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史上最強の眠り姫  作者: 栗尾りお
第2章
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史上最強の眠り姫73

 「他に質問はないな。最後に1つだけ伝えておく」


 討伐対象を聞いて一層顔が硬くなる私たちを交互に見たナリ副隊長は、一呼吸おいてから話を続けた。


 「私たちを警戒する気持ちは理解できる。私もお前たちを警戒しているからな。私の独断で動いて良いのであれば、真っ先にお前たちを殺していただろう」


 コン


 不安を煽る言葉の後に近くで金属が軽く当る音がした。


 何気なく目線を少し下げる。すると剣先が心臓の辺りに突きつけられていることに気付く。ゆっくり目線を戻すと両手に剣を持ち、私たちに向けるナリ副隊長。その顔には殺意がなく、恐ろしいほど平然としていた。


 いつ剣を抜いたのか、いつから突きつけられていたのか。速すぎてとか、油断していてとか、そういう次元じゃない。見ていたはずなのに剣先が甲冑に触れるまで気付くことが出来なかった。


 『独断で動いて良いのであれば殺していた』


 その言葉が単なる脅しでないことを理解するには充分過ぎる演出だった。


 呼吸すら躊躇ってしまうほどの緊張感に包まれる。永遠にも感じられる止まった時間の中で最初に動いたのはナリ副隊長だった。

 剣を下ろし鞘に収める。鍔が鞘にぶつかる音が聞こえて、ようやく息苦しさを感じた。

 目立たない様に。しかし着実に、不足した酸素を取り込んでいく。


 まだ任務は始まってもいない。それでも私の体力は限界を迎えつつあった。


 「だが殺すわけにはいかない。だから、お前たちも変な所で野垂れ死ぬなよ」


 真っ直ぐ私たちを見てナリ副隊長はそう言った。表情はさっきと変わらない。

 夜空のような黒い瞳が私たちをじっと見つめる。見つめられただけで背筋が伸びてしまいそうな視線には、良くも悪くも嘘は感じられない。


 生唾を飲み込む。その時だった。

 日の光を浴びる聖堂。私たちを見つめるナリ副隊長。頬を撫でるそよ風も、遮る物がない青空も全てが一瞬のうちに消えた。


 代わりに広がるのは薄暗い世界。目が慣れるまで、周囲が植物で覆われていることにきづけなかった。

 

 編むようにして出来た根っこの道。その両傍は幹がうねるようにそびえ立っている。道幅は大人2人が並んで歩くには少し狭いくらいで、見上げると曇天が見えた。

 これだけ木が密集しているのに道の上空だけは葉が生い茂っていない。まるで何かに切り裂かれたみたいだ。


 呼吸するだけで草の匂いが体を満たす。

 隠れ家のすぐ近くにも森はあった。この涼しさも湿った空気も知っているはず。それなのに恐怖を感じる。


 どこを見ても植物しかないのに自然を感じない。そんな不気味な光景がそこに広がっていた。


 「わっ!」


 何気なく踏み出した足が太い根に取られる。凹凸の多い根の道に重りを追加された体。慣れない条件が重なりバランスを崩した私は壁に突進を仕掛ける。


 「ネムさん!」


 近くにいたサーラが壁に突撃するギリギリで割って入った。しかし、サーラの力を持ってしても私を受け止めることは出来きなかったようだ。私を抱きしめたまま壁に背中を強打する。

 鈍い音の後にパラパラと何かが降り注ぐ。きっと木の実か虫だ。昔だったら喚いていたけど、1年間森の中で暮らしていたんだ。流石にもう慣れた。

 しばらくすると音は止み、私を抱きしめる力が少し弱まった。


 「……ネムさん、大丈夫ですか?」


 「……それ私のセリフ」


 苦しそうな声で笑いかけるサーラ。そんな彼女の胸の中で困ったように笑った。


 「棺のおかげで幾分かはマシかと。やはり準備した甲斐はありましたね」


 「本当に偶然だけどね。そもそも討伐対象が変わるなんて想定外だし」


 そう言いながら立ち上がる。そして今度は体勢を崩したサーラに手を差し伸べた。

 「ありがとうございます」とお礼を述べ、散策を開始する。こういう時にサーラの冷静さは本当に助かる。


 「……転移魔法のようですね。いくらナリ副隊長でもこれは生成出来ませんし」


 木の幹をノックして感触を確かめるサーラ。やっぱりサーラも転移魔法の発動に気付けなかったみたいだ。

 発動のタイミングに気付けないほど素早い魔法陣の展開。先ほどの抜刀にしても、私たちとはレベルが違い過ぎる。


 これでも第1部隊の副隊長で止まっていることに驚きだ。私の望む生活のためにはアレを超えないとダメだなんて……道のりはまだまだだ。


 「ネムさん、ちょっといいですか? 今回の討伐の件なのですが」


 1人落ち込む私にサーラが声をかける。

 そうだった。今は討伐中だった。色々ありすぎて忘れかけていた。


 「ごめんごめん、ちょっと考え事してた。それより今回の討伐って絶対罠だよねー。プンプなんて無害の象徴じゃん。騙すならもっと頑張ってほしいよねー」


 「……」


 「どうしたの? そんな変な顔して」


 「ネムさんはプンプが街から消えた理由を知らないのですか?」


 「何それ? もしかして今回の任務って危険なの?」


 「とりあえず今はここから出た方がいいかと。葉がより生い茂っている方が出口なので……あっちですね」


 葉の量で判断したサーラは急かすように出口を目指す。よく分からないけど、今回の任務は危ないみたいだ。とりあえずサーラの言うこと聞いておこう。


 植物の世界から抜け出そうと、サーラの後をついていく。その時だった。


 うねった幹の間から赤紫色のプンプが飛び出してきた。


 ん? プンプって若草色だったよね。それに私の知っているやつより一回り小さい気が……あ、これって!


 「女王個体⁈」

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