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史上最強の眠り姫  作者: 栗尾りお
第2章
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史上最強の眠り姫71

 2人にしては広過ぎる部屋でパンを食べる私たち。お互い無言なのは、さっきの出来事のせいで間違いない。ギラルさんの所では楽しく会話できていたはず。しかし、ここでは呼吸の1つですら制限されている気がする。

 サーラなんてこの空気に耐えられなくなったのか「紅茶の準備をしてきます」と一度部屋を出て行ったくらいだ。そのくせ紅茶の減りは遅い。だってそうだ。紅茶はさっき飲んだばかりなのだから。


 かなり動揺してるんだろう。戻って来てからも動きが硬いし、いきなり今日の紅茶の説明を早口で始まめたし。

 気を遣ってくれるのは嬉しい。普段自分から話をしないタイプのサーラから知らない話を聞けるのは少し嬉しかった。

 でも硬い笑顔が目に入るたびに、恥ずかしい言動がフラッシュバックする。


 こうして黙っている間も机に頭をぶつけたくなる衝動に何度駆られたことか。


 恥ずかしい気持ちを紛ららわせるようにママから貰ったパンを口に運ぶ。私が私でいるためにはストレスを食にぶつけるしかなかった。

 今食べているパンも食べ終わり、自然と紙袋に手を伸ばす。


 「……ん?」


 座ったままパンが入っている紙袋に手を伸ばす。しかし袋の中に入れた手は空気を掴むだけだった。

 不思議に思い、紙袋を傾け中身を覗く。幸い中身はまだあった。しかし袋いっぱいに入っていたパンが数個しか残っていない。


 嘘でしょ? あんなにたくさんあったのに。しかも、ちょっと前にギラルさんの所でクッキーも食べたのに。おやつ休憩のつもりが、しっかりとした食事になってるじゃん!

 どうしよう、気まずさを誤魔化すためとはいえ食べ過ぎた。しかも不思議とまだ食べられる自信がある。今日の私の食欲どうなってるの⁈


 「仕方ないですよ。久々の実家の味ですから。私もつい食べ過ぎてしまいましたし」


 紙袋を覗き込んだまま固まる私にサーラが優しい言葉をかける。何も言ってないのに分かるってことは、サーラも薄々「食べ過ぎだな」って思ってたのかな?


 「サーラ何個食べた?」


 少し疑心暗鬼になりつつも、気になって質問してみる。


 「これで2個目ですね」


 「……そっか」


 私はその3倍は食べてる。というか2個食べただけで食べ過ぎとか言わないで欲しい。


 「そ、その今日くらいいいのでは? ほら、無事戻って来れたことを祝してみたいな感じで。それにまだ他の部屋の調査がありますし、荷解きもあります。動けば体力も使うので丁度いいかと」


 「そうだよね! うん、そうだよ! 私頑張るから! 絶対何か見つけるから!」


 「はい!」


 謎にやる気に満ち溢れて立ち上がる私たち。そこには気まずさはなかった。


 「では、調査の前に借りて来たティーセットを戻して来ます」


 「あ、それ私も手伝う」


 2人して片付けを始める。その時だった。


 ズン


 後方からお腹に響くような音がした。振り返ると床に扉が倒れている。掃除されているはずの部屋に微かな埃が舞い、音もなく床に落ちていく。


 最初は古くなって劣化しただけかと思った。しかし、倒れた扉を踏み部屋に入る人物を見て、それが故意だと分かる。


 パリンッ!


 今度は近くで高い音がした。足裏からくる生温かい感覚と紅茶の香りが釘付けされていた視線を動かす。


 「サーラ! 下っ!」


 呆然とするサーラに声をかける。床には派手に飛び散ったティーポットのカケラと残っていた紅茶が周囲を湿らす。


 「す、すみません! 怪我はないですか⁈」


 「だ、大丈夫だから。でも、それより」


 パキッ


 飛び散った破片が踏み潰される音がした。単なる偶然なんだろう。しかし、その小さな音は心を落ち着かせる紅茶の香りも、冷たく思い空気に瞬時に変えてしまった。


 「いつまで無駄口を叩いている」


 目の前で仁王立ちする女性。背はサーラより少し低く、年齢は私より3歳ほど年上に見える。

 果実のように鮮やかなオレンジ色のショートカット。前髪に付けられた黒色の髪留めがやけに目を引く。

 猫みたいな目と釣り上がった眉。男性っぽい口調に恐れつつも、少しカッコいいと思ってしまう。


 「客人としてもてなすのは今日までだ。明日からは私たち第1部隊の一員として働いてもらう。自己紹介は必要か?」


 睨みつけるように尋ねる。すぐに答えないとダメなのは分かってる。それなのに気圧されて声が出ない。


 「……大丈夫です、ナリ副隊長! 私は元特殊部隊のサーラです! よろしくお願いします!」


 「お、同じく元特殊部隊のネムです。隊長やっていました!」


 「2人ともよろしく頼む。早速だが明日から特別任務に取り掛かってもらう」


 「……⁈」


 ナリ副隊長の言葉の数秒後で目を見開く。目の前の恐怖で思考が鈍る。それでも淡々と告げた言葉に紛れた違和感には

気付くことが出来た。


 特別任務……この感じフォーチュンフィッシュの時と同じ匂いがする。

 かつて特殊部隊は魔王と互角に戦い、街を破壊しつつも追い返すことが出来た。この功績は誇れるものだし、あれから私たちは成長した。

 でも期待されているほどの結果を出せる自信がない。ナリ副隊長が怖くても出来ないことは出来ないって言わないと。


 「待ってください! どうして私たちだけなのですか⁈ みんなで戦えば――」


 パキッ!


 まだ割れていないティーポットの破片を足で踏むナリ副隊長。

 襲ってくるわけでも、罵声を浴びせられるわけでもない。それでも私を黙らせるには充分だった。


 一歩一歩踏み締めるようにナリ副隊長は向かってくる。近づくごとに聞こえる足音が恐怖心を煽る。さっきまでナリ副隊長を見ていたはずなのに、いつの間にか目線が下がってしまっていた。


 「決定事項だ。分かるか?」


 少し低めの声で静かにそう告げる。恐怖でどうしようもない私は下を向いたまま小さく頷くことしか出来なかった。


 「返事はどうした? 分かった時は何と言うんだ?」


 「……分かりました」


 蚊の鳴くような声で返事をする。自分じゃ分からないけど多分涙目になっているんだろう。


 「では2人とも明日の朝、聖堂前に集合するように。お前たちが倒すのは配属試験にも使われる魔物だ。強くはないが準備は怠らないように」


 そう言い残し、ナリ副隊長は部屋を出て行った。扉が完全に閉まると同時に、私たちは糸が切れた人形のように椅子に腰を下ろす。

 パキッと足元に散らばった破片が音を立てたけど、今はどうでもよかった。


 「……怖かったですね。出られた途端、一気に疲労が」


 項垂れるように座るサーラ。いつものサーラなら疲れていても次の作業に取り掛かるのに、足元の残骸を無視するなんて。この子もすごく怖かったんだろう。


 「ナリ副隊長っていつもあんな感じなの?」


 「第1部隊にはああいう態度を取るらしいですよ。もともと第1部隊は特殊な魔法を使う人たちの集まりでして、中には自信を特別な存在だと思い込む人もいたとか。そんな自信過剰な人の集まりをまとめ上げるのですから、いつのまにかあんな性格になってしまったのでは?」


 そっか。副隊長になれば責任とかあるし、あんな性格になっちゃうのか。確かにあの人の前だと逆らおうなんて気持ちは一瞬でなくなる。


 「ところで隊長は? 確か前にフォーチュンフィッシュの上で寝てた……ダリだっけ? あのダリ隊長は何してるの?」


 「それがよく分からないのですよ。食事も部屋の前に置くようにと言われていましたので見る機会自体なくて。使用人として働いていた時も1度しかダリ隊長を見たことありませんし」


 部屋にこもって何してるんだろう。もしかして、1人黙々と新たな魔法の開発に取り組んでいるとか? でも、そんな熱心なイメージないんだよね。初めて見た時もフォーチュンフィッシュの上で寝てたし。


 もしかして、本当に何もしていないとか⁈ 何もしていなくても隊長として認められていてご飯も食べることができる……それって私が求める未来じゃん!


 王子様探しは難しくなる。だけどそれ以外は文句のつけようがないくらい完璧だ。ここに戻って来て色々不安だったけど、思いもよらないところで目標が見つかった。


 「サーラ! 明日の任務全力でこなすよ!」


 希望を宿した目でサーラを見つめる。そんな私に戸惑いつつもサーラはコクコクと首を縦に振った。

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