12 さっちゃんのお着がえ
「ふむ」
あの服とはどの服を指してるのかが問題だ。
これぞ大和撫子と日本人が納得する振袖なのか、
色香で天国に導きそうな花魁風か、
大正時代に流行ったハイカラスタイルか、
祭りと花火を楽しむ浴衣か、
こんな所で着ちゃってるんですか!? と、正気の沙汰とは思えない重そうな十二単か。
私は戦闘に向いてそうなハイカラスタイルを推す。
想像してみよう。
季節は春。赤いリボンで髪を束ね、桃色の着物にベージュの袴、
茶色のブーツを履き刀を構えるさっちゃん。
「参ります!」 と覚悟を決めモンスターに立ち向かう。
一閃。
桜の花びらが舞う中、さっちゃんは鍛え上げた技を使い、
一撃でモンスターを屠るのだった……完。
さっちゃんさんかっけー!
やはり刀と美少女の組み合わせは絵になるな!
その時のために、鋼鉄を豆腐同然に斬れる名刀を準備しておこう。
好感度爆上げ妄想をこのまま展開していってもいいのだが、
彼女達を長時間見続けならがの妄想をすると
あらぬ疑いを持たれてしまうため、ここまでにしておこう。
「日本といえば、侍、忍者、芸者、寿司、富士山だ。
さっちゃんは日本の美が好きなのかもしれないね。
アプリで調べたらどうやらこのモール内に呉服屋があって、
購入以外にもレンタルができるらしい。
彼女達はそこで和服を借りてるのだろう。あんみつを食べたら行ってみようか」
「うん!」
私は黒糖白玉あんみつを、さっちゃんは抹茶あんみつを注文し、
冷たくて甘い幸せな味を満喫した。
気分を取り戻したさっちゃんは、呉服屋に行く道のり、
私の手を握り嬉しそうにブンブンと振りながら歩く。
その気持ちがこっちにも伝わってきて、買い物の楽しさを共有した。
呉服屋に着くと綺麗な着物がいくつも展示されていた。
色鮮やかで繊細な模様は見る者を惹き寄せる。
現に外国人旅行者が歓待の声を上げており、店内は英語で賑やかだ。
「店員さん、この子が着れるサイズの普段着用ってありますか?」
展示品を眺めあれこれ悩んでも、私の美的センスは当てにならないので、
さっさと店員に聞いたほうが早い。
店員は笑顔で応え、私達を畳の間に案内した。
「普段着となりますとこちらの商品になります」
そういうと店員は数点の着物を選び持ってきてくれた。
あまり派手さはなく、落ち着いた色。軽い素材で作られていて安そうだ。
身を守れる防御力はなさそうだし相手を威嚇する装飾もない。
戦闘には不向きだな。
「う~……」
どうやらさっちゃんも同じ気持ちになったようだ。
首を傾げ悩ましい声を出している。
店員も気持ちを察したのだろう。
「少々お待ちを」と一声残し違う着物を探しに行った。
ふむ、これは私の要望を通せるチャンスか?
着物と袴のハイカラスタイルを見てみたい。絶対似合うと思うんだが……。
しかしいつも私が選んだ物は「個性的ね」だとか
「失敗作を買ってきたの?」なんて言われるからなぁ。
初めの一着はさっちゃんに選んでもらって、二着目に勧めるのが手堅いところだ。
だが次に店員が持ってきた着物を見て脳天に衝撃が走った。
「なッスカートだと!?」
「はい。こちら和と洋の合作。着物ドレスでございます。
ロリータファッションにどことなく似ており、現在! 大変!
人気を集めております……ッ!
さらにこちら、昨年の優秀作品に輝きました一級品!
日常で着る着物とは別に、大事な式典にご出席される場合や、
メディア出演される際にいかがかとお持ちしました。
近々お入り用ではございませんか? 時渡先生」
「……これは驚きました。名乗ってませんでしたがよく私だと気づきましたね」
「このモールは規模が大きいので度々テレビ取材が入りまして、
芸能に明るいほうがウケがいいのです」
「なるほど、たくましい商売魂ですね」
大々的に宣伝をした効果がしっかりと出ているようだ。
このまま知名度を上げ続ければ、目的である政治家たちの耳に入り、
接触する機会が訪れるだろう。
その時まださっちゃんが一緒にいるようなら
ドレスも必要になるかもしれないし、買っておくのも手か。
それに商売のために幅広く知識を得ている姿が気に入った。
「良い着物ドレスですね。私は気に入りました。
さっちゃんはこの着物ドレスどう思う?」
正直聞かないでも返事は分かっている。
着物ドレスが出た瞬間「かわいい」と言っていたし、
今も手に持ってうっとりしている。
欲しいと思っているのは間違いないが一応確認は大事だ。
「この服……超欲しいーーー!!!」
超が付くほど気持ちが昂っていたようだ。
私とさっちゃんの気持ちが合致、なにより店員のお墨付きもある。
「ではこれを買いましょう」
即決だ。
私は財布からブラックカードを取り出し支払いを済ませた。
☆☆☆
「お買い上げありがとうございました! またのご来店お待ちしております」
店先で店員が深々と頭を下げて私達を見送る。
一足先に店外に出たさっちゃんは、新品の着物ドレスを着て
クルクルと回り、浮遊感を楽しんでいる。
髪、袖、リボン帯、スカートが動きに合わせ踊る。
このかわいさは、そう、フィギュアスケートの氷上の妖精にそっくりだ。
こんなすばらしい光景を見れたのだ、店員に勧められるがまま
購入したほかの四着も早く着てみてほしいものだ。
気持ちのいい接客にのせられ、財布のクチがガバガバに開放されてしまい、
当初予定していた数以上に購入してしまったが、満足のいく買い物だった。
高級品と手荷物になるからという理由で、送料無料で
届けてくれるサービスもしてくれたしな。
「ねえねえ、見てあの子。すっごいかわいいー」
「ワオ! リトルゲイシャ! ベリーベリーキュート! フォオオゥ」
妖精のワルツに引き寄せられた観衆から口々に称賛の声が上げる。
フフ、そうだろ? 最高だよな?
お、スマホで写真を撮ってる人がいるな。
私も額にある『賢者の石』とスマホで同時撮影をしなくては。
そんな感じでしばらく堪能していたのだが、異様な雰囲気を感じて
さっちゃんも恥ずかしくなったようで、私の足にしがみつき、
妖精のショーは終わった。
人だかりは散り散りになるが、その中から最前列で
興奮気味に写真を撮っていた、四十代くらいの金髪外国人男が
近づいてきて声をかけてきた。
「エクスキューズミー、ミスター!
トテモカワイガールネ! ミートケコンオーケー?」
…………あー……と。なんだこいつは。
内容はともかくがんばって日本語を話してくれた努力は認める。が、
年齢の壁をがんばって突破しようとする姿は認めない。
「イエス! ロリータ、ノー! タッチだ。
子供を性の対象として見るな変態野郎。ゲットアウトッ」
少しだけ殺気を混ぜた返答をすると、男は身震いし
股間を抑え「オゥノー……ジーザスッ」と叫び逃げていった。
ゴブリンが逃げ出すぐらいの弱い殺気も受け止められない
ザコが、さっちゃんと釣り合うわけないだろう。
しかしこんなにも堂々と小児性愛者が
出没するとは思いもしなかった。
日本やばい。
予定にはなかったが、さっちゃんに防犯ブザーと子供用スマホを持たせたほうがいいだろう。
地図で調べると、やはりモール内に携帯ショップがあった。
防災訓練の時間までには間に合いそうだ。
そう考えた私はさっちゃんと手をつなぎ、足早で向かうのだった。
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