史上最強の眠り姫42
「では、あたしたち特殊部隊の初任務成功を祝いまして、乾杯―!」
「乾杯です!」
「……」
私のグラスに他の2人が勢いよくグラスをぶつける。他の2人はグラスに入った飲み物に口を付けるが、私だけはそのままテーブルの上に置いた。
「にしても、昨日は凄かったねー。記録上ではフォーチュンフィッシュを討伐できた過去最少の人数らしいよ」
「本当ですか? でも、申し訳ないです。私なんかが、そんな記録に名を残してしまって」
「そんなことないって。確かにあたしが転移魔法使わなかったら討伐できなかったけど、サーラの動き完璧だったよ! 特に鱗の一斉射撃の時! よく無傷で入れたね」
「はい。あの時は咄嗟に縄を引っ張って。そうしたらいい感じに攻撃を防ぐことが出来ました」
「閃光弾の後も凄かったよねー。当てるタイミングも角度も完璧でさー。見ていて気持ちよかったよ」
「そんな……」
「あははっ! ネムも凄かったよ。盾になったり、武器になったり、蹴られながらトラップ魔法無効化していったり……って、ネム聞いてる?」
「……聞いてないよ」
「え?」
「あんな作戦なんて聞いてないよ!」
クッキーや小さなケーキが置かれているテーブルをバンと叩く。衝撃でグラスが一瞬だけ倒れそうになる。私の行動に2人のお菓子を食べる手が止まる。
今まで私はメレアの悪ふざけに本気で怒ったことはない。本当に嫌なことはしてこないし、いつも私の様子を見ながらふざけているように思えた。変かも知れないけど、これが私たちの友情のあり方だし、これが信頼の形だと思っていた。
でも今回の討伐では、その信頼を裏切られた気がした。私が寝た後の作戦変更。しかもおんぶで運ぶはずだったのに、いつの間にかトラップの上を蹴られながら転がる作戦に変わっていた。いくら私が最強になるからと言っても、これは酷いと思う。
「やり過ぎだよ。謝って」
私がそう言うとメレアはグラスに手を伸ばし、口の中のお菓子を流し込んだ。そして私の方を向き姿勢を正した。
何だろう? メレアなら次にどんな奇行をする?
そう警戒しながらじっと見ていると、メレアはそのまま頭を下げた。
「ごめんなさい」
メレアの口から衝撃の言葉が出る。今までメレアが私に謝ったことは数えられるほどだけど、あるにはある。でも、その全てが雑もしくは仕方なくといった感じで、こんなに真剣に謝られたのは初めてだ。
メレアが謝った? しかも、こんなにすぐに。いつもなら、違う話を持ち出して私の気をそらすとか、暴論を持ち出して逆に私に謝らせようとしてくるのに。もしかして悪い物でも食べた? あまりにもいつもと違いすぎる。人が変わったみたいだ。
「っ!」
頭の中にとある可能性がよぎる。
「サーラ逃げて!」
椅子から立ち上がり距離を取りつつサーラに指示する。本当は扉の方向に逃げたかったけど、私が座っていたのは扉から1番遠い席。諦めて窓際に逃げる。サーラも私の様子を見て隣に駆け寄った。
「あ、あの。急にどうしたのですか?」
「サーラ、隙を見てあの扉から逃げて。それで聖騎士団の人呼んできて」
「どうしてですか?」
「あのメレア偽者かも知れない」
私を殺しに来たシンさん。そして街を爆破しようとした弟。この2人は私の手によって捕まえられた。そんなルクスの次に脅威になるであろう私を殺すために、どこかの国が送り込んできたんだろう。
正直見た目は完璧にメレアだったから全然気がつかなかった。でも、メレアの異常さまでは真似できなかったみたいだ。
「あー……だいたいネムの考えていること分かった。あたしが素直に謝ったから、どこかの国のスパイだと思ってるんでしょ?」
「そう! よく見たらメガネもいつもと違うし」
「……全く一緒だよ」
「昨日と髪を束ねているゴムが違う!」
「勘で言ってない? あ、でもゴムは机の上にいっぱい置いてるから、違うと言えば違うかな?」
「ほら、やっぱり」
「ネムさん、しっかりしてください。それだけじゃ証拠になりません」
納得しかけた私をサーラが呆れた顔で止める。その表情には私と違って警戒した様子は少しもなかった。
「え、じゃあちょっと太ったとか?」
「それも証拠じゃありません。もっとネムさんしか知らないこと聞いてみるのはどうですか? 例えば異性のタイプとか」
「それだ! メレア、異性のタイプは?」
「知らない」
「好きな食べ物は?」
「分かんない」
「趣味は?」
「興味ない」
「ごめん、サーラ。私の勘違いみたい」
「……納得されたならいいですが……あの回答でいいのですか?」
「うん。答えも即答ぐあいも完璧メレアだった。メレアもごめん。考えすぎだった」
そう言ってから私は元いた席に座る。サーラも首をかしげながら席に座った。少しいろいろあったけど、こうして初任務成功パーティーは再開された。
「今回の作戦変更はあたしの勘違いで起こっちゃったものでさ。それについては申し訳ないなーって思ってて」
「それで、勘違いって?」
「もともとはネムを寝させて、それをサーラがおんぶして走れば小回りのきく絶対防御の人間が出来るなーって考えてたんだよ」
確かに私の能力を使えば、魔法攻撃を無効化出来る。それをサーラがおんぶすれば、私の動けないという弱点を克服できる。それにサーラの怪力で直接殴ったり、武器を投げて攻撃したりすることだって出来る。
「でも、いざサーラに突撃させようと思った時気付いたんだよ。これ背中しか守れないじゃんって」
「うん。おんぶされているからね」
「背後や上空からの攻撃は防げる。でも前は? 足下は?」
「でも、ある程度の範囲は守れるんじゃ……」
「遠距離魔法はね。でも地面のトラップ魔法を完全に防げるか分からなかったからさ。結果的にあの方法がベストかなって」
それで結果的に私が寝てから急遽作戦変更になったのか。そう言う理由なら私を転がして鱗を割る作戦は悪くはないけど。
「咄嗟の判断で完璧な作戦立てたよねー。やっぱ、あたしって天才だなー。正直前から知ってたけど」
「私的には完璧からほど遠い作戦だと思うけど? だいたい寝てる人を足で蹴るって考えが野蛮だよ。あれだけで、かなりダメージ受けてるんだから」
「あたしは蹴れなんて一言も言ってないよ」
「あ、あの……」
さっきまで美味しそうにケーキを食べていたサーラが申し訳なさそうに手を挙げる。
そうだった。身長的に蹴る方が楽って言っていたのはサーラだった。本当のことを言うとダメージなんて受けていないし、起きてから体を見たけど痣もなかった。でも、ついメレアに話すテンションで言ってしまった。
どうしようと焦っていると、サーラは目をうるうるさせながら話し始めた。
「あの時は、いかに早く討伐するかばかり考えていて。それに、まさか意識があるなんて……」
「ほお、サーラ君はバレなければ何をしてもいいと考えているのかね?」
「あ、いえ。消してそういうわけでは……」
「コラ、メレアもその辺にしときなよ。ごめんめ、サーラ。さっきのは冗談で別に怒ってるわけじゃないから」
「本当ですか?」
「うん、本当。さあ、今日は思う存分食べよう」
達成感に浸りながら、好きな物を好きなだけ食べる。何もしなくてもこんな生活できるなら最高だけど、こうして仲間と楽しく過ごすのも悪くないかも知れない。
そんなことを考えながら、私はお菓子を頬張った。




