25 風来坊小町
次話は10月10日です
「こまっちゃん!」
さっちゃんが歓喜の声を上げた。
「やっほ~。呼ばれたから来たよ~。うんうんさっちゃんだ。
無事でよかったよ~。家が燃えたって聞いて慌てて向かったけど
どこにもいなくて……さっちゃんの能力があるのにそんなばかなって。
信じられなくてあの付近をずっと探してたんだよ」
風来坊小町と名乗った人物がさっちゃんに抱きつき
涙声で伝えた。
「心配かけてすまないのじゃ。ほれ、わしはこの通りピンピンしておる」
「うんうんよかったよかった……ところでそこのあんた誰よ。
もしかしてさっちゃんを捕まえた悪いやつらなの?
だったら死んでもらうけど」
首を私に向け脅しをかけてきた。冗談ではなく本気だと目が語っている。
彼女を中心に風が発生してきているようで、髪が浮き上がり周囲の物がカタカタと
揺れ始めた。
これには覚えがある。風魔法使いが怒ったときによく見る現象だ。
風は視認できるモノじゃないため防ぐのが難しくとても厄介だ。
同時に彼女が音もなく現れた理由に見当がついた。
ふむ、少し試してみるか。
私は分かりやすくパチンと指を鳴らし風魔法を使う。すると
彼女が発生させていた風を打ち消すことに成功。
なるほど。原理は同じか。妖怪の力も魔法と一緒で自然を操作しているのだな。
またひとつ妖怪に詳しくなった。さっちゃんの話では彼女は情報通とのこと。
これを機に仲良くなって、知識欲を掻き立てる有意義な会話をしたいものだ。
私はそう願って彼女に小さく微笑んだ。
すると彼女は睨みつけていた目を大きく開いたあと、
パチパチと何度もまばたきを繰り返すのだった。
「え、え、え? えー??」
驚愕、驚嘆、予想外、思いがけないこと。初めての体験に
どう表現していいのか困惑している顔と声をする――のも束の間。
今度は一気に力を爆発させようとした動きを読み取り、
もう一度指を鳴らし風の力を無効化させた。
「んなぁ!!!!???」
そんなばかなと絶望している。くっくっく、残念だったな。私のほうが一枚上手だったようだ。
風魔法使いとの戦闘経験が生きた。彼女の目の動きが外を指したので、
ここに現れたときみたいにさっちゃんを抱いて逃走を図ると読んだのだ。
私は敵ではないというアピールを込めて笑顔を崩さず彼女を見つめる。
「――――ぁゥッ――クッ」
「おぬし何してるのじゃ! 父ちゃんは父ちゃんだぞ! やめるのじゃ!」
さっちゃんが彼女の行動に驚き止めに入る。
友達の見たことがない姿にさぞ驚いている様子だ。
「はぁ? さっちゃんのお父さん? なに言ってるのよ……どうかしちゃったの?」
「これには深いわけが――ええい、手紙だと伝えるのが難しかったから、会ったときに
話そうと省略したのが間違いじゃったわ。とりあえずここに座れ」
「……いいわ。説明してちょうだい」
そう言うと彼女はさっちゃんの隣の席に座った。
ちょうどそのタイミングでおかみさんが新しい料理を運んでくる。
「いつもより遅くなっちゃってごめんなさいねー。急に変な風が入ってきたみたいで
いろいろ飛んじゃって~。やーねー台風が早まったかしら――って、あら?
やだ!? いつの間にか一人増えてるじゃない。あらららら。ごめんなさいねーおばさん
気づかなくって。すぐに取皿持ってくるわね」
そう言ってバタバタと去っていくおかみさん。
やはり私以外にもこの子が入ってきたのを知らなかったようだ。
――とても興味深いね。質問したくてウズウズしてくるよ。
備え付けのウォーターポットを手に取り、グラスに注ぎ彼女の前に置く。
ついでに割り箸も置き準備完了だ。
その間にもさっちゃんが説明していたので、終わるまで食事をつまみながら静観。
たまにうなずいたり付け加えたりした。
「あてぃしの勘違いでした! 本当にごめんなさい!」
テーブルに手を付き頭を下げる小町。
「勘違いが解けてよかった。それにさっちゃんを案じてのことだろ。私は
君の想いにいたく感動した。だから気にすることはない――と言いたいが、
それでは君の心が収まらない。そうではないかな?
そこで、だ。小町くんは情報通と聞く。実は今知りたいことがあってね。
教えてくれるとありがたいのだが」
「そんなことでよければ」
「おお! そうか、それはありがたい。では食事をしながら話そうじゃないか」
「あ、はい。美味しそうですね! それではお言葉に甘えまして。
しかしすごい量ですね。パーティーみたい。なにかいいことでもあったんですか?」
「いや、普段からこの量だよ」
「ええー!?」
「わしも最近はいっぱい食べるようになったぞ」
「ええー!? 少食だったじゃん! 成長期?」
わいわいと一気に賑やかになった食卓。この丁度いいサイズの空間が自然と
私の口元を緩くさせた。
「なんじゃ父ちゃん、ニヤニヤして」
「ん? いや、そうだな。懐かしいものを思い出したかもしれないね。
さて、じゃあ質問いいかな?」
「もぐもぐもぐ……んぐ。はい、なんでしょう。スリーサイズ以外なら
なんでも答えますよ」
「隠すほど大したものでもないじゃろ」
「うっさいっ」
「おや、それが知りたかったのに残念だ。聞きたいことがなくなってしまった」
「やだ、おじさまったら」
私が言った言葉を聞いたさっちゃんは「父ちゃん……」と小声でつぶやいた。
顔が引いている。
「冗談さ」
場を和ませたあとは妖怪のことやさっちゃんのことを聞いた。
話の中で彼女が店に入ってきたときに、誰にも悟られなかった理由を知れた。
“妖怪だから”を前置きにして起源を遡る。
遠い遠い昔から、人類は進化の枝分かれで、部分的に特徴が出る子が生まれていた。
地域や立場によって、忌み子や神の子と呼ばれるようになった。
特別な存在になった子は、住んでいる土地に危機が訪れたとき、
神のもとに赴き、怒りを鎮めるための役割を与えられた。
その中に、死んでから特別な力を発動した者が現れ、怨念を喰らい成長していったそうだ。
妖怪の始祖の誕生である。
怨念を蓄えた始祖は、特徴をむき出しにした妖怪を次々に生み出していき、
世に混乱をばら撒いた。
血気盛んな戦闘狂は生者に挑み、大立回りの末に討滅となる。妖怪の快進撃は長く続かなかった。
始祖と一部の妖怪は命からがら逃げおおせ、隠れること一心に願って生み出した
妖怪が、のちに始祖の右腕となる大妖怪“狭間”の誕生である。
狭間は人と妖怪の間に認識のすきまを作る能力を生まれ持ち、長い年月を掛け
全世界に浸透させることに尽力した。
これにより、妖怪側が存在をアピールしたいと強く願わなければ、完璧な姿で
目撃されることはなくなった。これが妖怪に伝わる歴史だそうだ。
これはまた、共感できる話じゃないか……
「妖怪の個性と能力には食べた念が深く関係しているの。
あてぃしの場合は『噂話』。風の噂に乗ってびゅーんとひとっ飛びできたり、
拡散したり集めたりってとこね。
さっちゃんは『家守』。悪くなってるところを鳴らしたり、危険な物をどけたり、
子供を見守ったり。結果的に幸運の座敷わらしと呼ばれるようになっていったな」
「そうじゃな。幸運を招くと言われておるが、わしは悪いところが見えると言ったほうが
しっくりくる。未来視でもないから結果どうなるかは知らんがな。
いや、深く探ればもしくは……。だが関わりを強くしてしまうと
人間に認識されてしまうので、やることはなかったのぅ」
自分たちについて二人は語る。生きてきた中で塩梅を身に着けてきたのが伺える。
妖怪の生き方――か。恨みはあっただろうに、敗北から学び共存に舵を切った
始祖の働きに賛辞を贈りたい。
「百々目鬼という妖怪を見てしまい呪いに困っている子がいる。
特性や解呪する方法を知っていれば教えてほしいのだが」
「へー、あの百々目鬼にかー……それはまたまた。んー……のろい、ね」
小町はあごの横に人差し指を当て
「直接聞いたわけじゃないからうわさ話をまとめての持論なんだけどね」と
話しだした。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・
「ありがとうございましたー! またお越しください!!」
「ごちそうさまでした。また連絡入れますね」
会計を済ませ三人で挨拶をして店を出る。
話が盛り上がってしまいもう夜更けだ。長居しすぎてしまった。
「いや~おいしかったな~。こんな風に気にせず食事ができたの初めてかも。
しっかしおじさまもさっちゃんも異次元の食べっぷりだったなー。
その身体のどこに入るのか不思議すぎ」
さっちゃんと手をつなぎ、ぶんぶんと揺らしながら、小町は満面の笑顔を咲かせる。
警戒心が解けてよかった。さっちゃんの大事な友だちだ。
これからも仲良くしてほしいし、何より情報屋は必要だ。
そう思った私は彼女をこちら側に招き入れようと勧誘を試みた。
「小町くんの情報はとても役にたった。これからも君の話を聞かせてほしい。
いつでも遊びに来てもらって構わないし、一緒に食事をしよう。
さっちゃんも喜ぶ。そのときに君が感じた不思議を話そうじゃないか」
「そうじゃこまっちゃん! わしらはすごいことをしようとしてるのじゃ!
絶対楽しいから絶対来てほしい!」
「わわっ、それはなにやら興味がびんびんと惹かれちゃうワードですねー。
もちろん遊びに行かせていただきますともっ!」
「やったー!」
風が吹いた。今はまだ髪をなびかせる小さい風だが、この風はきっと台風になるだろう。
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