表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
史上最強の眠り姫  作者: 栗尾りお
第2章
PR
89/97

史上最強の眠り姫88

 威勢のいい店主のおじさん。立ち話をするお母さんたちの声。大量の荷物を運ぶ馬車の間を子供達が無邪気に走り回る。


 日差しも気温もさっきと何も変わっていない。それなのに街に出るだけでこの暑ささえも心地よく感じてしまう。


 サーラはまだ箒を履いているのかな? 指名されたといえ、なんだか私だけ楽してるみたいで申し訳ないな。

 もしかしてさっきの作り笑顔を私に対する怒りを隠そうととっさに作ったものとか? うん。子供苦手っていうのが実は嘘でしたって言われる方が納得できる。


 「……はぁ」


 真実にたどり着いた。私は大きくため息をつく。町を覆う爽やかな暑さが私の周りだけどんより湿っていた。


 「ネムー」


 私の手を引っ張っていたルルフが振り返る。

 どういう訳か眉をひそめている。あれだけ元気に揺れていた尻尾も、気付けばだらりと下がっていた。


 「どうしたの?」


 「それ何なのだ?」


 不機嫌そうな顔で睨みつける。その目線の先には例の魔法陣があった。


 「これね……ダリ隊長から甲冑渡されたんだけど。受け取った時には書かれてさ」


 「さっきから魔力を感じて気になるのだ」


 やっぱり。この魔法陣は飾りじゃない。


 これだけ大胆だと逆に油断する怪しまれない。

 きっとそんな安直な考えで埋め込まれたんだろう。いくら自分たちが強いからって、ここまで馬鹿にされると腹が立つ。


 消えないと知りながら、魔法陣に再び爪を立てる。力を込めても何も変わらない。ただ爪が痛くなるだけだった。


 「消して欲しいなら消すのだ」


 「出来るの⁈」


 「もちろんなのだ。任せるのだ」


 得意げな表情で空気中に何かを描く。指でなぞった空間に硬貨ほどの魔法陣が遅れて現れた。


 「多分これなのだ」


 そう言って完成した魔法陣を指で触れる。すると魔法陣は形を保ったまま動き出し甲冑に命中した。

 感触はない。でも当たった瞬間に描かれていた魔法陣が灰のように消え去っていった。


 綺麗になった甲冑をそっと撫でる。

 手触りは何も変わらない。それでも目を輝かせて何とも撫でた。


 「よっしゃー! 解放されたー! ダリ隊長のバーカ! これ以上乙女の会話を盗み聞きさせるかっての! ざまぁみろ!」


 街行く人の視線など気にせず握り拳を突き上げ、暴言の数々を吐き出す。ずっと監視されているかも知れないというプレッシャーは想像以上に大きかったみたいだ。


 「コラ! 悪口言わないのだ!」


 「ごめんねー。これのせいで最近ずっとイライラしてて」


 「でも、ダメなものはダメなのだ」


 「はーい」 


 ルルフの注意を軽く聞き流す。


 とにかく、これで悩みの種が一つ消えた。ここからは自由に動ける。発言だって魔法だって多少無茶しても……ん? って前回と同じじゃん!


 監視から解放された隙を狙って情報を探る。あの時はルルフの能力を知らず優待離脱魔法の情報を明かしてしまった。


 私唯一の攻撃手段兼、初見殺しの魔法。正直、これがバレたのはかなり痛い。

 まだ寝ている間無敵になれる『眠り姫』の能力については知られていないと思う。でも、これも知られてしまったら私の価値はなくなる。


 今はサーラもいない。私1人だけだ。誰が敵で誰が味方か分からない現状、これ以上手の内を明かしたくない。


 そっと胸に手を当てる。そして目を瞑り大きく息を吐いた。


 大丈夫。サーラがいなくてもいける。


 活気あふれる街中で、心の中でそう自分に言い聞かせた。








 大通りを横切り、住宅街を抜ける。ふと振り返ると見慣れた城が親指くらいの大きさになっていた。

 次第に減っていく人通りと古くなっていく家。道脇にはゴミが放置され、動物が食い荒らした跡がある。

 家はあるのに人の気配がしない。まだ物静かという言葉で表現出来るのは、辺りが明るいからだろう。


 静かすぎる街並みに響く甲冑の音。城ではうるさいと思っていた金属音にどこか安心する自分がいた。必要以上に甲冑の音を奏でながらルルフの後ろをピッタリと着いていく。

 数十秒ごとに後ろを確認する。そんな私と違っててルルフは元気そうだった。


 歩くたびに揺れる初雪のように白い髪と動く犬耳。大きく振る手にはいつの間にか麦わら帽子が握られていた。長らく隠されていた首筋かま顕になる。涼しげな青い布の隙間からチラチラ見える肌色は、どんな回復剤より効果的だった。


 恐怖を煩悩で上書きする私など知るよしもなく、尻尾を揺らしずんずん進んでいく。

 きっとルルフ目にはこの景色も冒険の1ページとしか写っていないんだろう。秘宝探しに心を燃やす少年には、独特の不気味さは感じない


 秘宝の話がダリ隊長の嘘と分かっているから、もう何のために歩いているのかわからなかった。


 「ルルフ、もう帰らない? 秘宝なんてないよ」


 一向に速度の落ちないルルフに声をかける。子供の夢を壊してはいけないなんて理想は、今の私には持ち合わせていなかった。


 「絶対にあるのだ。ほら、この路地裏の先! 怪しいのだ」


 「ただの路地裏と思うけどなー。大体秘宝の場所とか聞かされてないでしょ?」


 「場所が分かっていたら秘宝じゃないのだ」


 「そうだけどさ……」


 日の差し込まない路地裏に躊躇うことなく入っていく。目の前の恐怖より1人になることを恐れた私は少し遅れてルルフの後を追った。


 口を半開きにしたまま重い足を引きずるようについていく。恐怖と疲労で頭が回らないのもあるんだろう。それでも子供の正論に何も言い返せなかった自分が情けなかった。


 路地裏にしゃがみ込み、放置されたゴミに目を漁っていくルルフ。暗くジメジメとした空間はは虫や小動物の温床だ。ルルフが動くたびに足の隙間を縫って逃げていく。

 悲鳴を上げて逃げ出したい。しかしルルフから離れるのは怖い。どうすることも出来ない現実に目を固く閉じ、ルルフが満足するのを待つ。


 「別に秘宝の話が嘘でもいいのだ」


 「え?」


 不意に寂しげな声がした。目を開けると亜人の少年がこちらを見上げていた。ゴミ漁りを止めて真っ直ぐ立つ。青空のような瞳が淡い光を出しているように見えた。

 独特の雰囲気に息を呑む。もう虫や小動物に怯える暇はなかった。


 「ダリはルルフより後に入団したのだ」


 「え⁈ じゃあルルフの方が先輩なの?」


 肯定も否定もしない。ただ何も言わずに目を細める。


 「これは昔話なのだ」


 薄暗い路地裏で少年はゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ