表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
史上最強の眠り姫  作者: 栗尾りお
第1章
21/97

史上最強の眠り姫21

 太陽はとっくに沈み町に灯った光も一つ、また一つと消えていく。今夜は月明かりもなく街を照らすのは弱々しい星の光だけだった。

 そんな夜に染まった街を三人の男たちは静かに走る。


 「次の角でそれぞれの場所にバラける。俺が最初にぶっ放すからお前らは作戦通り順番にやれ」


 「ああ」


 「了解」


 最終確認を済ませると男たちはそれぞれの場所を目指し、散っていった。


 聖騎士団の見回りも、魔法が使えなくなる結界の効力が薄い所も知らされている。この作戦自体、伝えられたのはついさっき。しかし男たちはこれまでの経験から失敗することはないだろうとたかを括っていた。ルクスが倒れた今この国に脅威はない。


 作戦通り目的の場所に着いた男は、息を整え周囲の確認をする。


 ……よし。誰もいない。


 確認を終えた男はポケットの中に手を入れる。そして中から小瓶を取り出した。

 紫色の液体が入った小瓶。暗闇にいるせいかその瓶がわずかに不気味に光っているのが分かった。男は生唾を飲み込む。


 ブースト瓶。最近は表で見かけなくなったが、少し前まで普通の武器屋でも売られていた魔法アイテムの一つだ。中には液状にした魔力が入っていて、飲むと一時的に魔力が増幅する。ただ副作用として使用後に体に異変が起きたり、一定時間魔法が使えなったりするため現在では一般に出回ることはなくなった。

 しかし裏では頻繁に取引が行われており、より強力で体に負荷のかかるブースト瓶が作られるようになった。男たちもブースト瓶はよく使用していたし、売り込んでいたこともある。

 だが、ここまで不気味なブースト瓶は初めて見る。魔法発動時に使うように依頼書に書かれていたが、少しばかり飲むのを躊躇ってしまう。


 「……今回は死んじまうかもな」


 瓶を見ているうちに、つい心の声が漏れてしまう。

 これほどまでに危険な物は飲みたくはない。かと言ってここで怖じ気づいて、この依頼を断ってしまえば莫大な報酬金を自ら見逃してしまうことになる。それに上手くいけば、国は崩壊し地位や権力は全て逆転する。権力を笠に着て人を見下すことしか出来ないクソ共。そんな奴らに復讐できる。


 そう自分に言い聞かせながら、男はゆっくり瓶の蓋を回す。そして大きく息を吐き、一気に飲み干す。


 すぐに吐き気と締め付けられるような痛みが心臓に走る。あまりの痛みに思わずその場に膝をつき、額を地面にこすりつける。


 それからどのくらい時間が経ったのだろう。ほんの一瞬かも知れないが、男にはとてつもなく長く感じた。

 男はゆっくり立ち上がる。あれほど辛かった吐き気も心臓の痛みも消えていた。体が熱く全身が脈打っている感覚がする。脳もクリアで何でも出来そうな自身が沸いてくる。


 「さあ、反撃の開始だ! 灰になりやがれクソども! 溶花(ようか)!」


 両手を空に掲げ巨大な魔方陣を展開させる。すると空に家を飲み込んでしまいそうなほどの赤い溶岩の塊が出現した。周囲の空気を焼いてしまいそうなくらいの熱と闇に染まった街を染める赤い光。ボコボコと粘りのある泡が現われては消えていく。


 「さーて、派手に逝けよ」


 そう言って男は魔方陣を国の中心地へと傾ける。宙に浮いていた溶岩の塊は魔方陣の上を転がるように進み地面に落下する。落下した後もそのままの速さで、周りの建物を飲み込み、焼き尽くしながら国の中心地に向かってゆっくり転がり続ける。


 「来た来た来た! 俺史上最上級の大きさだ! ぎゃはは!」


 血走った目を見開き下品に笑う男の顔が赤く照らされる。その顔や腕の血管は通常ではあり得ないほど浮き出ていた。


 「げほっげほっ」


 口に手を当て何度も咳き込む。咳が止まり自身の手のひらを見ると血が付いていた。その直後、全身の震えと疲労感が男を襲う。男はその場に立っていることが出来ず地面に膝をつく。

 おそらく男はこの場から自力で逃げることは出来ないだろう。しかし、魔法を発動させた時点で男の勝利はほぼ確定していた。


 男が魔法を発動したのは空き家が多くある地区。古い木造の家が多くあり住民も少ない。住民が異変に気付き聖騎士団に知らせに行くときにはすでに辺りは火の海になっているだろう。それに溶花は溶岩の塊を転がし特定の場所で爆発させることが出来る遠距離魔法。発動者が倒れない限りあの塊は人の多い国の中心地に向かって転がり続ける。仮に誰かが男のもとへ駆けつけようとも爆発させると脅せば誰も手出しできなくなる。目的地にたどり着くまで後数分。それまで男を倒さなければ甚大な被害が出てしまう。


 ヒューヒューと苦しそうに呼吸をしながらも、男は幸せそうな顔で燃え広がる街を見た。











 遠くの空が赤く染まった。それを確認してから男はブースト瓶を取り出した。まじまじとブースト瓶を見てから少しずつ飲む。半分くらい飲んだところで体の異変を感じ、慌てて瓶から口を離す。そして少し迷ってから再びポケットの中に入れた。


 今回の依頼は『城の警備を手薄にするために騒ぎを起こして欲しい』とのことだった。どこかで聞いた話だが現在ルクスは瀕死状態でその辺の娘に代役をやらせているらしい。とても本当の話とは思えないが、依頼者はこの期を逃すまいと慌てて作戦を立てたのだろう。


 自分たちが気を引いている間にルクスを暗殺する。あまりにも単純で成功する未来が見えない絵空事だ。しかしルクスが瀕死状態という情報が出回っている今、他国がこの計画に参加する可能性も充分にあり得る。ならば、ここはリスクを負いながらも作戦に参加するのが得策な気がする。

 

 「……そろそろか」


 全身の痛みが引いていくのを感じる。男は周囲を確認してからその場に腰を下ろした。


 「腐食」


 地面に手をつき魔方陣を展開させると、男の周りの地面が腐り始めた。

 腐食は周りの物をどこまでも腐らせ、辺り一帯を腐臭のする沼に変える魔法だ。主に足止めに使う魔法。しかし、これを今の状況で使うことにより聖騎士団の足止めと住民の避難の妨害を引き起こすことが出来る。

 

 「これで魔法はよしっと。とりあえず俺も避難する住民たちに混じるか」


 今この国では別々の場所で仲間が炎の塊での攻撃と、召喚魔法による魔物での街を攻撃している。そして腐食の魔法がこの街をじわじわ侵食している。

 聖騎士団が各場所の魔法による被害の対応に追われるなか、城への警戒はあるかも知れないが、押し寄せてくる避難住民の警戒までは力を注げないはず。


 男はそんなことを考えながら急ぎ足で城へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ