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史上最強の眠り姫  作者: 栗尾りお
第2章
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史上最強の眠り姫90

 「ちなみに国が壊滅したのはダリの魔力暴走。行き場をなくした兄妹を見て隊長が入団させたのだ。そして何年も経ってリドム隊長は聖騎士団長。ダリ、ナリは隊長、副隊長になったのだ」


 そう言って長時間しゃべり続けた彼は静かに口を閉じた。足元を這い回っていた小動物や虫は姿を消し、薄暗い路地裏に静寂が流れる。

 あの兄妹の過去は初めて知った。よどみなく話すルルフの言葉に嘘はなかったと思う。しかし、ルルフが話した過去の兄妹と今の兄妹が結びつかない。


 彼らに何があったのか。そしてなぜこのタイミングで話してきたのか。真相をしたはずなのに、謎は深まるばかりだった。


 「困惑、疑い、疑問。やっぱりこのスキルは、少人数相手の方が向いてるのだ」


 「……第六感」


 「意地悪はしたくないのだ。でもルルフにも正義はある。嘘は言わない。でも全部を言うつもりもない。それでも良いのだ?」


 青い瞳が私を見つめる。その問いかけに何も言わず首を縦に振った。









 ダリ、ナリが入団してかなりの月日が流れる。瓦礫の山で生活していた彼らは、いつしか他の隊員から一目置かれる存在になっていた。


 ダリは元から素質があったおかげで、あっという間に他の隊員を凌駕するほどになった。しかし次第に訓練に参加しなくなり、気付けば無気力な青年と変わり果てていた。情熱的なオレンジ色の髪は暗い青色へと変化し、体もすぐに折れてしまいそうなほどやせ細っていく。

 任務に参加しても実力の半分以下しか出さない。それでも優秀な成績を出すから誰も彼を咎めることができない。実力持ちの怠惰な隊員がいつの間にか完成していた。


 そんなダリと対照的にナリは見本のような隊員となっていた。

 毎日の訓練に加え自主練習もこなす。空いた時間は勉強に費やし様々な知識を取り入れていく。常に気を張り、規律を守り自分に厳しく訓練に取り組む。取り憑かれたように努力する姿は、恐怖すら覚えた。

 触れているものを景色に隠す隠蔽魔法も磨きがかかり、展開した魔方陣を周囲の景色に隠すこともできるようになった。

 次から次へと隊員を追い抜いていく2人。その牙がルルフに届こうとした頃、隊長が聖騎士団長へと昇格した。


 本来なら、副隊長のルルフが隊長となり、ダリかナリが副隊長になる。そのはずだった。


 聖堂集められ任命式が始まる。次期隊長に選ばれたのはダリだった。

 聖騎士団は実力主義。幼少期に国ひとつ壊滅させた実績は大きい上の人間が判断したらしい。ルルフも努力を積み重ねたいとは言え、あの頃のダリには遠く及ばない。ダリも「何もしなくていいならやる」と答え、隊長になることを受け入れた。


 副隊長には変わらずルルフが選ばれ、このまま隊長、副隊長が決まる。

 そう思った時、異論を唱えた人物がいた。


 「待ってください!」


 聖堂内に凛々しい声が響く。聖堂内の視線が一点に集まった。規律を守り、真面目に努力を続ける。任命式を中断したのは、そんな手本のような隊員だった。


 カツン


 オレンジ色のショートヘアを揺らし、背筋を伸ばしたまま一歩前に進む。いつも感じる美しい所作の中に緊張と恐怖が混ざる。

 彼女に道を譲らなければならない。そう感じたのか、整列していた隊員たちが次々と道を開けていく。


 「ダリの分まで成果を出します! だから、私を副隊長に任命してください!」

 

 聖騎士団長の正面に立ち、ハッキリとした口調で伝える。しかし何事もなく任命式を続けるリドム聖騎士団長。聞く耳を持たない彼にナリは飛びかかった。

 周囲に紛れ込ませた大量の魔方陣。普通の人なら反応することすら出来ないナリの切り札。


 だが、その1つとして聖騎士団長に当たる事はなかった。


 一瞬光がナリを包み、すぐに元に戻る。その時、すでに彼女の姿はなかった。


 「うちの妹がすみません。後できつく言いつけておきます」


 猫背の体がさらに曲がる。謝罪の礼にしては誠意が感じられない。ただ誰が転移魔法を発動しなければ、聖堂内は大惨事になっていた。想定外の出来事で場は乱れたが、その後も変わりなく、任命式が終わる。


 はずだった。


 咳払いをする聖騎士団長に全員の視線が集まる。その隙をつきダリはルルフの肩を突いた。不思議そうに見上げるルルフにダリは「頼んだ」と口だけ動かす。

 当たり前のように困惑するルルフ。しかし次の瞬間には足元に魔方陣が展開されていた。


 転移魔法の光が消える。曇天の下に広がる草原。この場所がどこかは知らない。ただどこか懐かしい気分を覚えた。


 「植物は凄いな。数年経つだけで瓦礫が土に還るなんて。今にして思うと懐かしいな。といっても、自己紹介より蹴りが先で気を失ったけどな」


 「思い出話がしたいのだ? だったら魔方陣を消すのだ」


 振り返るとわざとらしく周囲を見渡すナリ。話す言葉は棒読みで目も泳いでいる。自分の周りの魔方陣は隠せても本心は隠せないようだ。

 ルルフの指摘を受け深くため息をつく。そしてゆっくりルルフに視線を向けた。


 「お前を倒す。勝ったら副隊長の席を譲れ」


 顎を引き重心を下げる。隠蔽魔法が消えたのか、彼女を取り囲む無数の魔方陣が明らかになる。

 これ以上ないほどに分かりやすい戦闘態勢。戦うつもりもないルルフも無理矢理構えさせられる。


 見つめ合ったまま時間だけが過ぎていく。相手が少なければ少ないほど『第六感』の精度は上がる。2人しかいない草原では彼女の心が読めるほどになっていた。


 「止めにしないのだ?」


 限界を迎えたルルフの問いかけ。ナリがそれに答えることはなかった。








 魔法での激しい攻撃が大地を緑を剥がしていく。いくつもの作戦を組みながら放たれる魔法が次第に単調になり、攻撃回数も減っていった。魔力も底をつき、気力だけで戦っていた体の力が抜ける。


 ガシャン


 甲冑を纏った体が膝をつく。それが戦いの終わりを告げる音だった。

 荒い呼吸。汗で額に張り付く前髪。明らかに限界を迎えた体。それでもゆっくりとした足取りの相手を睨みつける。

 精神面では優秀なのかも知れない。ただ、聖騎士団では実力が全てだ。膝をついた時点でもう結果は決まってしまった。


 「だから言ったのだ」


 必死に睨みつけるナリに呆れたように告げた。


 魔力量、体力、運動神経。全てにおいて人間より亜人の方が勝っている。魔女の手心がない限りその差は埋まることはない。おまけにルルフには『第六感』がある。魔力の流れや心理状態を知られ、未来予知の如く次の行動を読まれたままでは勝敗は目に見えている。

 きっとナリもそのことは理解していた。分かった上で戦いを挑んだのだ。


 「もう隠さなくていいのだ」


 その言葉にナリは目を見開く。そして、弱々しく目線を下げた。


 ナリの近くを流れる最後の魔力が消える。顔や手に出来た傷の数々。膝をついてでも隠したかった傷が徐々に顕になっていく。


 出会った頃にはなかったアザ。

 兄に追いつくために無理を重ねて努力する。しかし完璧な自分を演じていたいから魔法で傷を隠す。


 そんな安っぽいプライドならば、どれだけマシだったんだろう。


 「これでお兄ちゃんは許してくれるかな?」


 光の消えた瞳で微笑む。そこには凛とした姿はなかった。

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