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史上最強の眠り姫  作者: 栗尾りお
第1章
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史上最強の眠り姫7

 まだルクスの魔力が切れていないのか、炎は回転しながら眩い光を放っている。


 「でも、どっちにしても遊ぶには狭いですよわね。そうですわ! せっかくだからこの()()()で整地してしまうのはいかがですの?」


 「整地?」


 「ええ、この火の玉をさらに大きくしまして、辺り一帯を吹き飛ばすのですわ。あなたの魔法に私の魔力を込める――初めての共同作業ですね」


 恥ずかしそうに少女は言うと炎の塊を上空に飛ばした。魔王の魔力を注ぎ込まれた炎の塊は回転しながら徐々に大きくなっていく。


 まずい。このままだとこの街、いや国ごとあの炎によって消されてしまう。それだけは阻止しなければ。


 「水弾!」


 炎に向かって魔方陣を展開する。魔方陣から巨大な水の塊が砲弾のように発射される。しかし何発放とうと、家を飲み込みそうなくらいの大きさになった炎には効果が見られない。それどころかますます巨大になっていく。十分離れているのに体が焼けてしまいそうな熱を感じる。光も強くなってきて目を開けていられない。


 「……こうなったら」


 魔王本体に攻撃を加えようと手のひらを魔王に向ける。だが次の瞬間、ルクスの体が彼女の魔力によって覆われてしまった。


 「せっかちですわね。あんまり急かすと嫌われてしまいますわよ。女性には色々準備があるんですから」


 不気味な笑みを浮かべながら楽しそうに話す魔王。今なら攻撃が入るかも知れないが、彼女の魔力に包まれたルクスは動くことも魔法を発動させることも出来なかった。


 これが魔王の力か……


 ルクスの瞳から淡い光が消えた。その時だった。


 突如白い光で満たされた。いや正確には辺り一帯の地面が広く光ったのだ。あまりの大きさにそれが魔方陣であることに数秒の時間がかかる。これも魔王の力か。そう思いながら魔王を睨む。しかし、意外なことに魔王も驚きを隠せないでいた。


 あいつが発動したんじゃないのか? じゃあ誰が?


 再び瞳に光を宿し出来る範囲で魔力の流れを見る。どうやら魔力は住宅街から流れてきているようだ。だが、住宅街にこれほど巨大な魔方陣を展開できる人がいるとは考えにくい。それにあそこにいる住民はおそらく避難している最中だ。この状況で許可無く大規模な魔法を使えばパニックになる。避難を誘導している騎士団がそれを黙ってみているはずがない。


 ……しまった。目の前に因縁の敵がいるのにもかかわらず足下の魔方陣に気を取られ過ぎた。魔方陣は気になるが今は目の前の敵に集中しなければ。


 気を取り直して魔王に視線を戻す。だが魔王は呆然と空を見上げていた。

 つられて上を見ると意外な光景が広がっていた。家を簡単に飲み込んでしまいそうだった炎の塊が跡形もなく消えていた。体が焼けてしまいそうな熱も、目を開けていられないほどの光もそこにはない。


 もしかしてこの魔方陣のおかげか? 何にしても助かった。


 「……私たちの魔法が」


 あまりの絶望のせいかルクスの体を覆っていた魔力が徐々に無くなっていく。ルクスは腰につけていた短剣を静かに抜き攻撃態勢に入る。しかし、そこから彼が動くことはなかった。


 「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな」


 住宅街の方を見ながらブツブツとつぶやく魔王。その体からは黒い炎のような魔力があふれていた。彼女が次にどんな行動をするか、スキルに頼らなくても容易に予想できた。魔王の意識はルクスには向いていない。それでも体の震えが止まらず動くことは出来なかった。


 助けなければ……でも、俺に勝てるのか? くそっ、5年前より強くなったはずなのに


 魔王はゆっくり重心を下げる。次の瞬間辺りに衝撃波が起こり砂埃が立ちこめる。


 ルクスが恐怖から解放されたのは砂埃が晴れてからのことだった。力なく膝をつき呆然と地面を見つめる。そして込み上げる悔しさをぶつけるように地面に拳を振り下ろす。それほど大きくない音の後にじんわりと痛みを感じる。


 歯が立たなかった。本気を出させることすら出来なかった。一般市民も巻き込んでしまった。体が動かなかった。

 単純な強さなら騎士団の中で一番と思っていた。そう思えるだけの努力は積み重ねてきた。圧勝とまではいかなくても互角に戦えると思っていた。だが、その結果がこれだ。


 力に圧倒され、本気を出させることもなく。挙げ句の果てには住宅街の方へと向かう魔王をただ見つめる。それら全てに腹が立つ。そして助かって安心している自分にも。

 


 ザザッ!


 魔王が向かった先から何かが飛んできた。勢いよく地面に叩きつけられた。『それ』は砂埃を立てながら地面を転がる。


 その時足下にあった魔方陣がスッと消えた。


 「……まさか!」


 最悪な結末が頭に中に流れる。ルクスは慌てて立ち上がりその人の元へと駆け寄った。

 近づくにつれてその人の姿がはっきりと見えてきた。


 「っ!」


 ところどころ砂で白く汚れた黒色の服。少し破れているが元はドレスのような服だったのだろう。細い手足に白い肌。そして特徴的な赤い髪と忘れもしないあの顔。


 そう。さっきまでルクスを圧倒していた魔王だった。

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