11月11日
11月11日。
手元には定番のあのお菓子の箱。開けてない。
ごくりと唾を飲み込んでちらりと斜め前を窺い見る。同じこたつの中に足を突っ込んでいる彼は、こちらの劣情など気付かず静かに本を読んでいる。
私は恨めしげに彼を睨んだ。
──お前の女は今、不埒なことを考えているぞ……!
不埒。不埒だろう。斜め向かいの男の唇を狙っているのだ。不埒。
お付き合いを始めて2ヶ月経つのに一切接触してこない斜め前の元友人について、もはや聖人なのではないかと考えている。それか菩薩。
ちょっといい感じになってもするりと体を離し、雰囲気をかき混ぜ、無かったことにしてしまう。
今だって狭いこたつの中で足は触れない。ドキドキシチュを期待していたのに。
しかしながら、普段そっけないわけではない。友人時代から変わらず優しいし、楽しい。だから解せない。
おそらく彼は、女と接触すると体が爆発する仕様なのだ。それか、性的な接点を持つと祟られるか。ひょっとすると魔法使いを目指しているのかも。
だが、こちらはそんな事情知ったこっちゃない。私の体には爆発物は仕込まれてないし、目に見えないものは信じないし、魔法なんて使えなくていい。だからその唇が欲しい。
思い切ってパッケージをパリパリと開け、恐る恐る1本取り出す。それから唇で浅くくわえた。
「ねえ」
「……ん?」
本から顔を上げた彼に見せつけるように「ん」と向けた。
「…………」
硬直。
──彼が。
私の口元に視線を留めたまま、彼が固まり、時が止まり、私の背中に嫌な汗。
失敗した。やはりダメだったのだ。こんな不埒なゲームに彼が乗っかるはずがなかった。気まずい空気に、このまま体が爆散して消えてしまいたい。
居た堪れなくて顔を背け、くわえたものを離そうとしたら。
「待って」
「んっ」
お菓子を取り上げられて、代わりに望んでいたものを与えられた。
想像よりも暖かい唇。
チョコレートはこたつの上で溶けた。
《 おしまい 》
2022/11/11 ポッキーの日




