100年前の大戦編27 迎撃準備
大蛇接近の鐘が鳴り響いた。
前衛部隊はそれぞれの待機場所に向かう。先陣はナイトの班とランティの班。ナイトの班は城の左手の森に、ランティの班は右手の森に向かった。
後詰めの第3陣のリアム班、第4陣の騎士王班も城壁に集まり様子を伺う。まだ大蛇の巨体は見えない。
ナレジン、イルスは、この城で合流した八賢者ブリーズと作戦について話し合っていた。飛空魔法を使えるのはこの3人のみ。前衛の命綱である。
八賢者ブリーズは御歳108歳、風魔法を極めた八賢者の最長老だ。膨大な魔力を誇るが、体力的に、接近戦も長期戦も無理と判断されて、この城の防衛に当たっていた。
「ふぉっ、ふぉっ、儂は基本的に城内で風魔法での前衛のフォローでいいんじゃな 」
「うむ、ブリーズ様は城内でフォロー、儂が先陣のナイト、ランティ班と、イルス殿が後陣のリアム班、騎士王班と共に戦う。しかし、我らだけでは全てに対応は出来ぬ。ブリーズ様の風魔法で皆を助けて欲しいんじゃ 」
「ふぉっ、ふぉっ、了解じゃ 」
ブリーズは杖を持つ細い手を震わせながら、大きな声で答えた。
城の左手に位置する森ではナイト班の5人が戦闘準備を整えつつあった。
リーダーは騎士王国の騎士、ナイト カンファー 28歳。平民出身ながら数多の戦場を戦い抜いた強者。近年は大魔導士ニトラル、結界の賢者リヤと共に魔族領内での活動で功績を残している。先の戦いでは大蛇に強力な一撃を与えた。
副リーダーは騎士王の従者であり、最側近のエイド。騎士王とは幼少の時より共に歩んで来た親友でもある。今回は後衛の指揮をフロンテ城主に任せて、ナイトと共に戦う事になった。魔法剣士として様々な魔法を使いこなすAランクの戦士である。
3人目は、エルフの戦士ナーシュ。エルフの長リアムの元で親衛隊長を務めている強者。先の大蛇戦でのリアムの活躍により、各班にエルフのAランク戦士が配置される。
4人目と5人目は、フロンテ城の騎士ジーンとフラット。魔族と人族の境界であるこの城を守り続けて来た歴戦の勇士である。ジーン、フラット共に槍の達人である。
5人は最後の調整を進めていた。
一方で右手に位置するランティ班。
リーダーは義勇兵のSランク勇者ランティ。無限流剣術の高弟であり、当代最高の剣士の1人と名高い。大魔王エタールとの決戦において、海千山千の強者を率いる義勇兵のリーダーに選ばれた事からも、若いながら強さだけではなく人望も厚い事が窺いしれる。
副リーダーは、エルフの副官サーバンツ。リアムが前線に出た時は代わりにエルフ部隊を率いた。幅広い視野と豊富な知識で高い指揮能力を有するが、個人としての戦闘能力も非常に高い。
3人目はランティのパーティの一員であるシーフのフィフ。攻撃力は高くは無いが素早さと持久力において一級の能力を持っており、器用さを活かしてアイテムなどを使用して牽制に当たる予定だ。
4人目もランティのパーティの一員である魔法剣士のヴァルグ。先の大蛇戦では後衛に回されたが、今回はシーフのフィフと共に志願した。中位の回復魔法と中位の攻撃魔法を各種使いこなす事により、あらゆる戦場での対応に優れた万能型剣士である。
5人目はナレジンの弟子の魔導士デクスト。元拳士でナレジンに才能を見抜かれて弟子となった為に体術に優れる。拳に魔法を載せたり特殊な戦い方に優れる。エタールとの決戦後の撤退戦では別ルートを選んだ為、この城での合流となった。
フロンテ城は、魔族領と人族領の境界を守る城である。故に防御機能と索敵機能に優れている。フロンテ城主シャードはこの城を任されて20年。幾度にも渡り魔族の進行を防いで来た。
その理由は彼のモットーからわかる。彼のモットーは「細心に細心を重ねる 」である。
結界魔道具の増強や索敵魔道具の大量設置などを20年に渡り続けて来た。常にリスクを上回る備えを準備して来たのだ。
シャードは城壁の上で幕僚達と戦いに備えていた。
「シャード様、そろそろ大蛇の姿が見えますぞ 」
魔法の索敵盤を監視している魔導士が報告をしてくる。彼の声からも緊張が伝わる。
「予想より早いな……第1魔法部隊と魔導砲撃部隊は遠距離砲撃準備 」
シャードは魔法部隊を6班に編成して、交代で攻撃をする準備を整えていた。城壁に設置された魔導砲は初手全力で一斉攻撃をする作戦だ。
大蛇の巨大な頭が水平線上に現れる。この距離でなんて巨体だ。化け物め。シャードは幕僚に指示を出す。
「魔導砲撃部隊、撃てーっ!!!!」
ドンッ!!ドンッ!!と絶え間無く砲撃音が響き渡る。100を超える魔導砲が一斉に火を噴いた。
大蛇に激突して爆炎が捲き上る。大蛇は巨大だ、外しようが無い。ドンドンと着弾し爆炎が捲き上る。
「大蛇、スピードを緩めません!! 第3次警戒線が突破されます!! 」
魔法索敵盤の監視員が悲鳴じみた声を上げる。
第3次警戒線は城から4km地点、第2次警戒線は2km地点、第1次警戒線は1km地点に設定してある。予想より早い。大蛇の動きが加速している。
シャードは参謀長と頷きあう。作戦通り魔法攻撃を開始するしかない。
魔法砲撃担当の幕僚が大声で叫ぶ。
「第1魔法部隊、撃てーっ!! 」
200人を超える魔法使いが一斉に長距離魔法を放つ。炎熱、爆撃、氷撃、雷撃、光撃などの全力で放たれた魔法が、轟音を立てて大蛇に激突し爆炎を上げる。
魔法砲撃と魔法が爆炎を上げながら大蛇に突き刺さっている。突き刺さっているはずだが大蛇の動きは止まらない。更に加速する大蛇。
「だ、第2次警戒線突破されます!! 」
爆炎を巻き上げながら突進して来る大蛇。
前に出て来る参謀長。
「スピードが緩まないと前衛も近づけませんな。アレを使わざる得ないと思われます 」
シャードは頷く。
この城を任されて20年。私が任される前は何度か陥落した事がある境界の城。私になってからも幾たびも魔族の大群の進行を受けた。その全てを撃退出来たのは理由がある。
「大規模迎撃 魔法陣を始動させよ 」