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史上最強の眠り姫  作者: 栗尾りお
第2章
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史上最強の眠り姫84

 目を開けると林の向こうに景色が見えた。そして少し離れた地面には緑が広がっている。

 普段ならもう少し景色を楽しむのだろう。しかし、鬼気迫るサーラを目の前に悠長なことは出来なかった。


 『よし、次はテレパシーで』


 焦りつつも、いつも通りを意識してテレパシー魔法を展開する。しかし、なかなかサーラに繋がる気配はない。


 『なんで?』


 何度展開しても結果は変わらない。手順は間違っていないはず。それなのに発動しない魔法陣に苛立ちを覚え始める。


 『あ、距離か』


 ふと前を見ると、遠くでサーラが棺を振り回していた。草のせいで見辛いけど、サーラの前には亜人の子供もいるんだろう。


 幽体離脱をしてからテレパシーの魔法陣展開までそれほど時間はかかっていなかった。それでも、あっという間に広がった距離に驚きを隠せない。


 任務のために必死に追いかけているサーラ。でも、その必死さがちょっと怖い。何も知らない聖騎士団が現れたら、取り押さえられるのは間違いなくサーラの方だ。


 とりあえず、落ち着かせるためにもサーラのもとに――ん?


 サーラに近づこうとした私の体が空中で動きを止めた。


 普段の魔物の討伐ならサーラと連携をとる。でも今回の任務は、あのルルフって子を国に連れて帰ること、なら連携をとって必要以上に追い込める意味はないはず。それに多分だけど、私たちの力ではあの子に勝てない気がする。


 出来るだけ早く任務を終わらせたい私はテレパシーの対象をサーラからルルフに変え、2人のいる場所を目指した。


 『よし、この距離なら』


 確実に効果範囲まで近づいた私は再度テレパシーの魔方陣を展開する。しかし発動直前で急に魔方陣の光が消えた。もう一度発動し直そうと再度、魔力を込める。だが今度は魔方陣すら出なかった。


 何で? さっきは普通に展開できたじゃん! あの子が妨害してるの? それに魔方陣が途中で消えるなんて。まるで魔力切れ……あ


 振り返って草が枯れた一本道を見る。


 さっき斬風を使ったんだっけ? しかも威力最大の。実態なら分かりやすく疲労を感じていた。けどこの体ではそういう疲労が疎くなってしまうから……


 この体は何かに触れることはできない。魔力もないから、攻撃もテレパシーも起床も出来ない。出来るのは魔力が回復するするまで漂うことくらい。


 『はぁ……』


 爆発しそうな苛立ちを抑えつけるように大きく息を吐く。


 このままイライラしていても意味はない。どうせ何も出来ないなら今は空から2人の動きを見ておくべきだ。


 走るサーラの少し先で草の揺れが移動していく。棺を振り回してるでは追いつけない。そう判断したのか振り回すのを止めて走ることに集中した。

 それでも亜人の子供との距離は縮まらない。


 あのサーラが追いつけないなんて。予想だけど棺や甲冑の重さが無かったとしても、あの子には追いつけない気がする。


 草原に出来た、くぼみの周りで追いかけ合う2人。

 字面だと凄くほのぼのして暖かいけれど、現場はそんなほのぼのは一切ない。見失ってしまいそうな相手を草の動きを目印にして追いかける。

 緩めることもできない足と切らすことができない集中力。長期戦になればなるほどサーラの勝ち目はなくなる。


 無理でも早く終わらせたい。その気持ちが前に出すぎたんだろう。


 唐突に振り上げたサーラの手から見覚えのある物体が5個ほど空に放たれる。


 「っ!」


 親指位の白い小さな球。以前見せてもらったポンプの群れを仕留めた魔道具と一緒だった。


 フォーチュンフィッシュのウロコの能力を球に込めたギラルさん手作りの魔道具。割れるとどんな魔法が発動するか分からないけど、たった1つでポンプの群れを一掃できるだけの威力がある。

 しかし今回の目標はルルフの捕獲だ。あんな兵器が5個も爆発したら捕獲どころの話しじゃなくなる。


 ルルフに危害が及んでしまうしサーラ自身も無事では済まないはず。私の能力なら魔道具は不発に出来る。でも私の能力を発動させるには魔道具との距離が遠過ぎる。それにルルフに私のスキルがバレる恐れがある。けど他に何もできないし……


 必死に思考を巡らせる。しかし、最善の答えに辿り着くのを待ってくれるほど時の流れは優しくない。

 空高く舞い上がった5個の球が徐々に速度を落とし空中で止まる。そして今度は地面に向かって速度を上げていく。


 落下する場所はくぼみの向こう側。私の能力でかき消すには少し遠い。


 ……お願いします。どうか全部かき消せますように。


 祈るように目をつぶる。

 どのぐらいの時間が経ったんだろう。恐怖と不安を抱えながら私は恐る恐る目を開けた。


 目の前に広がる光景。それは最後に見た景色と何も変わっていなかった。


 ……やった。やった! 私がかき消したんだ! 魔道具が無駄になったのは申し訳ないけど、サーラが無事ならそれでいい。


 何が起きたかわからず呆然と立ち尽くすサーラ。その様子を見て亜人も足を止めた。


 よし、ちょっとだけ魔力が回復した。今のうちに亜人の子にテレパシーを。


 サーラを見守るように追いかけていた体を急転回させる。草原の上を泳ぐように移動し、亜人の子供のもとへ近づいていく。


 私は今誰にも見えない。変に遠くから発動して失敗するより近くでやったほうがいい。

 草原に紛れる白い耳を目視したところで改めてテレパシーの魔方陣を展開した。


 『あー、あー、聞こえますか?』


 「聞こえるのだ」


 私の問いかけに帰ってきたのは男の子の声だった。女の子っぽい見た目だったから男の子の声が返ってきたのは素直に驚いた。


 ただそれより驚くべき事は少年の目線だった。

 声をかけた途端背筋を伸ばし、左斜め上に浮く私を迷いなく見上げる。まるで私が見えているかのように。


 『もしかして、見えるの?』


 「当たり前なのだ。お前も気付かれていたのを知っていたから、魔法を使わなかったなのだ?」


 ……どうしよう。調子に乗って魔力切れになってましたなんて言えない。


 『ま、まあね! 君の動きも見たかったし』


 「嘘ついていないのだ?」


 『え、えー? う、嘘なんて……そんな』


 「分かりやすいのだ。でもルルフ、お前のこと嫌いじゃないのだ」


 太陽みたいな笑顔で見上げられる。その眩しさだけで灰になってしまいそうだった。


 「ところで、ルルフを迎えに来たということは第1部隊に戻って来いってことなのだ?」


 『そう! ダリ隊長に頼まれてて! お願い! 第1部隊に戻って来て!』


 喜びで発狂しそうな気持ちを抑えつつ、ルルフの前に降り立つ。そして目を見て強くお願いをした。

 これでルルフがOKって言ってくれれば、この任務も終わる。


 「いいのだ。ルルフは最初からお願い聞いてくれたら戻るって言っていたのだ」


 『お願い?』


 「そうなのだ。()()()()()()()()()()()()それが出来たからルルフを迎えに来たのだ?」

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