祝福の魔女 おまけ
2021/6/13活動報告に載せた「祝福の魔女」SSと同じものです。
本編はこちら(https://ncode.syosetu.com/n2713gv/)
ラナは見知らぬ男に絡まれていた。
「ねえねえ、一人? 可愛いよねえ、遊びに行こうよ」
一人だが、見知らぬ男と一緒に遊びに行きたくはない、とラナは後ずさった。
今日は面白い見せ物があると聞いて、退屈な王宮を抜け出して街にやってきたのだ。一人でゆっくり見たい。
説明が面倒なので魔法を使ってしまおうか、と思ったその時。
「それは私の連れだ」
怒りを滲ませた低い声がした。ラナと男を覆うように、大きな影が落ちる。
ダイナマイトボディの、男。
シドが威圧的に立っていた。
振り返った男はぎょっとし、身を引いた。
「な、なんだ、彼氏持ちかよ。いいや」
「おい待て」
去ろうとする男の肩をシドはがしりと掴み、ゆく手を阻んだ。男は見るからに怯えている。
「いまの、もう一度言え」
「え、は? いや、もういいよ」
「違う、その前。『彼氏持ちかよ』ってやつ」
逆らったらまずいと思ったのか、男は困惑しつつ言葉を繰り返した。
「か、『彼氏持ちかよ』」
「ふふふ、彼氏と彼女に見えるか?」
「は、え? 違うのか?」
「いや、夫婦なんだが、まあいい。ふふふ、ふふ」
悦に入っているシドを見て「ヤバ……」とドン引いたラナは、そっとその場を離れた。
シドもすぐに男を解放し、ついてくる。
「聞いたか、ラナ? 恋人同士に見えたと」
「実際の年の差を聞いたら仰天して考え直すと思いますよ。あなたなんて子どもみたいなものです」
ラナは年齢を明らかにしていないが、少なくともシドが胎児の時にはすでに妙齢の魔女だった。見た目は一定の年齢で止めたので実年齢と合致していないが。
「それはいいが、勝手に一人で出歩くな。危ないだろ」
「私を誰だと思っているんです」
後ろからゆっくりとした足取りでついてくるシドに振り向くと、一応変装してきたつもりなのか、彼は地味なローブを羽織っている。
しかしその合わせ目からちらりと見える胸元は、シャツがぱつぱつだ。ボタンが飛びそうなほどのおっぱ…、いや、雄っぱい。
せっかく与えてやったあの「祝福」も、いまは使い道がほぼない。戦いに出ることがなくなったので、シドはそのダイナマイトボディを持て余しているのだ。
♢
ラナが向かった先は街の広場だった。
変わったマジックショーを見られると聞いてやってきたのだが、すでにたくさんの人が手品師を囲んでおり、ラナはその輪の一番外側になってしまった。
あのおかしな男のせいだ。シドが来る前にさっさと始末してしまえばよかった。
「魔女のラナの方が凄いことが出来るのに、手品なんて見たいのか?」
「魔法と違ってタネや仕掛けがあるのが凄いじゃないですか。ちっ、見えない」
輪の中心をなんとか見れないかと、ラナはぴょんぴょんとジャンプするが、何層にもなった人が邪魔で見えない。
すると、急に体がふわりと浮き上がった。
「う、わあ」
浮遊感に慌てたラナは、シドの肩の上に座るような形で乗せられた。
しっかり押さえられているものの、体勢を崩しそうでシドの頭を抱え込む。
「なにを!?」
「ははは! 一番後ろだから他の人の邪魔にならないしいいだろう。これならよく見えるだろう?」
抱っこしてくれるならもっと良いやり方がなかっただろうか。これはマッチョが子どもを肩に乗せて遊んでやっているような構図だ。
文句を言おうとしたラナだが、すぐに手品に夢中になってその言葉は消えた。
そしてシドの頭にしがみついたまま、ラナはマジックショーを堪能した。
♢
「面白かった!」
「それは良かった」
結局ショーの間、ラナはずっとシドの肩に乗っていた。重かったのではないかとほんの少し気になったが、シドは全く問題ないようだ。
さすがの若さとダイナマイトボディ。魔女の「祝福」由来の身体は頑丈だ。
「私はこの祝福をあなたに授けたことを初めて良かったと思いました。おかげで面白いものが見れました」
ラナが一応礼を言うと、シドはうっとりし、しみじみと頷いた。
「運命の相手から賜った力で、その運命の相手を喜ばせることが出来たなんて……、僥倖だ」
「……」
運命、運命と相変わらずスピっているシドに対して、また「発想ヤバ……」とラナは引いたが、今日は楽しかったのでスルーしてやることにした。
《 おしまい 》