100年前の大戦編28 学習する蛇
「魔法陣始動 」
担当の5人の魔法官が復唱し、巨大な魔道具に手を当てて魔力を流し込む。
ガタン、ガダン……
魔道具の円盤が回転し動作を開始した。
「さて、これで動きが止まれば良いのだが……」
シャードと幕僚達は大蛇の様子を伺う。
大地が揺れ、光の点が地面に現れる。光の点は地面を走り曲線から円を、枝分かれし直線から複雑な文様を描き出した。
完成と共に眩い光を放った魔法陣。大蛇の身体を半分以上が魔法陣の円上にある。
ドガーン!!
突如、魔法陣の一角が轟音を上げて爆発した。
ドガドガドガーン!!
続けて爆発が連鎖する。大蛇の下の地面も爆発し、大蛇が軽く浮き上がる。その周辺も誘爆されたかの様に爆発を繰り返した。
ランティ班は森の中から大蛇の様子を見ていた。あらかじめ、第1次警戒線より先に出るなとは指示を受けている。
「ひゅ〜っ、話には聞いていたけど、あの爆発に巻き込まれたらヤバかったね 」
シーフのフィフが軽口を叩いてヴァルグを見た。
「ただ大蛇にどれほど効いているのか?俺には余り効いて無いように見えるぞ。なぁ、ランティ 」
「ま、あの大蛇の突進が止まれば御の字だ。あの突進で城にぶつかったらヤバそうだからな。第1次警戒線を超えて来たら我々の出番だぞ 」
皆が黙って頷いた。
ドガドガドガガーン!!
魔法陣上が爆発の連鎖を続ける。大蛇の下の地面も次々と爆発して大蛇を軽く浮かせる。効いているかはわからないが、大蛇の進行は完全に止まった。
フロンテ城主シャードと幕僚団は、魔法陣上の大蛇の様子を観察していた。
「参謀長、どう見る? 」
「残念ながらダメージを与えているようには見えませんな。ただ突進を止める事が出来たのは良かったですな 」
「うむ、騎士王様から話は伺っていたが、桁違いの化け物だな。数万の魔族を屠って来た魔法陣でも、ここまでか……」
「シャード様、魔法攻撃を再開されますか? 」
「うむ 」
「第2魔法部隊、前に!! 」
第1魔法部隊が下がり第2魔法部隊が前に出る。
「第2魔法部隊、撃てーっ!! 」
300人近い魔法使いが、それぞれの最大魔法を放った。解き放たれた魔法は大蛇に激突する。
地面からの魔法陣による爆発と、魔法使い部隊の魔法攻撃によって爆炎と砂煙に塗れる大蛇。
シャードと幕僚達は大蛇の様子を注視する。
ドガガン!!……
魔法陣が光を失い活動を停止した。風に舞う砂煙の中から大蛇が現れる。ゆっくりと周りを見渡して後、再び前進を開始する大蛇。
そこに左右の森の中から人影が走り出す。大蛇は左右の目で人影の動きを追って、自らの右手から駆け寄る集団に狙いをつけた。
猛烈な勢いで大きな口を開けて飛びつく大蛇に、魔法剣士ヴァルグと魔導士デクストが立ち止まり魔法を放つ。
「深紅の火!!」
「烈火!! 」」
二人から発せられた炎魔法は、大蛇の口の中で一瞬で消えてしまう。唖然とする二人に大蛇の大口が迫る。
ドドーン!!
大蛇が二人を飲み込んで大地に激突した。
「ヴァルグーッ!! 」
フィフの悲痛な叫びが響き渡る。
「あぁ……何て事だ…… ヴァルグが……ヴァルグが……」
力を失って跪くフィフの肩に手が置かれた。
「大丈夫だ。あっちを見てみろ 」
フィフはランティの指差す方を見ると、ヴァルグとデクストがふわふわと宙に浮いていた。
「ヴァルグ達が宙に……」
「風の八賢者ブリーズ様の支援魔法だろう 」
ヴァルグとデクストは少し離れた場所に着地をする。
「私の心配もして欲しかったですな 」
デクストは頬を掻きながら呟いた。
「すまん。フィフとは幼馴染でな。俺が食われたと思って余裕を失ったんだろう 」
「冗談ですよ。しかし我々の極炎魔法が口内で一瞬で消えたのは解せませぬな 」
「確かに……ナレジン様の紅炎には及ばぬが、デクスト殿の烈火は高位、俺の魔法も中位の最上級だ。一瞬で消えるとは、どういう事だ? 」
「まぁ、追い追い理由は詰めていきましょう 」
デクストがそう言いながら、大蛇を見ると大蛇は次の獲物を見定めたようだった。
ナイト班のジーンとフラット。フロンテ城主シャードが頭脳派であり前線に出る事はあまり無いので、前線部隊を率いてきた将軍格の2人である。破壊力に長けた戦闘狂と恐れられるジーンと、撤退戦や防衛戦に長けたフラットのコンビは数多の魔族の襲撃を撃退して来たのだ。
しかし、今回ばかりは相手があまりに巨大過ぎた。
大蛇は遥か先の尻尾を地面にガンガンと叩きつける。地面が大きく揺れ続けて、前衛のみならず城内も大きく揺れる。
態勢を崩したジーンとフラットに向けて襲いかかる大蛇。八賢者ブリーズが風で二人を逃すのを追撃する。
「しつこいわい!! 」
ブリーズは必死にジーン達を逃すが、追撃する大蛇。そして自らの巨体で城からの視線を目隠しした大蛇は、急に角度を変えて城からの死角にいたエイド目掛けて襲いかかった。
急な変転と地面の揺れで対応が出来ないエイドが、飲み込まれるかに見えた瞬間、
上空から急降下するナレジンから放たれたナイトが、大蛇の頭に勢いよく衝突した。
「秘剣!震天の擲穿!!」
ドガガガガガガガガーーン!!
天地を震わす衝撃音が響き渡る。
衝撃で頭を勢いよく下げる大蛇に、大きく弾き飛ばされるナイト。ナレジンは大きく弾き飛ばされたナイトを掴んで飛び去った。
頭を下げた大蛇の口の両端から毒液の涎がしたたり落ちる。
ヴァルグとデクストは、自らの極炎魔法がすぐに消えた理由を理解した。大蛇は毒液を口内に溜め込んで炎対策をしていた。この大蛇は学習しているのだ。