください。これでもう8回目ですよ」


 朝食、夕食後の度に行われる私のささやかな抵抗。最初は全く起きない私に慌てふためいていた彼女も、すっかり慣れてしまったみたいだ。


 「これは助言なのですが、寝たふりをするなら寝相の悪さを再現した方が良いかと。ネムさんの寝相はすごいですよ。私は別に気にしていないのですか」


 落ち着いた口調でダメ出しを受ける。サーラのことだから嫌味で言っているわけではないのだろう。しかし、自身の寝相の悪さをこんな時に指摘されるなんて思わなかった。


 「それはさておき、疲労が溜まっているのは事実のようですね。ここは私が人肌脱ぎましょうか」


 枕元の気配が消えた。謎の言葉を残し遠ざかる足音。薄目で確認したい気持ちを押し殺し、彼女の攻撃に備える。しばらくすると、再度足音が近づいてきた。

 ただサーラが歩み寄る。それだけの行動に心臓の鼓動が自然と速くなる。


 「隣失礼します。一応タオルを敷いてから座るので」


 ふわりと優しい風が吹き、ふくらはぎ辺りベッドが僅かに沈む。

 軽く触れる足から伝わる体温と柔らかな感触。今は寝ているし、寝相の悪い私なら急に姿勢を変えることもあるだろう。たとえ私のふくらはぎがサーラのお尻に更に押し当てたとしても事故に過ぎない。そう確信してそっと足を寄せる。だが、これが間違いだった。


 「では、いきます」


 不意に足首を持ち上げられる。嫌な空気を感じ薄目を開けるとサーラが私の右足を抱きかかえるように持っていた。引っ込めようとするが、完全に捕まえられた足は簡単には抜け出せない。

 

 「えっと……この辺りですね。これで少しでも疲労回復しますように」


 「うがっ!」


 よく分からないお願い事に合わせて、激痛が足裏を駆け巡る。


 足を槍で突かれたかのような痛み。任務を回避するための必死の演技が一瞬にして崩れ去る。もう演技なんて言ってられない。頭を抱え、悶え苦しむようにベッドの上をのたうち回った。


 「ギブギブギブ! 待って! 分かった! 私が悪かった! だから、それ止めて!」


 「ですが疲労は溜まっているようですし。どうやら足裏をマッサージすると回復するようなので」


 「力加減ってものがあるじゃん! サーラ、自分の怪力さ忘れた?」


 「いえ、私なんてまだまだ未熟です……もっと頑張らないと」


 「落ち込みながらマッサージ続けるの止めない⁈」


 必死の訴えを無視するかのようにマッサージを続けるサーラの背中を殴る。だが、それほど鍛えていない私のパンチはぽこぽこと弱々しい音を出すだけだった。


 永遠にも感じる時間は唐突に終わる。一点を執拗に押し続けられた足が解放される。拘束されていた足がベッドに落とされる頃には、のたうち回る元気もなくなった。


 「実は私どこを押せばどこが良くなるか知らないんですよね。乱れ打ちの要領でやれば、全身回復すると思うのですが」


 「……なんでそんな見切り発車で始めたの。暴れ過ぎてもう限界なんですけど」


 「そうですか……ちなみにマッサージの感想はどうですか?」


 「痛すぎ! 足無くなったもん」


 「痛みを感じるなら存在するのでは?」


 「そうだけど! そうじゃなくて!」


 「それはさておき、今回の任務ですが――」


 必死の反抗も虚しく、淡々と本題に戻るサーラ。


 「今回の任務は指輪探しです」


 「何その変な依頼? どうせ、どこかの金持ちが指輪なくしたんでしょう? だったら自分で探せばいいのに」


 「……」


 自然と口から出た文句。いつものサーラなら軽く注意してくれるのに、今日はなぜか開けるとため息すら聞こえない。

 不思議に思いサーラの方を見ると、任務が書かれた紙を見たまま目を丸くしていた。


 「サーラ?」


 「どうして依頼相手が分かったのですか⁈ まさか幽体離脱で盗み見を?」


 「そんなことのために魔法使わないって! で、私の言ったこと当たってたの?」


 「はい。この国で5本の指に入るほどのお金持ちの頭首が仕事と言う名目で隣国に出かけたそうです。行きの馬車の中で婚約指輪外したらしいのですが、隣国に着く頃には消えていたそうで。馬車の中は全部探したのですが見つからないので、来た道を全部調べてほしいとのことです」


 「指輪無くしたのバレたらって焦って隣国から送られてきたの?」

 

 「はい」


 「そいつバカなの?」


 「間違いないです」


 浮気目的で隣国に行って、その道中で指輪なくしたから探してくれって。しかも、いろんな人の目につく方法で依頼してくるなんて。これじゃ自分から浮気を報告している様なものだ。

 そんな頭でよく大金持ちの頭首やってるな。絶対その頭首、2代目だ。その人のお父さんがすごく頑張っただけだ。


 「私、こんなのやりたくないんですけど」


 「実は先代の頭首が聖騎士団にいろいろお世話になったらしく。ダリ隊長からは『何が何でも探して来い』と」


 マジか。どうして変な借り作っちゃうかな。そのせいで被害を受けるのは私たちなのに。あとどうでもいいけど、2代目っていうの当たってた。


 「ちなみに今回の任務に参加するのは私たちと、あの亜人だけらしいです」


 「は⁈ 3人だけ⁈ 落とし物探しって凄い時間かかるんだよ⁈」


 「えっと……その……」


 身を乗り出して怒る私にサーラが怯えた表情をする。


 やばい。あまりの内容に感情が先走った。


 「あ、ごめん。つい熱くなって」


 「いえ、大丈夫です。あ、それで理由なのですが『この3人はどうせ暇だから』というのが1つ。もう1つが『世話になった人の恥を広めたくない』だそうです」


 「どうせ暇って……間違ってはないけどさ。なんか腹立つね。どうする? 噂広めまくる?」


 「……『噂が広まった場合は全てネム隊員の責任になるから』と伝言を預かっていて」


 「嘘でしょ⁈」


 私の行動を先読みしたかの様な文言に思わず目を見開く。

 いつもの私ならベッドから飛び降りてサーラの肩を掴みに行っていた。しかし全身筋肉痛の体にそんな活発な動きが出来るはずもなく、立ち上がる直前の姿勢で固まってしまった。


 「ネムさん?」


 「だ、大丈夫……大丈夫だから。それより紙見せてくれない?」


 「あ、はい」


 心配そうな顔をするサーラに精一杯の作り笑顔をする。しかし逆効果だった様で、サーラは一層慌てた様子で私に駆け寄る。


 ……安心させようとしたんだけどな。私が気を遣うのってそんなに変かな?


 意図しない精神攻撃を追加で喰らいながら、例の紙に目を通す。


 「うわっ、本当に言った通りのこと書いてあんじゃん。で、この地図の丸は何?」


 浮気を告白する依頼文の下に簡易的な地図が描かれていた。私たちの国から隣国を繋ぐ道。その道筋の途中に大きく丸をつけられた場所があった。


 ここって湿地帯だったよね? 何でこんな所に丸なんてつけてるんだろう?


 「今回の捜索範囲です。この湿地帯に落としたという証言が」


 「何でそんな変な所に?」


 「話によると指輪を外した直後に馬車がぬかるみにはまったそうで。馬車を降りたのはその1回だけらしいです」


 「だから、この場所調べたら見つかるんじゃないかって?」


 「お、おそらく……」


 うん、分かった。私たち完全にバカにされてる。こうなったら意地でも見つけ出して個人的に報酬を貰いに行こう。多分サーラが可愛くお願いしたら追加報酬くらい簡単にくれるはず。


 「ネムさん? 少し顔が怖いかと……ひっ!」


 後退りしかけたサーラの肩をガシッと掴む。そして顔を近づけてこう言った。


 「サーラ、絶対見つけるよ」


 全身が痛む体。それでも目だけは闘志に溢れていた。

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